絶望
ブラックジョークです。短いのでササッと読んで下さい。
セイタは生まれながらにして不幸だった。幼い頃に父親を亡くしたため暮らしぶりはつつましく、同年代のクラスメイトが遊ぶオモチャやテレビゲームは持っていないし、本やマンガだって無い。生まれつき病弱なので野球やサッカーなんてもっての他、外で遊ぶ事も出来ずに小学校から帰ると静かにテレビを見ている毎日。しかし、もっと不幸な事に、彼の「ミテクレ」は最悪だった。痩せているせいでギョロ目が強調され、眉毛がカモメの様に左右繋がっており、親指が入りそうな広がった鼻の穴、そして出っ歯。身長が小さい上に猫背が重なり、五年生なのに低学年と間違われる事もしばしば、気の毒に尽きる外見、彼を初めて見る人は必ず負の感情をいだく。
クラスの女子は露骨だ。隣の席の女子は席替えの次の日から不登校になり、同じ係りに選ばれた女子は崩れ落ちる様に泣き出し、全てはセイタが悪いので謝れと3m離れた所から口に手を当てながら非難され、理不尽な謝罪を強要された。男子は比較的同情的だが、皆心の中では彼の事を「不幸」と呼んでいた。
常にバカにされ、友と呼べる人は居らず、大した楽しみも無い毎日、でもセイタは腐らなかった。なぜなら幼い頃に観たアニメが彼に強い影響を与えていたのだ。
主人公は不細工でドジで頭も悪く、常に回りからバカにされていた。しかし、肉体だけは強かった、いざ敵が現れると全力で向かって行き、自分をバカにした人々さえもボロボロになりながら守り抜き、そして必ず最後には勝つのであった。当時大流行したそのアニメ、セイタも漏れなく虜になり、体が弱くても気持ちだけは主人公の様に強く、誠実に有りたいと心に誓っていた。
月日が経ってもセイタを取り巻く環境は変わらぬままで、中学、高校と進み、相変わらずバカにされながらひっそりと暮らしいたある日、セイタは本屋の帰り道に踏切で電車の通過を待っていた。ふと視線を落とすと線路のレール脇にうずくまる犬が見えた。このまま電車が通過すれば犬は完全に轢かれてしまう。回りの人達も気付き初め、ザワ付きが悲壮な声に変わって行く、電車は警笛を何度も鳴らしながら近づいてくる、セイタは鼓動が早くなり汗が全身に吹き出した。サラリーマンが遮断機を揺らしながら叫び、お婆さんは念仏を唱え始め、母親は子供の目を覆い、セイタは線路に飛び出していた。
「気が付いたか?」
「?…、あのー…」
「君はセイタと言う人間の魂だよ」
「…よく解りません…」
静寂と明るいモヤに包まれ、ここが何処なのか、どっちが上か下か、自分の存在すら理解出来ない空間にセイタの魂はいた。
「ここはいわゆる天国で私はいわゆる神と呼ばれる存在だ、ここに来る奴は死ぬ前の事をあまり覚えていないから私が何を言っているか理解出来ないし、どうでも良いがね」
神様は坦々としゃべる、恐らく何度も同じ説明を繰り返して来ているのだろう、とても事務的だ。
「さてセイタ、お前は死ぬ前に良い行いをしたので次の転生先を選べるご褒美があるがどうするね?」
無論、今のセイタには訳が解らない質問だが神様も承知している、転生とは何か、選ぶ基準や生まれ変わりを事務的に説明してくれた。
「僕はまた人間に成りたいです」
「そうか、他に希望はあるか?美しい女性が良いとか強い男性が良いとか」
「美しいとか強いとかが良く解りません」
「だろうな、念のため聞いただけだ。外見や能力はこちらで適当に決めていいな?まあ人間の好みは複雑で私には良く解らないから色々な要素を盛り込んでおくぞ」
「お願いします」
「ちなみにだが、お前が転生に人間を選ぶのは二回連続だ、前回も適当に容姿を決めたがよっぽど人間生活が楽しかったとみえる。」
稚拙な文章をお読み頂きありがとうございました。
つまらないとかダメでも良いので感想を頂けたら幸いです。