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クリスマスイブイブとクリスマスイブと聖夜に、俺は俺とクリスマスパーティー

作者: 高壁護

 クリスマス。

キリストが生まれたとか何だか知らない日だが、

多くの人間がパーティとやらを催し、どんちゃん騒ぎを起こしていく日である。


 クリスマスイブ。

クリスマスの前日を意味して、異性と付き合っているようなやつは、ホテルを利用して、どんちゃん騒ぎを起こして、イク日である。


 クリスマスイブイブ。

日本の天皇誕生日である。それ以上でもなく、それ以下でもない日である。

ただ、一つ言えることがある。

クリスマスに何の関係も無いんだよね。


 のっけからクリスマスの批判のようなものをしているのは、自己紹介が遅れたな。神野(じんの)大成(たいせい)だ。

 高校三年生で、受験生である。

 今年のクリスマスは、受験勉強でいっぱいだ。


 そして、現在十二月二十三日の日曜日午前0時。

つまり、天皇誕生日という祝日である。

 一昨日に二学期の終業式があり、推薦で大学が決まったやつは、楽な冬休みになる。

それ以外は、地獄と化す。友情が妬みやらで破壊される。模試とかで、良い判定が出れば、気を使う。受験なんか無くなればいいのに。高校受験のときもそんなことを思っていたんだけどな。

 今の現状を書こうかな。

 俺以外の家族は現在、旅行中である。

 俺以外というのは、両親と妹のことである。

 なぜ、俺が旅行に行ってないのかというと、

「あんたは、受験生だし行かない方がいいよ」

 この一言で、俺は行くことが出来なくなった。

 昨日(十二月二十二日)からどこかに行ってしまっているので、現在、自宅警備員になっている。

 帰ってくるのは、二十六日になるそうだ。

 何泊何日なんだよ。その旅行。


 そして、俺は勉強勉強のループに入っている。

 自分が目指している大学に入るため、どんどん自分を追い込んでいるんだが、やる気が消えていく。


 明後日にはクリスマス。

 俺には恋人もいなければ、幼馴染とかもいない。

 親友とかもいない。むしろ友達がほぼいない。

 世間で、いや日本で、いや世界的に見て、

 俺は「ぼっち」であると認めざるをえない。

 クリスマスに独り身で何が悪いというのか?

 そもそも恋人がいないということが悪なのか?

 俺には分からない。

 ただ、一言だけ言いたい。


 調子に乗るなクソヤロー。


 この言葉は卑屈から出てくるものであって、決して口から出た言葉ではない。

 まぁ、受験生はクリスマスとか関係ないし、いつもと変わらないただの二十四時間である。

 しかし、ストレスが溜まるのは確かだ。

 ストレスは勉強の敵である。ストレス解消に寝ることもしばしば。世の中ストレス社会だな。

 今日は家には誰もいない。

 つまり、やりたい放題であるということだ。

しかし、すでにやろうとしてることは決まってる。

 一つは、アニメのDVDを三十本ぐらい借りて、それを夜な夜な見続けることだ。

 見てないものやもう一回見たいものを借りる。

 もう一つは、ピザを頼むことだ。

 何でもいいからピザを一人で頼んで、一人で食べたい。家族には内緒にするつもりだけど。

 決して、ホームでアローンする映画に憧れているわけではないんだよ。ピザが食べたいだけ。

こんなことを考えていると、時間は過ぎてしまう。


 現在時刻は午前0時50分。

 また、勉強机に向かっていく。

 センター試験対策を今現在しているのである。

 学校の冬休みに補習もあるんだが、センター試験の補習なので行かないことした。

 でも、二月頃の二次試験対策の補習には出るつもりである。二月から三年生は学校に来ないので、自宅学習になる。でも、家で勉強すると集中力が無くなったりする人だったり、先生に質問する人がいれば、学校にいく三年生もいる。

 どのみち、受験生に休息はないということだ。

 ストレスが溜まってしまうのは、仕方がない。

 だが、それを発散することが大事なのだ。

その結果、俺は心のなかで、ひねくれて悪口を思い続けるという最低の方法を見いだしてしまった。

 最低こそ最高という言葉を今でも信じてます。

 何度も言うが今は家に誰もいないのだ。

俺は、夜食のカップ麺を食べることにした。

 カップ麺ほど即席で食えるものはない。

 チキ○ラーメンは、熱湯にいれず、そのまま食べてみたりしたこともある。めちゃくちゃ旨かった。

 俺以外の部屋は電気は点けておらず、真っ暗だ。

 懐中電灯代わりに携帯電話を持っておき、リビングの台所まで歩いていく。

 尋常じゃないくらい寒い。靴下履こうかな?

クリスマスのプレゼント用の靴下って暖かいよな?

 裸足の俺にとってフローリングが冷たい。

 だれか、俺に優しく、そして、温かいものを。

結果、俺にとっての温かいものがカップ麺でした。

お湯によって作られたものに温かさを感じるのが、辛く、そして何とも言えなくなる。

 旨いな。これが自分の幸せだと思えてしまう。

 人間の欲求がそうであるように、食欲というものが俺を満たしてくれている。

 もう一息頑張れる。いや、頑張りたい。

それから自分でも分からないぐらい集中していた。


 気が付くと、三時半だった。

 さすがに、一度睡眠をきっちりとっておこう。

 布団に入り、目を閉じる。

 そういえば、リビングの電気って消したっけ?

 一度気になると寝れなくなってしまう。

 仕方なく、部屋の外を見て確認する。

真っ暗だから多分、消してるんだろ。これで安心。

 また、布団に入って眠りにつこうとする。

 どうして、布団はこんなに暖かいのだろうか?

 布団に、もし、人間のような感情があったら、自分に優しくしてくれたらいいなぁ。

 やっぱり疲れてるのかな? 早く寝よう。

 目を閉じれば、一瞬だ。



 十二月二十三日 午前八時。

 そんな時間に起きてしまった。

 中途半端な時間だな。せめて昼とか六時とかなら起きるか寝るか確実に判断できるんだけど。

 八時って超微妙なんだよな。寝たら昼になるし、起きててもそんなにやる気が出るわけでもない。

 夜食を食ったから、そんなに腹も減ってない。

 英単語いくつか覚えてからもう一回寝よう。

それがいい。それが多分ベストな答えに違いない。

 俺は、英単語のテキストを読んで、まだ覚えてなさそうな言葉を覚えて、そして、再び布団に入る。

 ついさっきまで、布団に入ってたから、まだほんのりと温もりがあって心地がいい。

 そして、寝てしまう。星座占い今日何位だったんだろう。どうでもいいか……

 寝るときは本当にあっという間だった。

 疲れてるときほど寝続けないといけない。

 脳を休めよう。


 そして、次に起きると十一時半だった。

 学校がもしあったら、絶対サボる時間だ。

 まぁ、遅刻しそうになったら休むんだけどね。

 朝ごはん兼昼ごはんを食べようとしたが、何を食べるべきか迷っていた。

 家でこのまま、カップ麺とチンするご飯を食べるのもいいけど、外食にするのもいいかな?

