introduction 7
「会えるのを楽しみにしてたんだよ」
葵はそう言いながら自分の背丈よりも長い薙刀を俺に向けた。
「五年待ったんだよ、あの日からずっとね」
葵の周囲に輝く結晶のようなものが舞い始める。川の欄干、葵の足元が徐々に凍てついていく。
「お前と戦うつもりはない。俺は話をしにきただけだ」
「そんなこと言わないでさ、やっと会えたんだから五年前の続きしようよ」
五年前。あの日の殺し合いの続き。
「なにを考えているの。僕は待ってあげないよ。君にそのつもりがなくても、容赦しないから」
葵が冷気に包まれる。周囲が凍てついていく。
「僕のこと憎いでしょ、恨んでるんでしょ、復讐したいんでしょ」
俺は復讐者。この世界も葵も俺の手で壊す。だがそれは今じゃない。今葵と戦えばどちらかが死ぬ。そうなったらこの世界を壊せなくなる。
「今はお前と戦っている場合じゃない。話を聞け葵」
「僕の名前を気安く呼ばないでよ裏切り者。それとも人間をやめた化け物かな」
口元に笑みを浮かべながらも目にははっきりと殺意を抱いている。
紅い刃の柄を握る。殺さなければ殺される。
「君が生きているから僕は罪に縛られなきゃいけないんだ。君がいなければ僕が正義なんだ」
葵が叫ぶ。俺の中で血が沸々と暴れ出していた。理性が、化け物に喰われようとしていた。
「君を殺して、あの日を終わりにする」
「俺はまだ死なない。この世界を壊すまでは、死ねない」
約束を果たすまでは、死ぬわけにはいかない。
風が吹き氷の結晶を巻き上げる。俺たちは同時に地面を蹴った。