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ヤーシャの国の魔法技師  作者:
プルーフ・オブ・ゼム・ライフ
34/35

魔法使い

 スウィルノウの背後に立っていたエルフが音も無く消失した。

 横に立っていたエルフの表情が固まる。つい先程まで隣にいた仲間が消え、朝陽に照らされた何かがキラキラと輝いて消えた。


 どよめきが広がりかけ、口を開いた者が次々と光へ変わっていく。


「族長!」

「長老と呼べ!!攻撃だ、反撃しろ!!」


 スウィルノウを族長と呼んだエルフも光へと変わる。

 号令をかければエルフ軍全体が魔法を唱え始める。精霊の力を固めて撃ち出す射撃魔法だ。

 本人の資質に応じて変わる精霊の光が瞬き、エルフ軍全体で七色の輝きを放っている。


 瑛士は銃口を各所に向けて引き金を引き続けた。

 先頭だけではなく至るところで仲間が消える。動揺は全軍に広がっていった。


 ヤーシャ王が口を開こうとするとサアラがそれを止めた。ヤーシャ王の手から拡声器を奪うと、サアラは古いエルフ語で語りかけた。


『ヤーシャの国の魔法技師は、魔法を分解できます。魔法を込められた存在を無力化する魔導具です』


 動揺で魔法が消え、砦へと向かった光弾はほんの僅かしかない。

 瑛士は右手の指輪を撫でると外壁沿いに突風を作り出す。渦を描くように動かされた風は瑛士のコントロールを離れて竜巻になり、エルフ軍を襲った。

 エレメントが乱され、触れた弾が掻き消される。砦への被害は皆無に等しかった。


 スウィルノウが突撃を指示する。

 前に出たものが次々と光へと変わっていく。

 何がなんだか分からない。攻撃なのかも分からない。


『魔導具は世界の作りを解き明かしました。それはエルフについても同じ。喉という生体器官を震わせて魔法を作り、気持ちを込めて踊ることでエレメントの塊を生み出せるエルフの正体を』


 スウィルノウの指示に従う者は居なくなっていた。

 頭が理解を拒み、理解していった者は頭を抱えて蹲っている。


 瑛士はついにスウィルノウに銃口を向けた。


『ターゲットエレメント、補足』


 サアラが魔導プログラムの工程を告げる。

 銃身の内側に描かれた魔導プログラムが、サアラの造った巨大な精霊の涙を媒介にして発動する。

 直線上のエレメントを捉える。エレメントを守るために付随するあらゆる障害(セキュリティ)を、巨大な宝石に刻まれた膨大なプログラムがアタックして解除していく。

 瞬きのような時間でエレメントは剥き出しに。


『エレメントに無効化』


 引き金を引く。

 撃鉄が跳ね上がる。

 ハンマーの頭に取り付けられた紅が涙を打つ。

 銃身(バレル)にエレメント無効化の魔法が繋がった。

 魔法を投射されたスウィルノウは他のどのエルフとも同じように、光へと変わる。


『魔法を使える私達は人間とは違う。意思を持ったエレメント。魔法技師は魔法を盗んだじゃない。魔法使いすら解き明かした、叡智有る者なのです』


 エルフ達にそれを確かめる術はない。

 だが、なぜこれが隠されていたのかは理解した。

 誰もが魔法技師に感謝していた。

 これを秘匿してくれてありがとう。

 誰もが魔法技師の下ろした銃を見ていた。

 それを向けないでくれてありがとう。


『我々は人間と協定を結んでいます。この魔法を我々に向けないこと。我々から矢を射ないこと。人間と結んだ約束はこれだけです』


 同盟と称して行っていた貿易も、人間のような国交も、全てはカモフラージュだとサアラは言った。


『ヤーシャ王は今一度、この協定を結んでくれます』


 おい、言ってないぞと王の顔が歪んだが、歪んだのは後ろに隠れたメリルの指のせいだ。


『下がりなさい、同胞よ』


 サアラは勧告を三度繰り返した。

 三度告げられるよりも早く、すべてのエルフが砦から離れていく。


 砦から人間達の歓声が上がった。


 魔法技師様、万歳。

 ヤーシャ王、万歳。











 魔導具使いと魔法使い。

 エレメントと実生命体。


 この日、一つの戦いが終わり。

 終わることなく、受け容れあう事の出来ない両者の戦争の歴史が、幕を開けた。

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