 どうせ、夜にはピザ頼むつもりだし、

 この三日間ぐらい素晴らしい日を送ってもいいだろう。今まで、勉強もテストも頑張った。

 この三日間ぐらいご褒美として、外食にしよう。

 大学合格もしてないのに、ご褒美もらうんだぜ。

 羨ましいだろう。リア充に一矢報いるためだ。


 着替えて、ファミレスに行くことにした。

ファミレスとはファミリーレストランの略であり、現在、自分のファミリーが旅行に行っているため、一人レストランで満喫することになってしまった。

 一人○○で、自分のなかでの限界は、一人でライブに行ったことかな? まったく知らない土地で、ライブ会場に一人で行って、グッズを買って、みんなで盛り上がって、終わってから、楽しさを噛みしめながら、夜に孤独を感じながら一人で帰った。

ゆくゆくは、一人で遊園地にでも行けたらいいな。

一人でカラオケは何回か行ったことがあるんだよ。

 みんなでカラオケに行くことに何の楽しみがあるのか俺には多分、一生理解できないんだろうな。

 向こうが一人でカラオケの何が楽しいのか分からないのと同じように……。


 ファミレスに入って、禁煙席が祝日なのか満席だったので、仕方なく喫煙席に座らされた。

 メニューを一人で見るということが、どれほど素晴らしいことなのか、分かってくる。

 まず、一番いいのが、ゆっくり決められるという点である。人と行けば、必ず早く決めてくれという空気が流れやすくなってしまい、結局いつもと同じものを頼んでしまって、新しいものに挑戦できないままレストランを出るという繰り返し。

 しかし、久しぶりに今日は一人で食べに来た。

 いや、久しぶりというのは、レストランに来ることだ。一人で食べに来たのは、前回と前々回と前々・・・回も同じである。たまに家族で行く。

 とりあえず、ドリンクバーといつもは食べないスパゲッティを注文することにした。

 いつも、ハンバーグとライスとか食べるから、たまにはカロリーが低そうなものを食べたい。

 夜は、ピザ食べるからカロリーも少し考えてる。

 店員さんをボタンを呼んで、待つことにした。

 ほぼ満席なので、なかなか来てくれないな。

 さすがに二回もボタンを押すことはしたくない。

 待てばいい、必ず来るのだから。


 そして、五分後。

「申し訳ございません。ご注文をどうぞ」

 待ちました~結構待ちました~。

「ドリンクバーときのこと和風のスパゲッティをお願いします」

「ご注文を繰り返します。ドリンクバーお一つ。きのこと和風のスパゲッティお一つ。以上でよろしいですか?」

 コクリ。

「ドリンクバーは、あちらになってます」

 ドリンクバーに行き、子どもがうろちょろするのをかわしつつ、グラスに氷を入れて、炭酸飲料をグラスに入れる。

ずっと入れると、泡が出てくるので、途中で一回止めて、それからもう一回入れる。

 これで大体いい感じにグラスいっぱいになる。

 自分の席に戻り、これからについて考える。

 これから自分が出来ることは、まずアニメのDVDを限界まで借りて、リビングで鑑賞する。

ピザの注文もネットで出来るみたいだし、それは、DVDを借りてからでもやろう。

 他にすることといえば、洗濯とかもしないといけないのかな? まぁ、必要ならすればいっか。

 あとは、部屋の大掃除でもやっとこうかな?

 今年もラノベやら漫画やらCDを買ったので、置き場所が無くなってきそうなんだよな。

「きのこと和風のスパゲッティです。以上でよろしかったですか? こちらレシートです」

 スパゲッティが登場した。

 手を合わせるだけで、いただきますとは言わずに食べ始める。今日喋ったの注文のときだけだな。あとは、心のなかの俺の声でずっと喋ってるな。

 フォークを使い、スパゲッティを巻き巻きする。

 スプーンを使う人がいるらしいが、スパゲッティの本場のイタリアでは、使わないらしい。

 つまり、外国に行ったときにスパゲッティをスプーン使って食べたら笑われるということだな。

 美味しいな。スパゲッティとかカルボナーラぐらいしか食べようとは思わないから、和風のスパゲッティも悪くないかな。でも、カルボナーラにはまだまだ遠く及ばないけど。

 スパゲッティなんか食べ始めたら、一気に食いきってしまう。さすがに早く食べすぎたので、ドリンクバーで少しの間、時間を潰していく。

 待ち合わせも何もしてないのに、時間を無駄にするとか俺は一体何をやってるんだろう?

 まぁ、ドリンクバーをせっかく頼んだんだから、もう少し飲んでから会計しよう。


 会計を済ませて、レストランを出ていく。

 自転車で来たため、このままレンタルDVD店に行くとするか。

 そして、全速力で漕いでいく。

こういうときぐらいしか、全力とか本気とか出せないからな。俺は、まだ本気を出してないだけとか、絶対、自転車に乗ってるとき出してるだろ。


 レンタルDVD店にとうちゃーく。

 一応、お金は持ってきている。

 店内はいつもよりかは、少し混んでいた。

 アニメのコーナーのところに向かっていく。

 来る前に、このアニメを借りようかなとかは、考えてはきたから、迷うことはない。

 ただ、レンタル中だったら、他を借りないといけないので、迷うかもしれない。

 見てみたいアニメや、見たかったけど放送地域の壁に阻まれたアニメなどを重点的に借りるつもり。

 インターネットとかで、無料で見れる場合もあるけど、なるべくなら見ないようにしている。

 ただ、ネタバレになるような記事は見ている。

 一応、その時期だけは付いていきたいから。

 というわけで、レッツレンタル!

 しかし、計画通りにいかないのが、世の定めといえるのだろう。

何が問題というと、全部そろってないことがある。

 誰だよ、三巻だけ借りてる奴。どうせなら、全巻借りて行けよ、バカ。

 一応、一巻と二巻を借りることにした。ある程度の本数を借りるつもりなので、二回に分けて借りに行くことを計画している。とりあえず、最低でも十本は借りて帰ることを目標にしている。

 どうだ、この目標の低さ。はじめてのおつかいでも、もう少し頑張ってるぞ。

 もうすぐ、冬のアニメも始まるので、その中で、二期の作品があるので、一期をおさらいとして借りよう。ただ、この時期だから結構、借りられていることも多いのである。

 期待はせずにその作品の棚を見に行った。

 こういうところで、自分の強運を発揮するのが恐ろしいのである。

人生における「運」ってどれぐらいあるんだろう?

 できれば、一定であってほしい。一部の例外あってもいいけどね。

 例えば、宝くじで一億円当たったら、その年末にインフルエンザにかかったりとか、クリスマスに彼女とか彼氏がいたのなら、バレンタインに仕事で残業とかしてもらいたい。

 卑屈になってきてるな。まぁ、昔からこんな感じで生きてきたから、今さら直す気はないからな!

 人を羨ましがって、何が悪い。嫉妬していて、何が悪い。嫉妬される方が悪いんだよ。

 そんなわけで、全六巻を借りて、あとは何にしようかな?

 自分でも理解しているほどの、にわかアニメ好きなので、人気作品は絶対見ようと思うし、アニメ化が決まってから、小説を読んでみることの方が多いのだ。

 一話を見て、あまり面白くなそうだと思って切ったアニメが人気になった。

 今さら、それを改めて見ようと思う自分と意地でも見たくないと思う自分がぶつかり合っている。

 一度、それを手に取り、そして、考えた結果、それを戻した。


 また、今度暇になったら、そうだな・・・大学生にでもなったとき見よう。


 そして、一年前ぐらいに放送していたアニメを全七巻借りて、合計十五巻をレジに持っていく。

今なら、一週間レンタルで五巻まとめて借りると、八百円だったので、合計二千四百円になった。

 三千円を払い、お釣りをもらって店を出ていく。今日中にもう一回来るからな。

 自転車で駆け抜けるような勢いで、自転車で駆け抜けていった。つまり、駆け抜けた。

 家に着くと、誰もいない。そんなことは分かりきっていたのだが、事実つらい。

 ただいまって言うと、何も返ってこないんだぜ。それでも、耐えないといけない。

 冷蔵庫を開けると、飲み物は牛乳ぐらいしか入っていなかった。我が家は、初めからクリスマスパーティをするつもりなどなかったのだろう。よし、買ってこよう。

 ピザを食べるんだ(一人で)、ならば炭酸飲料がないと楽しくもない。

この近くのディスカウントストアのお店に行けば、安く買えるだろう。自転車でひとっ走りだ。

 その前に、先にピザを注文しておこう。スマホで予約注文のページを出して、注文する。

 子供が大好きそうな感じのピザを注文しよう。もちろんL寸で。

 ソーセージとスパイスが乗っているピザを注文することに決まりました。

 みんな・・・俺、これを一人で食べるつもりなんだぜ、ある意味ワイルドだろ~。

 何年か前の流行語大賞を披露したところで、時間をどうしようかな?

