第十話 魔法の確認
友人の紛らわし過ぎる出来事にツーとは違い疲れた様子のマナ。
彼女は家に帰ると盛大にため息を吐いて、居間の方で寝っ転がった。
「あ~~、セラの早とちりで疲れたよ~~」
寝そべって天井を眺めるマナ。
その隣にツーが並んでちょこんと座る。
「セラの言っていた様に心でも読める魔法があればこんな苦労しないのに」
何気なくそう呟いたマナ。
だが、その言葉にツーが反応を示し、そして何かを考え出したようで、口元に手を添える。
「マナ、一ついい?」
「え~、なに~~?」
「今ふっと思った事なんだけど、マナって魔法が使えるよね」
「うん、そうだけど・・・」
「どういう魔法なの、マナの魔法って?」
「え・・・・」
今更な疑問だと思うが、カネとの戦いで使用していた技といい、変身したあの恰好といい、マナの魔法は謎の部分が多い。特に最後に見せた巨大なクマのぬいぐるみなど正直ツッコミどころが多すぎる。
ツーの疑問にマナは少し困った様な顔をする。
「う~ん、私もよく分からないんだよね・・・でも、あの姿や魔法は私が魔法使いになったら使ってみたいとよく考えていたものなんだ」
「考えていた?」
「うん、こんな魔法があったら面白いかなとか考えながら」
「(もしかして・・・・・)」
マナの言葉を聞きツーの中にある考えが浮かんだ。
だが、もし彼女の魔法が自分が考えている様な類の物だとするならば、彼女の個性の力は正直反則めいていると言っても過言ではない。
彼女の個性についての考察をしていると、今度はマナの方がツーへと質問して来た。
「ツーちゃんの個性は前に教えてもらったけど〝水〟を操る物だったよね?」
「うん」
ツーは自らの腕を透き通った液状に変化させる。
腕の形をしている液体は形状が変化し、鋭く尖った刃物の様になる。
彼女の個性は〝水〟を操る物である。
個性使いの中には同じように水や液体の類を操る魔法使いは他にもいるだろう。しかし、ツーの力はそんな者達よりもさらに高位の力である。なぜなら彼女は魔力を巧みに操る事により、自らの肉体すらも液状へと変化させたり、それを魔力で固める事もできるのだ。
今、マナに自らの腕を透明な刃物の様にして見せているのも彼女の力だ。水には定められた形は存在しない。故に、このように鋭利な武器を作り出す事もできるのだ。
「わ~、前にも見せてもらったけど凄いね!」
「そう?」
ツーは腕を元の状態へと戻す。
誰かを泣かせる為、傷つける為に作り出された力であったが、こうもキラキラとした目で見られると少し戸惑ってしまう。
そんなマナを諌めてツーが再びマナの魔法について、自分の考えている通りなのかどうかを確かめる為、彼女により一層の追及をする。
「マナが個性を発現する前、他にもこんな技が使えたらいいな、とか考えていた?」
「うん、いくつかまだ候補はあるけど・・・」
マナの言葉を聞き、ツーは彼女に言った。
「マナ、空き地に行こう。そこでマナが考えていた魔法を使ってみて」
マナとツーは空き地まで移動し、そして今はマナはツーの言っていた通り自分の考えていた魔法を試し打ちしている。
そして、ようやくすべての技を見終わった。
「やっぱり・・・・・」
マナ使用した魔法を全て見てみたが、彼女の魔法には一貫性がないのだ。
彼女の使用した今の技を全て見て、特定の性質が色濃く出ているものがない。
だが、これはツーの考えをより一層裏付けていた。
「・・・マナ、多分だけどマナの個性がどうゆうものか分かった」
「えっ、本当!」
「うん」
彼女は自分の考えをマナへと聞かせた。
それを聞き、なるほどと納得するマナ。
「じゃあ、私の個性は・・・」
「うん、マナの個性・・・それは――――」
E地区とF地区の境界、E地区の入り口前となる場所に二人の人物が車に乗って移動していた。
一人は金髪に縦ロールの髪型をしたスタイルの良い女性、そしてその隣に小さな黒髪の少年が座っていた。少年の左眼には眼帯が付けられている。
「J地区にはもういなかったわね・・・あなたの妹さん」
「違う、妹なんかじゃない。俺より後に作られた同種、生物兵器だ」
少年は冷めた目をしながら隣に居る女性の言い方を訂正する。
そんな少年に女性が小さく笑った。
「素直じゃないわね」
「別に、事実を言っただけだ」
少年はプイッとそっぽを向いて車の窓から流れる景色を見る。
そんな少年に対してため息交じりに女性が今から行くE地区についての情報を話す。
「今から行く地区内に居ると噂らしいわよ、あなたの妹さん」
「だから妹じゃないって言っているだろ」
二人を乗せた車はE地区内の境界を越え、二人はE地区内へと入って行き、車を走らせて行く。
空き地から戻り、家へと帰って来たマナとツー。
二人が家に戻ったそのすぐにマミが帰って来て、夕飯の支度を始める。
夕食を作っている間に二人はマミから先に入浴を済ませておくように言われた。
「ふぅ~~生き返る~~」
浴槽の中でそう呟くマナ。先程空き地で魔法をたくさん使用した事もあって、少し疲労がたまっていたマナは体内の魔力が少しづつ回復していっている事を感じた。
もう一方のツーは浴槽から出て頭を洗っており、髪の毛についたシャンプーをシャワーで洗い流すと浴槽の中に再び入って来た。
彼女が再び浴槽に入って来た事に疑問を感じるマナ。小学生の様な小さな子供とはいえ、二人も一つの自宅用の浴槽に一緒に入るのは正直狭く感じる。
「ツーちゃん、出ないの?」
「もう少し・・・・・」
思えば自分たちも随分と距離が縮まったものだ。
最初は会話もほとんどなかったが、今では共に入浴すらするようになっているのだから。
すると、なにやら視線を感じてツーに視線を向けるマナ。
「じ~~~~」
「な、何、ツーちゃん?」
何やら自分の事、というよりも自分の胸の辺りを見ているツー。
さすがに恥ずかしくなってきて、何故見つめているのか理由を尋ねる。
「マナ・・・私より大きい」
「えっ! い、いや、そんなことないよ!!」
「でも・・・」
――ふにぃ――
「きゃう!?」
「やっぱり大きい・・・」
「ちょっ、ちょちょちょ!?」
「あら・・・・」
台所で夕食を作っているマミの耳に浴室からにぎやかな声が聴こえて来る。
――やっぱり、大きい――
――や、やめてぇ!――
二人の娘の楽しそう(?)な声を聴き、小さく笑みを浮かべるマミ。
ツーがこの家に来てからより賑やかとなった睡無家。そして、年相応な少女の様に振る舞う様になってきたツー。
どうやら、自分が彼女をこの家へと誘ったのは間違ってはいなかったようだ。
「二人共、そろそろご飯が出来るわよ~、遊んでいないで早く上がってきなさ~い」
「「は~~い」」
浴室から二人の返事が返って来る。
マナは完成した夕食を器に乗せ、机の上へと並べていく。
「お母さん、上がったよ~」
「よ~」
マナとツーが居間の方へとやって来た。
そんな二人にマミが言った。
「ご飯できたわよ。さあ、食べましょう」
三人共揃ったので、各自自分の席について料理の前で手を合わせる。
「「「いただきます」」」
そこには、とても温かな家族団らんの光景が広がっていた。




