第20話「希望」
弾丸の嵐の只中を、ネツキは地を這い、宙を舞い、槍を振り抜き駆け抜けた。
広間に動く影はもう、三つばかりしか残ってはいない。
弾倉の空になった銃を捨て、直刀を手に切り結ぶ亜人の左腕に、肘から先はない。炭化した傷口は、咒素で強引に焼いて止血したためだろう。顔面蒼白で足元もおぼつかない。身体のバランスが崩れているというのに、よくやるものだ。
だがそれもここまで。柄尻を刀身に側面から叩き付ける。衝撃を片手では支えきれず、男の得物は呆気なく弾き飛ばされた。
ネツキの手は止まらない。
頭上で槍を旋回、右肩に振り下ろす。
寸前、身体を捻り背後から迫り来る二本の銃剣を迎え撃つ。柄の上下でそれぞれを払い、そのまま柄尻を後方に突き出す。
鈍い手ごたえと落下音。意識を失ったのか死んだのか、ぴくりとも動かない。
ネツキはカンと下駄を踏み鳴らし、最後の一人から距離を取る。
「お前はどんな夢を見て生きてきたんだ」
「希望ですよ。人の行く末の」
額を伝い目に入りそうになる血を、赤に濡れそぼった袖口で拭いながら、みどりが応える。
先の男ほどではないが、みどりも満身創痍に違いはない。
傷がない所などないと言ってもいい。こと左腕に至っては、肘から先の所々で骨が見えている上に、指は三本しかなく、銃は布で結んで固定してある。
「お綺麗過ぎて、わたしにはぴんとこないぜ」
対するネツキは無傷に等しい。強いて言えば、髪留が千切られたくらい。これは後でユウトにでもせびればいいだろう。
「綺麗じゃないですよ。怨嗟と憎悪に塗れた、血濡れの骸の上に築かれる、そんな希望です」
足元に血の滴を垂らしながら、みどりは笑う。
「骸の塚に名を連ねる、か。酔狂なことだ」
嘲りを口にするネツキだったが、胸の内は逆だ。その一途さをネツキは認めていた。
みどりに従って血の海に沈んだ者たちも、同じ希望の下、死地へと臨んだに違いない。だがネツキには、それだけではないと思える。きっとどいつもこいつも、この馬鹿を放ってはおけなかったのだ。
思わず笑いが込み上げる。
ネツキは決めた。潰えた希望を語らせる己は、みどりにしてみればとんだ鬼畜外道だろう。だがそれすらも甘かったのだと。後悔する時間をくれてやるのだ。
「その夢に引導を渡してやるよ」
銃剣付きの拳銃を油断なく構えるみどりに宣告する。そして意味を解する間も与えず、不意打ち気味にネツキは飛び出した。
下駄の歯が床を打つ。加減を排した全力の踏み込み。刹那で間合いを潰し、みどりの眼前へと達する。
硬度を落とした柄尻を、斜め上から顎を目がけて振り下ろした。