 七時ぐらいでいいんじゃないかな、よし、七時にしておこう。楽しみだ~。

 七時に宅配するように注文して、完了だ。

 とりあえず、飲み物を買って、早めに冷やしておきたい。冬なのに・・・。


 再び、家を出て、自転車でかっ飛ばしていく。家から自転車で五分程度のところに、さっき言っていたディスカウントストアのお店がある。自転車を止めて、お店に入る。

 買い物かごを持って、最初に飲み物のコーナーに歩いていく。

 そして、俺は悩む。大きいサイズを買うべきか、普通のサイズを買うべきか、

 究極の選択というものが、こんなところに存在していたとは・・・日常って面白い。

 俺は、考え抜いて、結論を導き出し、選択する。

 大きいのを一本と普通のを三本買い物かごに入れていく。

これが正しい判断だったのか、俺には分からない。

ただ、みんなはこう言うだろう。

「つまらないな、お前」って。

 仕方ないじゃないか、何も浮かばないんだから。文句は俺に言うな。さくsh・・・

 この際にお菓子でも買っておこう。

最近、徹夜で勉強してると、手軽に食べれるものが欲しいと思うことが多くなる。俺、最近カップ麺ばかりを食べてるんだぞ。

手軽だけどさ、適度なものが他にもあるだろう。

 そういうわけで、スナック菓子を何日か分買いだめする感じで、かごに入れる。

 なぜだろう、自分の将来を限りなく近い精度見据えている気がする。多分十年後ぐらいの・・・

 こんな時間だったなのだろうか知らないが、すぐにレジで会計ができた。

 ひどいときは、十分ほど待たされることもある。レジを開放しなさい。

すんなりと、会計を済ませ、袋にそれらを入れて、店を出ていく。

 いつも、不安に思うことがある。店に出る瞬間に万引き防止のブザーのようなものが、思いっきり鳴ってしまったりするんじゃないのだろうかと・・・もちろん、万引きはやってないよ。万引きは犯罪。

 もし鳴ったら、どうしようかと思ってしまう。シミュレーションとかもする。

 こんな不安症でもある俺は、ひたすら家に急いで帰っていく。


 家に着いて、冷蔵庫に飲み物を入れておき、一度休憩をはさんでいく。

 俺の中で、力が全身から抜けていく。

「そろそろ、出てもいいかな?」

「うん? あぁ、いいぞ」

「いいんだな? それじゃあ、ヨイショっと」


 そこに現れるのは、俺の姿をしたもう一人の俺。


「ほんと、久しぶりだなぁ、ここ。二年ぶりぐらいかな~」

「二年も経ったか?」

「前出たときは、いつだったかな? あっ、前もクリスマスだったじゃん」

「ちっ、余計なことを思い出しやがって」

「まぁ、いいじゃん。どうせ、毎日出られるわけじゃないんだから」

「はいはい。窮屈だった?」

「いいや、そんなに窮屈ってほどじゃないけどさ、やっぱり、一年に二、三回は出たいかな」

「まぁ、家族が全員、俺を残してどこかに行けば、願いは叶うけどね」

「まぁ、二年に一回でも悪くはないけどな」

 今、普通に会話をしているが、俺にしか多分見えてない存在になっている。いるんだけどな。

 幻想に近いものと考えればいいのである。

「二年間でどこか変わったところとかある?」

「家自体は、そんなに変わってないんじゃないかな……ただ、お前が少し変わったかな」

「俺のどこが変わったんだ?」

「アニメにはまったじゃん」

「あぁ、そんなことか」

「そんなことで済ませられる、お前が悪いのか、世の中が変わってしまったのか...」

「今の時代、アニメ見てない奴なんか置いてけぼりにされるぞ」

「その割に、お前友達と話してるところなんかあんま見ないけどな」

「それ言う?」

「絶対言う」

「とりあえず、今日は誰もいないからゆっくりしていけよ」

「じゃあ、遠慮なく」

ベッドでドサッとくつろぎ始める、もう一人の俺。

 奇妙としかいいようがないそんな光景を俺は、かなり好んでいる。

 俺が、もう一人の存在に気付いたのは、小学六年生の時だった。

 部屋にいて、さっきと同じように全身から力が抜けて、気が付くとすでにそこにいた。

最初見たときは、特に何も感じることは無かった。ただ、そこに俺と同じ顔をした人がいる。


「こんにちは」

「こんにちは」


 これが、最初に会話した言葉だった。普通の挨拶だった。


「君は、俺の何ですか?」

「俺はお前の分身といったとこかな」

「分身ですか」

「そんなに驚かないんだな」

「特に、驚くほどのことでもないからな」

「冷めてるな、お前」

「お前が俺の分身なら、俺への悪口は、単なる自己批判になるぞ」


 こんな感じで、会話が進んでいった。

それから、何度か俺の中から出てきては、話して、満足すれば、また俺の中に帰っていく。

 妹が偶然、部屋に入ってきたときは、かなり動揺していたが、見えないと分かったのは大きかった。

 中学校の時も二ヶ月に一回か二回ぐらいは、話していたのだが、さすがに人として俺は大丈夫なのかと考えてしまい、なるべく分身を出さないようにしたのだ。

 それから、一年に一回あるか、ないかぐらいの出現になってしまった。

 もともと、そんなに友達もいないのに、話し相手がいなくなるのが、結構寂しく感じた。


 そして、今に至る。

「ところで、晩ごはんはピザになるけどいいか?」

「ピザを一人で食べようとしてたっけ?」

「うん。こんな機会滅多にないからな」

「はぁ、もちろん食うけど」

 分身がごはんを食べるなんてありえないと思ってたんだけど、昔にお菓子あげたら食ったからなぁ。

「DVD見るけど、いいか?」

「何のアニメ借りてるんだっけ?」

「ハーレムラブコメとラブコメとコメディ」

「バカなの?」

「これでも、学校の成績は良い方だけど」

「現実を見ろよ。諦めろ」

「現実を見て、諦めたからこうなった」

「大学に行けば、何とかなるかもな」

 俺は今、分身に軽くだけど慰められてるのかな?

「そういえば、もう一回借りにいくつもりなんだけど、どうする? 家で待っとくか?」

「うん。待っとく。わざわざ入っていくのも面倒くさいからな」

「分かった。それじゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」

 いってらっしゃいという言葉を、久しぶりに聞いた気がする。誰かに見送りの言葉を言ってもらえるって、案外嬉しいもんだな。


 そして、何度でも自転車に乗り、走っていく。

 再び、同じDVDの店に到着して、厳選が始まる。

 そういえば、ラブコメとかしか見てないから、たまには、別のジャンルを見てみようかな。

 異世界やら、魔法やら、こういうのは人気がある作品を見ればいいはずなんだけど、どれが一番人気なのかは、よくわからない。

 ポップに人気作品と書いてあるのを、とりあえず丸々借りてみよう。

 あとは、何となくで借りてみようかな。

 タイトルとパッケージで良さそうだったら、それを全巻一気に借りよう。

 十分後。

とりあえず見つかったためレジに向かう。

多分、今年はこれで借り納めといったところかな?

