第一話 睡無マナ
魔法使いが存在する、そんな事実が不思議でもなんでもなくなった世界。
人は体内に魔力と呼ばれる力が宿るように進化し、その力を原料に魔法を扱うすべを身に着けた。
そして、どんな小さな子供でも魔力がある以上は魔法使いとして輝く事が出来るのだ。
そう、どんな小さな子供でも・・・・・・・。
日本の地区は時代の流れで変化し、今ではアルファベットで表記されるようになり、その区間数は全部で二十六となっていた。
そして、魔法に関しての基礎的な知識は中等部時代でおおよそ学ばされることとなるが、幼いとはいえ魔力を持って生まれる以上、小さな頃から魔法に関する多少の知識は持っておくべきだという魔法誕生後の教育制度の元、小学生時代から魔法に関して多少は触れていく事となっている。
そしてここ、E地区の小学校、学校名は〝星空学園〟という学校名の小学校でも魔法に関する教育を子供達は受けていた。
「~~~~~~という訳で、この世界には魔力という未知の力が発見され、そして――――」
教室の壇上で魔法の誕生過程についての講義をする教師。
生徒達の大半は話半分で聞いていた。魔法という力に興味はあるが、このような小難しく、その上長ったらしい話はやはり小さな子供では退屈してしまうのだ。
それも話を聞いているのは小学三年生の子供達ならば尚更だろう。
しかし、そんな中一人の少女は楽しそうにそんな講義を聞いていた。
彼女の名前は睡無マナ。瑠璃色の髪をした可愛らしい女の子だ。
マナは魔法使いに憧れているところがあった。
その理由は自分を助けてくれた二人の高校生に憧れを持っていたから。その二人は魔法を学ぶ学園、アタラシス学園と呼ばれる学園に所属している。そんな二人の様になりたいと思い、彼女はこのような退屈な授業でも聞き漏らさぬように聴いていた。
「(魔法・・・・マナにも魔力があるから使えるんだよね。魔法を使うってどんな感じなんだろう)」
頭の中で自分がきれいな魔法を使っているイメージをするマナ。
その顔はとても楽しそうなものであった。
授業が終わり、マナはクラスの同じ女子グループと固まっておしゃべりをしていた。話の話題については魔法についてだ。
「マナちゃん、さっきの授業、凄く楽しそうに聴いていましたね」
「本当、何が面白かったんだか?私なんか寝ちゃってたぜ」
マナと会話をしている女子生徒二人。
ピンク色の髪をしている丁寧口調の子は川辺モモ。
黄色の髪をしている男口調の女の子は郷土セラ。
マナとよく一緒に居る生徒で、三人は仲良しグループとクラス内では言われている。
「あはは・・楽しそうに見えたのはマナが魔法を使えたらどんななのかな?って考えていたからだよ」
「な~んだ、授業を真面目に聴いてたわけじゃないのか。まっ、つまんなかったもんな」
そんな他愛のない話に花を咲かせる三人。
すると、クラス内でなにやら騒がしい声が聴こえて来る。
「なんだよお前、こんな落書き書いて!」
「う、うるさいわね!絵の練習よ!」
「こんな落書きしか書けないのに漫画家になるとか、ぷぷっ!」
「おいおいケンちゃんひでーよ!あはははっ!!」
目を向けると、三人組の男子が女子生徒の書いていた絵を見て大笑いしていた。
この三人組はクラスでもよくこのように色々な生徒へ嫌がらせを働いている。実は以前、マナもその被害を受け、そして泣かされていた。
だが、それは過去の話。今では・・・・・・。
「・・・・・・」
マナは会話の途中、無言で席を立ち三人組へと歩んでいく。
その後ろでは友人二人は「あ~あ」という感じの顔をしていた。
「ねえ、三人共」
「げっ・・な、何だよ睡無」
マナの登場に三人はたじろぐ。
かつてはいじめていた標的の一人に過ぎなかったその女の子だが、今は違った。
「恥ずかしくないの、一人の女の子相手に?」
「ぐっ・・うるせーな!お前には関係ないだろ!」
「関係あるよ。同じクラスの人がこの教室でいじめをしている。そんなの間違ってるもん」
マナの言うことは正論。
だが、それ故に男子達も腹が立ち、ついつい関係の無いマナに強く当たる。
「ぐっ!うるさい!」
――どん!――
男子の一人がマナの体を強く押した。
だが、負けずにマナもその男子のことを強く押す。
――ドンッ!――
「うわっ!?」
勢い良く押され尻もちを付く男子。
マナは地面に倒れた生徒の向けて大きな声で言った。
「どう、こんな風にやり返されたらいやでしょ!三人がもし同じ様に嫌がらせを受けても平気な顔をしていられるの!」
マナの迫力に男子達は何も言い返せず、すごすごと引き下がる。
そして、いじめられていた女子生徒はマナに近づき感謝する。
「ありがとう睡無さん・・・・」
「ううん、いいよ。漫画家になるの頑張ってね」
マナはそう励ますと友人たちの元へと戻って行く。
戻って来たマナにセラが声を掛けて来た。
「お疲れ、相変わらず勇気あるなお前。今までいじめられていた奴とは同じ奴と思えないぜ」
「あはは、前までの私って泣き虫だったもんね」
少し情けなさそうな顔で力なく笑うマナ。
そこには先程の迫力は一切感じられなかった。
「やっぱり、マナちゃんが変わった切っ掛けは、前に話してくれた夏休み中の人たちとの出会いにあるんですか?」
「うん、泣いている私を励ましてくれて、そしてこう言ってくれたの」
『怖がってちゃ先には進めねぇよ。心の中でたとえ震えていても自分の本心を口に出し叩き付けてやれ』
今でもはっきりと覚えている。
あの人が言ってくれたこの言葉。今までの自分の殻を脱ぎ捨て、新たな一歩を踏み出すきっかけを与えてくれた勇気ある言葉。
マナの言葉を聞き、セラが笑いながら言った。
「いや~、良いこと言うよな。そのオッサン」
「オジサンじゃないよ!?高校生!!」
「分かってるて~、ただの例えだろ」
「どんな例え方したらオジサンにいきつくの!?」
「ふふふふ・・・・」
恩人をオジサン呼ばわりされた事に怒るマナ、そんな彼女をうっとおしそうに諌めるセラ。そんな二人のやり取りを見て口元に手を当てて小さく笑うモモ。
こうして、仲良し三人組はいつも通り良好な関係をクラス中に見せていた。
「もう、セラったら・・・・オジサンはないでしょ」
学校の帰り道、マナはセラの言っていたことを思い返しながら、ぶつぶつと文句を言って帰宅していた。
セラに対する僅かな怒り、まあ怒りと言っても本気で怒っている訳ではないのだが、取りあえずそのことは置いておき、マナは今日の魔法に関する講義の事を想い返していた。
小学生時代では魔法に関する授業数は少ない。それ故にマナは学校で行われる魔法絡みの事は強く印象に残る。
「魔法使いか~。どうせならアニメみたいな可愛い服を着て変身する魔法使いになりたいな~、なんて」
そんな事を言いながら、彼女の頭の中では再び自分が魔法使いとなった時のイメージが展開される。
いつかこんな風に・・・・そんな事を考えながら歩くマナの表情はまたしても楽しそうなものであった。
「ふふふ♪」
軽やかな足で家まで帰るマナ。
この時、彼女は予想もしていなかった。
自分がイメージした魔法使い、それがまさか現実の物となるなるなんて・・・・・・。