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第4話「本性」


 宮内部隊第二陣の突入で、玄方の尖兵は全滅。決したかに見えた戦局は、しかしその後も二転三転した。

 ユウトとアキミが咒素を交える傍ら。ネツキは抱えもある金属製の円筒――目標――を、トラックから運び出すことに成功する。

 だが順調だったのもそこまで。眷属たちの復帰は早かった。


 領域内での展開を捨てた眷属たちは、特性のひとつである変化を解除。雄獅子にも似た四足獣の姿へと戻ると、反撃に転じたのだ。

 領域内で仕留めることを、端から諦めているのだろう。ネツキへと向かったのは二体。残り二体は、未だ立ち直り切らぬ宮内の尖兵部隊の、その只中へと踊り込んだ。


 一方的な展開だった。

 確かに尖兵には対眷属戦闘を想定した訓練も存在すれば、実戦も存在する。だが尖兵による眷属狩りは、対応した装備と人員を揃えた上、奇襲の形で行われるもの。この様な状況下での遭遇戦など、そもそも想定されてはいないのだ。まして、相手が複数では。

 重火器による応射も、体表に展開された起源がその威力を減じ、致命傷には至らない。どころか、セイレイと同じく咒素をその肉体の基本組成とする眷属だ。通常兵器による損傷など、然したる意味も持たない。

 この時、宮内の装備は対人を基本として固められていたのだ。


 ネツキにも、殺戮されるがままの宮内を、援護するだけの余力はなかった。

 ここは即席とは言え領地。本来の姿であれば眷属ごとき相手ではない。だが今のネツキは影のようなもの。力の本体はユウトにあり、身体は意識を投影するための仮の器に過ぎない。加えて今は余計な荷物を抱えている。

 遅れを取るほど落ちぶれてはいないが、さりとて四体を纏めて往なせるほどではない。

 せめてユウトがアキミを退けるまで。そうなればまた状況は変わる。

 二人の会話が聞こえていなかったわけではない。だがこの期に及んで迷うなど、あろう筈がないと、ネツキはそう思っていたのだ。


 だが現実は違った。

 刃がユウトの胸を捉え起源が弾ける。そして肉と血と骨の入り混じった液体を撒き散らしながら、ユウトはぼろ雑巾のように後方へと吹き飛んだ。

 舌打ちは、須臾(しゅゆ)の間に消える。

 辺りを満たすネツキの領域が胎動した。それは起源の本質の目覚め。凶悪な赤と黒の渦。

 眷属たちが身を翻し領域からの脱出を図る。然しものアキミも、全身に黒い斑を生じさせながら、全力で後方へと飛んだ。


 ネツキの影から赤と黒の異形が飛び出す。それは鋭い牙の並ぶ(あぎと)を大きく広げ、その足場ごとネツキを飲み込んだ。

 咒素の嵐は数秒足らずで止んだ。そこに領域はもうない。在るのはただ、蛇とも百足ともつかぬ、眼のない巨大な怪物。体表から滲み出る咒素は、先ほどの比ではない死臭を含んでいる。

 数十の足で、確かめるように地を鳴らす。

 これこそがネツキの現世での、セイレイとしての本来の在り方だった。

 腕のひとつで側に転がるユウトを抱える。そして十条の咒槍、死を無造作に敵へと向けて射ち出した。



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