 来週には、返し納めが待ってる。

二度目のレンタルが終了して、家に向かう。

「ただいま~」

「おかえり~、ご飯にする? お風呂にする? それとも」

「次の言葉言ったら、飯抜きにするからな」

「はぁ、ノリが悪いな。そんなんだから、友達が出来ないんだぞ」

「沈む船に乗って、何が面白いんだよ」

 テレビでやる分には、普通に面白いんだよ。

 ただ、それを学校で真似とかしたら、ビックリするぐらいつまらなくなるんだよな。

 端から見ると、痛々しいものに見える。

 内輪でしか笑ってないから、悲しくもなる。

 それで、その中で、誰かがポカンとしたら、ノリが悪いとか言われて、可哀想だろ。

どうせ、そのノリやったって面白くないんだから。

 つまり、大体の高校生とかは面白くない。

 それなのに、周りのみんなが面白いとか芸人になればいいのにとか言い出して、何故か勘違いしてお笑い芸人になろうとしたりしてる人もいる。

 ある意味スゴいと思う。自信家なんだろうな。

「まぁ、風呂も沸かしてないし、晩ごはんはピザでまだ来てないし、消去法で俺でいいんじゃね?」

「とりあえず、アニメ見るから」

「アニメですか、はぁ」

「そんなにアニメが嫌か?」

「嫌じゃないけどさぁ、お前の中の時からずっと、見てたし、そもそも見飽きたかな。なぁなぁ、何でアニメを見始めたの?」

「週刊の少年雑誌で、読み続けていた漫画がアニメ化が決まって、それを夜中に見始めてからかな」

「本当は?」

「単純に周りの影響かな? クラスでアニメの話とか結構あって、聞こえてきて成り行きで見始めた」

「それで、ずっと見てるの?」

「まぁ、もうすぐで二年ぐらい見てるかな。その間に好きな女の子(二次元)ができたりしたなぁ」

「そんなに三次元が嫌なの?」

「嫌とかじゃないよ。ただ、ヒロインの女の子が二次元は理想的な女の子だから、好きになるかな。三次元はびっくりするぐらい何もないからな」

「お前、生きてて悲しくならないのか」

「別に悲しくはない。そもそも楽しいから」

「友達がいないのに?」

「そこばっかりエグるなぁ。友達がいないからって別に不幸っていうことはないけど」

「まぁ、お前が幸せならいいけど、作ってた方が良いと思うぞ」

「ありがとう」

「お礼言われるほどのことは言ってない」

 二人で、玄関先で会話してるのもどうかと思ってたけど、さっさとリビングに向かっていった。


 既に入っていたDVDを取りだし、レンタルしてきたものをセットする。読み込みが始まり、待つ。

 今までで一番優雅に暮らしている気分だ。

 そして、一話が始まる。

 一話は、基本的に導入的な部分である。

 本当なら、イヤホンを使って鑑賞したいのだが、今日は、ピザを頼んでいるので、万が一インターホンが鳴ったときは、反応できないので、ソファーでのびのびと鑑賞に浸ることになった。

 その一方で、分身の俺はというと、何をするわけでもなく、俺と一緒にソファーに座っていた。

 人と一緒にアニメを見るなんて、絶対にやりたくないことなんだけど、この際は仕方ないということで割りきっていたのだが、やっぱり嫌だな。

 クリスマスに見るラブコメは、軽く残酷なものに感じてしまいがちだが、それでもコメディなのだからある程度笑える部分があればそれでいい。

 ラッキースケベがあってもいい。

 アニメを見ているとそんなことを考え始めた。

「なぁ、どの女の子が好きなの?」

「終わってから決める」

「第一印象は?」

 うぜぇ、合コンとかもこんな風にイライラするんだろうな。人付き合いが苦手すぎるな。

「誰なんだよ~、教えろよ~」

 修学旅行の夜かよ。恋バナするんじゃねぇよ。

「今、修学旅行かよとかツッコミ考えてた?」

「さすが、俺の分身だな」

「そりゃそうだ」

 人の心が読めるとかかなりすごい特技だよな。

 相手が何考えてるか、分かるんだもんな。

 ただ、自分が何か話をしてるときに、相手の心を読んで、その人がつまらねぇとか思ってたら、俺、絶対にショック受けて寝込むかもしれない。

「というか、静かにしてくれ、アニメをゆっくり見たいんだよ」

「受験生なんだから、勉強しろよ」

「勉強は夜中にでもするつもりだし、今は久しぶりの息抜きなんだから、アニメが見たいんだよ」

「これで、大学落ちたらどうするの?」

「とりあえず、バイトは絶対するつもり」

「それで?」

「あとは、そのときに考える。今、落ちたときのことを考えることの方がダメだから、受かったときのことを考える」

「それも、そうだな。まぁ、適度に頑張れ」

「応援されたし、クリスマスが終われば、死ぬ気で頑張るよ」


 DVD二本分、アニメ話数四話分、約二時間ほど、アニメを視聴して、時刻は午後五時になった。

 分身にも言われたので、ある程度自分の部屋で、勉強をすることにした。

 リビングを見て、気がつくと分身がいなかった。

 どこにいったんだろうか思いつつ、自分の部屋に向かった。

 部屋を開けると、分身がベッドで寝ていた。

 俺以外の人で、初めて俺のベッドで寝てるんじゃないのかな。妹は絶対に部屋に来ないし、他に友達が家に来ることすらないのだ。

 別にたたき起こす理由もないし、ゆっくり寝てもらった方が、勉強に集中もしやすい。

 教科書や過去問を見て、勉強を進めていく。

 学校も入試対策の授業しかしないので、その日しなかった教科の勉強を家でするようになった。

 しかし、学校が無い日は、全体を勉強することが多くなってしまう。今日もそんな日だ。

 一日が二十四時間もあるのに、毎日毎日、昨日のことを後悔して過ごしてることがある。

 どうしてあの部分を勉強しなかったのかとか、どうしてサボってしまったのかなどを考えている。

 でも、今は出来るだけ勉強をしていたい。

 なのに、俺はアニメのDVDを借りまくっている。

 思ってることとやってることが完全に矛盾。

 でも、せめてクリスマスまでの三日間はゆっくりと過ごしていたいと決めてしまった。

 それから、晩ごはんまでの間、勉強していた。


 午後七時。

 ピーンポーン。

インターホンが鳴る。玄関に出てピザを受けとる。

 お金を払い、リビングまで持っていく。

そして、自分の部屋に戻り、分身を起こしにいく。

 ベッドでスヤスヤと寝ている人を起こすのは、いい気分はしないんだけど、一緒に食べたいという気持ちが起こす源にする。

「おーい、起きろ、晩ごはんの時間だぞ」

 起きる気配がしない。生きてるよな?

「おーい、早く起きなさい」

 今度は、肩をトントンと叩いて、起こしてみる。

 すると、うめき声に近いような声で起きようとしていた。

「何だよ~、いい気分で寝てたのに~」

 分身だから、普段の俺と同じなんだろうな。

 たまに起こしてもらってるから、母さんには感謝しないと……クリスマスプレゼント買おうっと。

 明日もどうせ、家で勉強しないといけないし、気休めでどこか行ってみよう。

「それじゃあ、ピザ食べるぞ」

「そっか、今日ピザだっけ? 早く行こうぜ」

 お前を待ってたんだよとかは言うつもりはない。


 リビングにいき、軽く準備をしておく。

一応、飲み物は買っているので、コップとかもテーブルに持ってきて、乾杯をする。

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

 二人でテレビを見ながら、ピザを食べていく。

 朝の段階では、確実に一人で食うつもりだったんだが、実際は二人で食べている。実質一人だけど。

 でも、複数で食べると不思議と幸せだな。

「ピザ、美味しいな」

「あぁ、美味いな」

 こんな会話が出来るだけありがたく感じる。

 人は一人じゃ生きていけないのだろう。

「飲み物は炭酸飲料しかないけど、いい?」

「別に大丈夫だよ」

 コップに炭酸飲料を注いでいく。

「はい、どうぞ」

「どうもありがとう」

 ピザは少しスパイスが効いていて、本当にクリスマスに家族で食べたかったと思った。

 でも、クリスマスに家族は帰ってこない。

 まぁ、いつの日か一人で過ごすクリスマスもやって来るんだろうから、予行練習とでも思おう。

「一人で寂しい?」

「あぁ、寂しいな」

「来年も出てこようか?」

「出来れば、年に二、三回は出てきてほしい」

「ハハハ、そう言われて嬉しいな」

「お前は消えることとかあるの?」

「それは・・・あるかもしれない」

「はぁ、あるのかよ」

「そこまで、悲しまれると俺も消えるとき辛いよ」

「消えるときは消えるとか言ってから消えろよ」

「わかったよ。約束するから」

 ピザを食べながら約束を誓った。


 ピザを全部食べて、風呂を入れる。

 その間にアニメを再び鑑賞を始める。

「勉強しろよ」

「息抜きだよ。食べてすぐは勉強したくない」

 寝てしまっては元も子もないからな。

ある程度、何か別のことをして目を覚ましておく。

「このアニメ面白いの?」

「さぁ、でも、今の段階は面白いから最後までは見るつもりだよ」

「ふぅーん」

 何かアニメを知らない奴と見てる感じだな。

「そういえば、お前は風呂って入れるの?」

「別に普通に入れるぞ」

「一緒に入ってみる?」

 俺は、自分の分身を風呂に誘ってみた。

「いやいやいや、さすがにそれは嫌」

何回「いや」って言うねん。そこまで否定するな。

「冗談冗談」

 言葉ではこう言っていても、ちょっと悲しんでいるのが自分でも分かってしまう。

「風呂先に入ってもいいから」

「アニメに集中するためにそれ言ってる?」

「そういう意味じゃないけど、今、それ言われてちょっと考えてたかな」

「はいはい、分かりましたよ~」

「そんなに拗ねる? 俺が悪かったから、ゴメン」

まるで、彼女と会話をしているような気分だった。

「もうすぐお風呂が沸きます」

 そんな声が聞こえてきてくる。

「それじゃあ、お先にどうぞ」

 分身が先に風呂場に向かっていく。

「そういえば、パンツとかどうすんの?」

「そりゃ、お前の穿くに決まってんじゃん」

「場所分かる?」

「俺、お前の中で何年過ごしてたと思ってんだよ。さすがに、分かってるから安心しろ」

「それじゃあ、ごゆっくり」

 そして、リビングで一人になる。

 突然、静かになってしまった。

 別に晩ごはんのときも、そんなに会話が弾んでいたわけではないのだけれど、急にシーンとなった。

 これが一人って感じなんだな。

 友達もほとんどいないから、いつも一人ってことが当たり前なのだが、さっきまで、ワイワイとしていたのに、一人になると驚くほど寂しい。

 結局、再生ボタンを押してアニメを見る。

 可愛い女の子がたくさん出てくるので、好きなキャラクターが出来てしまう。

 二次元というのはスゴいなと思ってしまう。


 五話が終わると、分身が風呂から上がった。

「湯加減は大丈夫だった?」

「うん。のんびり出来て、気持ちよかった」

「それじゃあ、俺も風呂に入ってくる」

「いってらっしゃい」

 俺も風呂場に入っていく。

 温かいお風呂はやっぱり気持ちいい。

 普段だったら、最後に入ることが多かった。

 なので、ぬるくなってしまうことがあった。


「ふぅ、いいお湯だった」

「おかえり~」

 リビングでは、分身がアニメを見ていた。

 しかも一話からもう一度見直していた。

「アニメ好きになった?」

「う~ん、一応、二話ぐらいから部屋で寝てたからもう一回見直さないといけないと思って」

「真面目だな」

「さっき五話見てたから、追いつきたいと思って」

「気使って悪いな」

「いえいえ、こちらこそ勝手に見てごめん」

「じゃあ、もう一回見るか。一応、勉強の道具でも持ってこようっと」

 部屋に戻り、教科書と問題集を持っていく。

 そして、二人でアニメを見ていく。


 気が付くと、そのアニメを見終わっていた。

 そして、夜中の一時頃になっていた。

 その間に勉強はほとんどしてなかった。

「どうだった?」

「結構良かったかな」

「別にアニメも悪いもんじゃないだろ」

「それは当たり前だけど、受験生なのに今のタイミングで見るべきなのか?」

 それをいっちゃあ、ダメだよ。

「まぁ、ダメだと思うけど」

「もう十二時回ってるし、とりあえず寝るか」

「そうだな」

「一緒のベッドで寝るの?」

「そりゃ、そうなるだろうな」

 その夜、結局二人で寝ることになった。


 十二月二十四日。クリスマスイブ。

 午前九時。

先に目覚めたというか、ほとんど同時に目覚めた。

 そして、朝ごはんをどうしようかと考える。

「おはよう」

「おはよう」

とりあえず、ベッドから下りてリビングに向かう。

 昨日の状態のまま、放置されていた。

 コップを台所まで持っていき、ピザの入っていた容器のようなものをゴミ箱に捨てて、一息つく。

「朝ごはんどうする?」

「この家って何にもないの?」

「カップ麺ならあると思うけど」

「じゃあ、カップ麺でいいんじゃない」

「お前がいいなら、カップ麺にするぞ」

 とりあえず、ポットでお湯を沸かしておく。

 その間に、今日の予定でも立てておく。

「なぁ、今日デパートとかに行くつもりだけど、どうする? ついて来てみる?」

「どうしよっかな? 何のために行くの?」

「ちょっと買い物でもしようかなと思って」

「それじゃあ、行こっかな」

「そういえば、お前って俺以外の人に見えるの?」

「見えないはずだけど……」

「じゃあ、話は出来ないな。それじゃあ、電車とかに乗るときは大変なんじゃないの?」

 懸念とかを少し話し合ってみる。

「電車のときは、お前の中に入っとく。電車から降りたら、抜け出して一緒に歩くのはどうかな?」

「それじゃあ、それで決まりだな」

「じゃあ、出掛ける準備でもするか」

「その前に朝ごはん」

 気が付くと、ポットは既に沸いてから何分も経ってしまっていた。もう一度沸かし直しをした。

 それから、朝ごはんのカップ麺を食べた。


 午前十時半。

 部屋の中で、着替えていた。

 分身の私服は、俺のものだった。

 これが俺以外に見えなくなるなんて、信じられないのだけれど、とりあえず百聞は一見にしかずというわけで、いったん二人で出掛けてみる。

「着替えたよ」

「それじゃあ、出掛けよう」

 軽い鞄の中に、携帯と財布を入れて、家を出る。

 今日の目的は、家族の分のクリスマスプレゼントを買うことだ。

 昨日ふとそんなことを思ったので、実際に買いにいってみることにした。

 この家で誰もサンタなんか信じてはいない。

 けれど、プレゼントは毎年貰っている。

 たまには、自分からプレゼントをあげてみたい。

 そして、今、外に出掛けている。

 財布にはある程度のお金を入れているので、多分困ることはないはずだと信じている。


 駅につくと、一つ疑問が生じた。

 この段階で、分身を中に入れておくべきなのか、

出掛けてから、まだ一言も会話をしていないので、なるべく人がいないところで話を始める。

「なぁ、そろそろ中に入ってくれる?」

「うん。いいけど」

「それじゃあ、入ってきて」

 そして、分身が俺の中に吸い込まれるように入ってしまう。もしかしたら、もう二度と出てこないのではとか考えてしまうので、不安もある。

 完全に入ってしまい、切符を買う。

 そして、改札口を通り抜け、ホームで待つ。

 クリスマスイブにもなったので、少し人が多い。

「ねぇ、俺の姿ってバレてないよね」

 頭の中で、声が聞こえてきた。

ここで、声を出すのはあまりにも怪しすぎるので、念じて答えてみる。

(多分、誰も俺のこと見てないから大丈夫だよ)

「それならいいんだけど」

(次は、降りる駅のトイレで出てくれよ)

「分かった」

(あと、なるべくなら喋るときは、出てきたときに頼むね。その方が安心できるから)

「了解」

 電車が来て、それに乗り込む。

 少し人が多いけれど、満員というほどではない。

 降りる駅までは、十五分ぐらいかかる。

 それまでの間は、携帯でもいじっておく。

といっても、ニュースぐらいしか見るものがない。メールなんかほとんど来るわけがないし、その結果利用するといったら、動画を見たり、調べたりするぐらいしかやることがない。


 そして、降りる駅に着く。

 デパートがあるのが理由かもしれないが、ここで降りる人がかなり多かった。

 そして、個室のトイレに向かう。

(それじゃあ、出てきていいぞ)

「もう出てきていいのか? それじゃあ出るぞ」

 俺の中からまた分身が出てくる。

「やっぱり外の世界って居心地がいいな」

「やっぱ、そうなんだ」

「それでは、デパートに向かいましょう」

「はいはい」

 トイレから出て、改札口を抜けようとする。

こういうときに、切符がどこかにいってしまう現象が起こってしまう。ポケットに入れたはずなのに、鞄の中から出てくることもしばしば。

でも、今回は普通にポケットに入っていた。

「ここから、何分ぐらい歩くの?」

「そんなに遠くはないよ。大体五分もあれば着くんじゃないの? 一応、携帯で地図も出せるし、何とかなるはず」

 周りから見れば、明らかにおかしいんだけれど、誰も気にもとめないのは、ある意味異常だ。

 だって、誰もいないのに会話してるんだもん。

「それじゃあ、デパートまで行くか」

「おう」

 クリスマスイブというのもあって、カップルが普段以上に多い気がする。


 そして、五分後。

 デパートに到着した。

 家族へのプレゼントなんで、どうすればいいか、あんまり分かってない。

 そもそも、何が欲しいのかも知らないし。

 俺の独断と偏見で選んでみよう。

 ここで俺のセンスが問われるのだが、真面目に考えて喜んでもらえたら嬉しい。

 まずは、父さんと母さんの分を買おう。

 ペアルック的なものにしようかなと思っている。

「どんなもの買うの?」

「う~ん。何となく見て回ってるけど、まだ候補がそんなに見つかってない」

「ペアルック買うつもりなんだろ」

「分身は何でも分かるんだな」

 このやり取り、あと何回ぐらいするんだろ。

「ペアルックなら、どんなものがいいんだろ?」

「服よりも小物だろうな」

「ネックレスとか、キーホルダーとか?」

「ネックレスはともかく、キーホルダーはいいんじゃないのかな?」

「なるほど、やっぱ誰かがいると心強いな」

「頼りにしてもらって光栄だな」

「それじゃあ、キーホルダーにするわ」

「センスが問われるな」

「頑張ってきます」

 小物が売っている店に入ってみて、キーホルダーとかがあったのだが、マグカップを見つけた。

「マグカップはどう?」

「いいけど、妹の分はどうするの?」

「あぁ、それもあるな」

 マグカップなら、みんな統一の方が良いに決まっている。妹は妹の分として別に買ってあげたい。

「何がいいんだろうな?」

「やっぱりマグカップがいいんじゃないの?」

「さっき否定してなかったっけ?」

「別にみんなの分買ったらいいんじゃないの? 

 それで、妹の分も買ってあげたらいいだろ」

「なるほど、それがいいかもな」

 みんなの分を買うというのが最善だな。

「それじゃあ、選んでくるから外で待ってて」

「えっ? 俺の力が無くても大丈夫か?」

「家族に対してのプレゼントだからな。ここは、誰にも頼らず一人で決めてくる」

「分かった。終わるまで外で待っとく」

一人きりで考えてみる。そこまで種類もないので、本当はそこまで、悩む必要もない。

 マグカップを四種類選んで、買うことにする。

 一応、ラッピングをしてもらう。

 帰ってきてから、渡すことにする。


 次は、妹の分を買わないといけないのだが、今どきの女の子が、何を求めているのかなんて、ほとんど理解してないのと同じだ。

 こういうときに、頼りになるのは、店員さんだ。

 しかし、まず、お店を見つけないといけない。

「妹のプレゼントってどうしたらいい?」

「自分で考えろ」

「冷たいこと言うなよ~」

「う~ん。俺も分からないからさ、何が良いかなんて、だから答えられないというか」

「さすが、俺の分身だな」

「それは褒めて無さそうだな」

「女子ってぬいぐるみが好きなんじゃないかな?」

「ぬいぐるみ?」

「うん。何かフワフワのぬいぐるみとか」

「まぁ、悪くないんじゃないの?」

「何か、ダメな言い方に聞こえるんだけど」

「服とかはダメなの?」

「さすがに、服は一緒に出掛けた時に買ってあげた方が良いと思うんだけど」

「まぁ、それもそっか」

「ぬいぐるみにすっか」

「それじゃあ、外で待っとく」

「分かった」

 万が一、ぬいぐるみを渡して、妹に気持ち悪いとか言われたら、それはそれで思い出として扱おう。

 そして、そのときは、ぬいぐるみは俺が貰う。

 オーソドックスなのは、クマのぬいぐるみなんだけど、他に良いのがあるとすれば、ゆるキャラとかがいいのかもしれない。

どのみち、兄からのプレゼントなんか、まともに大事にされないかもしれない。

 妹の友達とかにバカにされるかもしれない。

 とりあえず、渡すことが大事だ。

 結局、クマのぬいぐるみを買ってみた。

 そのままの状態で、渡してあげることにした。


 一応、買い物はこれで終わることにした。

「ちゃんと、買えた?」

「うん。喜んでもらえるかは分からないけど」

「昼ごはんはどうする? さすがに二人分頼むのなんか出来ないぞ」

「あ~、昼は家で食べようよ」

「分かった。じゃあ、帰ろっか」

 来た道を帰っていき、駅まで歩いていく。

 また、俺の中に吸い込まれていき、電車に乗る。

 そして、家に着いたときは、二人でいる。

 一応、ディスカウントストアで好きなカップ麺を買って帰った。

 家に入って、昼ごはんの準備をする。

 とりあえず、クリスマスプレゼントは自分の部屋に置いておき、リビングでお湯を沸かす。

「晩ごはんはどうする?」

「どうするって、出前しかないんじゃないの?」

「ファミレスに行ってみる?」

「さっきは無理って言わなかったけ?」

「なるべく、混んでない時間帯に行ったら、大丈夫なんじゃないかなって思うんだよ」

「それでも、結構危ないかもしれないぞ」

「今日も結構危なかったけどな」

 やっぱり、人がいるところではなかなか難しい。

「まぁ、何とかなるんじゃないかな? 別に犯罪行為をやろうというわけではないし、行こうぜ」

「お前がそこまで言うなら」

「昼ごはんはカップ麺で悪いけどな」

「別にいいけど」

 朝も昼も同じものを食うんだから、晩ごはんは何とか豪勢にしておきたい。


 昼ごはんも食べ終わり、分身はくつろいでいる。

「それじゃあ、勉強しながらアニメ見るわ」

「今日は、どんなアニメなの?」

「魔法とかでバトルする感じ?のアニメ」

「昨日とはちょっと違うんだな」

「ずっと、ラブコメだとちょっと飽きるからな」

「たまには、別のジャンルでもって感じ」

「まぁ、そういったところかな」

 また、DVDをセットして、のんびり見始める。

 この生活も二日目になった。

 多分、家族が帰ってくる頃には、いなくなる。

 また、寂しくなってしまう。

 アニメが始まり、じっと見続ける。

そして、少し血が飛んだりするような場面とかも出てくる。正直、俺はこういうシーンが苦手だから、ラブコメアニメが好きになったというのもある。

 今回は、苦手なジャンルをチャレンジしているのだが、やっぱり向いていないかもしれない。

 分身の方を見ていると、軽く嫌そうな顔だった。

 やっぱり俺の分身だった。苦手なのも同じだ。

 そして、一話が終わる。

「ごめん、俺はこのアニメ苦手だわ」

「俺も結構苦手だわ」

 一応、借りてきたのだから全話見ようとは思う。

 すぐに、二話を再生した。

苦手なジャンルは見てると、精神的にしんどくなることがある。耐えて見るアニメってなかなかない。

 まぁ、全部が全部そのシーンとかではないから、のんびりと見れるところもある。そういうところを楽しんでいたり、主題歌を楽しんだりする。

 クリスマスイブにアニメを見るというのは、完全に非リア充に分類されているんだよな。

ケーキの一つでも買っといた方がよかったのかな?

 まぁ、仕方ない。これはこれで楽しいし。


 そして、物語が進んでいく。

次が気になるところで、二話が終わってしまった。

「さてと、次のDVDを入れるか」

「そうだな。気になるし」

 次が気になるという点が共通の認識だった。

 そして、三話が始まる。

 主題歌がだんだん耳に残り始めたので、フルで聞きたくなる。CDでも買おうかな。


 そして、気が付くと最終話まできてしまった。

 最初は苦手だと思っていたが、結構、ストーリー自体は面白いので、ずっと見れる。

 最終話も終わり、気が付くと夜になっていた。

「見いってしまったな」

「普通に面白かったな」

「今何時?」

「えーと、八時半だな」

「そろそろ行く?」

「まだ、混んでるかもな」

「九時過ぎたら行こっか、それとも、もうお腹が空いてるなら行ってもいいけど」

「いや、もう少しだけ待てる」


 そして、三十分後。

「九時回ったし、それじゃあ、行こっか」

「本当に大丈夫かな?」

「まぁ、何とかするから安心しろ」

 根拠のない自信がこみ上げてくる。

 デパートに行ったときの鞄を持っていく。

 一応、財布と携帯の確認をしておく。

 確認も終わり、家を出ていく。

 レストランまでは、歩きでも行ける。

 前行ったレストランは、近いのだが、レンタル店が遠かったから、自転車で行ったのだ。

「ふぅ、夜は桁外れに寒いなぁ」

「お前の中に入ってもいいか?」

「一人だけ抜けがけするんじゃねぇ」

「分かった分かった。にしても、寒いな」

 二人ともブルブル震えながら、歩いていく。

 ファミレスに着くと、人は普通にいた。

クリスマスイブなんだから、カップルとかは家か、ホテルでイチャイチャしてたらいいのに……

「何名様ですか?」

「二・・・一名です」

手が半分チョキになっていたのを見逃してほしい。

「喫煙席か禁煙席がございますけど」

「禁煙席で」

「案内します、こちらへどうぞ」

 なるべくなら奥の方へ案内されたい。

「こちらの席です」

 案内された席は、結構奥の方で、安心した。

店員さんが下がったので、こっそりと会話をする。

 メニューを開いて、

「どれ食べたい?」

「ハンバーグがいいかな」

「それじゃあ、大きめのハンバーグ頼んで、それを二人で食べるんでいいんじゃないかな?」

「それじゃあ、それ頼んでね」

「了解」

 お呼びだしボタンを押して、店員さんを待つ。

 ダブルハンバーグとやらを頼んで、ドリンクバーもついでに注文する。

 注文が終わり、しばし休憩の時間。

 店内でも、クリスマスソングが流れていた。

デパートのときも流れていたのだが、歌詞できっと君は来ない~、一人きりのクリスマス・イブって、君は来ないとか言っちゃダメだろ。

 デパートなんだから、来てくださいって感じの歌にした方がいいんじゃねぇのかな?

 そんなことを思う辺り、よっぽどクリスマスを憎んでる人間だと思ってしまう。

 こんな時間に一人(本当は二人)でファミレスに来るって、周りの人からしたらどう思うんだろ?

 可哀想な人だなとか思ったりするのかな?

 多かれ少なかれ、そう思ってる人がいるはずだ。


「お待たせしました」


 ダブルハンバーグが、テーブルに運ばれる。

 ここから少し周囲との戦いが始まってしまう。

 なるべく人に見られないように、食べないといけない。分身は一応、自分と反対の席に座っている。

 まずは、自分が一口食べることにした。

 一応、ファミレスに来るときに作戦は立てた。

 俺が席を立っている間に、分身がハンバーグを食べることになっている。

 まず、最初に一口食べるのは、いきなり立ち上がって、トイレに行って、その間にハンバーグが減ったりするのが異常な光景だから怪しまれるという理由のため、まず一口だけ食べる。

「美味しいな」

「早く食べたいなぁ」

「もう少しだけ待ってくれ」

「早くしろ」

「分かった。トイレ行くから周りに気を付けながら食うんだぞ。とりあえず五分ぐらいしたら戻ってくるから、それまでに食べるんだぞ」

「短くない?」

「チャンスは何回もあげるから」

「なるほど分かった」

 とりあえず、俺は席を立ち、トイレに行く。

 一応、携帯で時間を測っている。

 洋式のトイレに入り、軽くひまつぶしをする。

 味わってくれたらいいなぁ。

 一応、明後日には家族が帰ってくるので、それからは一人になる時間以外は会えないかもしれない。

 まるで、遠距離恋愛のような状態だな。

 携帯を見ると、四分経っていた。

 水を流し、手を洗い、トイレから出ていく。

 席に着くときには、五分になるだろう。

「しっかり五分で戻ってきやがった」

「その辺は、几帳面だからな」

「今度は俺が食べる番だな」

「あんまり食べすぎんなよ」

 ダブルハンバーグが普通サイズのハンバーグになっていた。どんだけ食べたんだよ。

 俺もハンバーグを食べて、しっかりと味わう。

 向かいから食い過ぎとか言われてるが、気にしないようにして食べる。

 ほとんどなくなった頃にもう一度トイレに行く。

 普通に用をたして、帰ると完全に無くなった。


「はぁ、美味しかった」

「満足?」

「充分満足」

「じゃあ、帰ろっか」

そして会計をして、寒い夜空の下、帰っていった。


 家に帰ってから、初めて二人で風呂に入り、軽く勉強をしてから寝た。

 風呂では特に会話もなく、互いに背中を流しあってから、寝ていった。



 十二月二十五日。クリスマス。

 午前八時。

 俺と俺の分身以外、誰もいないこの家は、やっぱり寒くてしょうがない。

「それにしても、今日は一段と寒いな」

「そうだな。そういえば、いつぐらいに家族は帰ってくるの?」

「明日だってさ」

「じゃあ、いるのは、今日までってことだな」

「そうだな」

「今日はのんびり過ごしたいな」

「じゃあ、家でのんびり過ごすか」

「お前は、勉強しなさい」

「俺はのんびり過ごさせてくれないのか」

「ハハハ、クリスマスだし、今日だけはいっか」

「というわけで、ゲームでもする?」

「ゲームかぁ。久しぶりにしてみたいな」

 リビングで、ゲーム機を準備し始める。

 ほとんど使うことがなかった、二つ目のコントローラを出してきて、接続する。

「手加減はしてくれよ」

「まぁ、初心者だから手加減はする」

多分、初めてするであろう分身には負けないはず。

しかし、

「ヤバイ、負ける負ける」

 勝敗はほとんど拮抗していた。

 そもそも、俺の分身だから、実力はほぼ互角。

 何故、このことを忘れていたのだろう?

 まぁ、勝ち越すまではやり続ける。

「ヨッシャー」

「初心者には手加減しろよ」

「何が初心者じゃ、ボケ!」

 多分、今までゲームやってきた中で、一番面白かったに違いない。

 実力が同じだから楽しくてしょうがない。


 その後、二時間ほどゲームをし続けた。

 朝ごはんのことなんかほとんど忘れていた。

「昼ごはんどうする?」

「うーん。何でもいいかな」

「ファーストフードの店でも行って、チキンでも買ってこようか?」

「あっ、それいいかもね。クリスマス味わえるし」

「それじゃあ、買いにいってくる」

「いってらっしゃい」

「いってきまーす」

自転車でファーストフードのお店まで走っていく。

そして、チキンを二セットぐらい買って、帰る。


「ただいま~」

「おかえり~」

 リビングで一人でゲームをしていた分身は、とてつもなく真剣だった。

「はい、チキン」

「ありがとう。早く食おうぜ」

「そうだな。じゃあ、ゲームを止めよっか」

 ゲームの電源を切って、昼ごはんのチキンを二人で食べる。やっぱりクリスマスにチキンを食べるっていいもんだな。クリスマスって悪くないな。

「クリスマスって、楽しいな」

「本当、俺と同じこと考えてるよな」

「そりゃあ、俺がお前の分身だから」

「そんな答えが返ってくると思ってたわ」

 二人で笑い合う。

 こんな時間もしばらくすると、終わってしまう。

 そんなことしか考えられない。

 刻々と近づいていく、別れの時間。

 昼ごはんも終わり、

「じゃあ、アニメでも見るか?」

「そうだな。アニメにはまりつつあるからな」

「そうだな、どのアニメがいいかな?」

「普通に全部見れるやつ」

「そうかぁ、じゃあ、これにしよっかな」

 とりあえず、またラブコメを見ることにした。

「また、ラブコメ?」

「文句は受け付けない」

「文句を言うつもりはないけどな」

「それじゃあ、セットするから」

 このクリスマスで俺たちは、既に二つのアニメを最後まで見ている。

「それじゃあ、再生」

 三つ目のアニメの一話が始まる。

始まって十分ぐらいして、ヒロインが出てくると、

「おぉ、めちゃくちゃタイプの女子や」

「おぉ」

 多分、二人同時に思ったんだろう。

 以心伝心というか、なんというか、面白いな。

 それから、二人でその女の子に見とれていた。

 それから、時間はすぐに経ってしまう。

 最終話までどんどん進んでいく。

 このアニメは二期が来年の一月から放送される。

 楽しみでしょうがない。

 そして、また夜になっていく。

 徐々に近づいていく別れの時間。

「晩ごはんはどうする?」

「晩ごはんはどうしようかな?」

「また、どこかで食べに行く?」

「家に何か材料とかないの?」

「勝手に使うのはダメだと思うから」

「ピザでも頼む?」

「今からじゃ、結構遅くなるからな」

 二人で悩み始める。

「近くのラーメン屋でも行ってみる?」

「それこそ、怪しまれるだろ」

「じゃあ、お菓子でも食べるか? 一応、パーティぽくなるはずだから」

「それでいいのかよ」

「クリスマスの最後は盛り上がろうぜ」

「盛り上がるかなる」

「ゲームもして、アニメも見て、盛り上がろうぜ」

「仕方ないな、付き合ってやるか」

「ヨッシャー、ゲームの電源をオン!」

 俺たちは頭のネジが完全にぶっ飛んだ。

 一昨日に買ったスナック菓子を、開けまくり、食べては遊んで、食べては遊んでを繰り返した。

 ただただ、何も考えずに遊び続けた。


 クリスマスも終わりまであと二時間。

「一応、今日でお別れになるな」

「うん」

「まぁ、ここ数年で一番楽しかったと思う」

「俺から見ても、お前は楽しんでたな」

「お前の呼び方って、何が正しかったん?」

「分身だし、お前と同じ名前だろうな。だから大成なんじゃないの?」

「そっか……今まで、お前としか呼んでなかったからな、急に思い出して」

「俺はお前のことをこれからもお前って呼ぶけど」

「そっくりそのまま返すわ」

「さて、風呂にでも入るか」

「急に仕切りだしたな」

「たまには、こっちから話したいねん」

「それなら、それでいいけど……風呂に入るん?」

「まぁ、一人で入っても寂しいし、昨日と同じく一緒に入りますか」

「その前に風呂を沸かさないと」

 俺は、沸かしにいった。

 それまでの間が暇になってしまう。

 お菓子は、九割ほど食べてしまったし、アニメも今から見ても、途中になってしまいそうだし、これからどうしよっかな?

「何か静かになっちゃったな」

「さっきまでの盛り上がりが嘘のようだな」

「まぁ、もうすぐお別れになるからな」

「寂しい?」

「そりゃ、寂しいだろうな」

「ちゃんと、友達作れよ」

「まだ、それ言うのかよ」

「当たり前だろ、これでもお前の分身として、心配してるんだからな」

「それは、ありがたいな」

「ありがたく思うなよ」

「また、来年も出てきてほしいけどな」

「そうだな、来年も出れたらいいけどな」

「でも、クリスマスを分身と一緒に過ごすなんて、俺以外にいるんかな?」

「多分、日本で初めてだろうな。分身と一緒にクリスマス過ごしてるやつなんて」

「まぁ、分身と遭遇することがないからな」

「ほとんどの人は、友達とか家族と過ごすんだよ」

「はいはい、大学にいったら何とか頑張って友達作りますから」

「本当に頼んだぞ」

「でも、それでも出来なかったら、お前とのんびりとクリスマスを過ごしたいわ」

「それって、告白?」

「ほとんど、告白って思ってもらっていいぞ」

「ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございます」

「急に敬語はやめてくれ」


「お風呂が沸きました」


 そして、二人でまた、風呂に入る。

 改めて、自分の体を見てみると、筋肉とかもほとんどないし、残念な体であることは間違いない。

「人の体をじろじろと見るな」

「自分の体を見るなんて、そうそうないからな」

「さて、背中でも流してもらおうか」

「はいはい、俺の背中も流せよ」

「やけに優しいな」

「今の今まで優しかったと思うけどな」

「昔よりかは、優しくなったかな」

「もともと、表面化しないからな。俺の優しさは」

「あっ、そうか、人と話をしないもんな」

「背中はたわしで流せばいいのかな?」

「訂正する。昔と変わってない」

 こんなたわいもない話もするのも今日まで。

 そして、背中を流し合って、風呂から上がる。


 そして、分身とは自分の部屋で最後を過ごす。

「クリスマスもあと一時間かぁ」

「お前はいつ俺の中に帰るの?」

「クリスマスが終わったと同時に帰るつもり」

「童話のような帰り方だな」

「なるべく、長い間過ごしたいんだけど、やっぱり長く居すぎると、愛着とかが出てくるからな。たまに出てくるぐらいがちょうどいいんだよな」

「なるほどな」

「じゃあ、またしばらく会えないのか……」

「会おう思えば、会えるけど、そんなに俺に会いたいか?」

「いい話し相手にはなってくれるからな」

「そんな理由かよ」

「あとは、楽しいからかな」

「そんなこと言われると、照れちゃうよ~」

「でも、事実ではあるから」

「そうですか」

 俺は、分身が帰るまでにもう一つだけやらないといけないことがあった。

 それは、帰るギリギリまではしない。

 それからは、部屋でゴロゴロしていて、本当に無駄な時間の使い方をしていると分かっていた。

 勉強でもするべきなんだろうけど、今はこの時間をのんびりと大切に過ごしていたい。


 十二月二十五日。午後十一時四十分。

「あと二十分か」

「意外と時間が経つのは早いんだな」

「さて、そろそろ俺も帰る準備しないとな」

「何の準備が必要なんだよ」

「色々と準備がいるんだよ。体力とか使わないといけなし、精神統一とかもしないといけないし」

「それじゃあ、準備する前にちょっと時間をくれ」

「何かするのか?」

「いいからいいから」


 俺は、やらないといけないことの準備をした。

 あるものを取りに行く。

 そして、準備が完了して、始まる。



「大成、クリスマスプレゼントあげる」

「えっ?」


俺は、分身にクリスマスプレゼントを買っていた。


「これっていつ買ったの?」

「デパートに行ったとき」

「開けていいの?」

「うん。開けてもらいたい」


 分身は、プレゼントのラッピングをはがして、プレゼントの中身をそっと取り出す。


「マグカップ?」

「ちなみに、それは俺と同じ色のマグカップだからな。一応、クリスマスの三日間楽しかったからな。そのお礼の気持ちをプレゼントにした」

「・・・」

 あれ? 反応が悪いな。もしかして、嫌だった?

「だ、大丈夫? 一応、頑張ったんだけど……」

「・・・・・・ありがとう、ヒッ」

「うん。どういたしまして」

「本当にありがとう。ありがとう」

「そんなにお礼なんか言わんでもいいぞ」

 分身を見ると、涙がこぼれていた。

「もしかして、泣いてる?」

こういうときに、デリカシーがほとんどない俺は、本当にバカなんだろう。

でも、俺もかなり涙が出そうになっていた。

「泣いでだら、悪いのかよ?」

「いや、泣くぐらい喜んでもらえて、めちゃくちゃ嬉しいから」

 一応、喜んでもらえて本当に良かった。

 実際にここ数年で、一番楽しい三日間だった。



「ウッ、大切にじたいけど、このプレゼントは、持って帰ることはでぎないから」

「何でだよ」

「持って帰っても使い道がないんだよ。だから、また俺が出てきたときのために置いといてくれよ」

「せっかく買ってきたのに」

「本当に嬉しいんだよ。だからこそ、また二人きりになったときにでも、二人で飲んだりしたいから」

「それなら、それでいいんだけどさ、戻ってこれなくなるみたいな話とかしてたじゃん」

「じゃあ、戻ってこれなくなったら忘れるの?」

「忘れるつもりはない」

「ある意味、そのマグカップを俺と思って、飾ってくれたらいいから」

「じゃあ、勉強机の上にでも飾っておくよ」

「それがいいんだよ。ごめんな。せっかくお前から貰ったプレゼントだったのに」

「多分、これがいいのかもな」


 しばらくの沈黙が部屋に流れていく。


「そろそろ十二時になりそうだな」

「うん」

「絶対にまた戻ってこいよ」

「もちろん。そのつもりだから」

「それから、ありがとう・・・大成」

「こちらこそ楽しかった。ありがとう・・・大成」

 同じ顔をした二人が、部屋で会話をする。

「ちゃんと友達作れよ」

「分かってる」

「ちゃんと勉強しろよ」

「分かってる」

「それから、家族も大事にしろよ」

「もちろん。お前も、俺にとっては家族だからな」



「それじゃあ、またな」

「ちょっと、窮屈かもしれないけど、元気でな」


 そして、俺の中に大成が入ってくる。

 俺の意識がすぅっと消えていき、寝転がった。



「う~ん」

 気が付くと朝の八時だった。

 地べたでしばらく寝ていたのだろう。

 かなり寒くて、今すぐにでも暖まりたい。

 俺は、勉強机の上を見ていた。

 マグカップがそこに存在していた。

 部屋を見ても、そこには俺以外誰もいない。

 リビングまで行ってみる。

 そこには、パーティーをした後のような状態のまま放置されていた。家の隅々を見回っていく。

 どこにもいない。

 あぁ、あいつはもうここにはいないんだな。

自分の心にぽっかりと穴が空いたとはこのことか。

 虚無感にも襲われて、辛いということがどんどん大きくなっていく。

 もう一度、リビングに向かっていく。

 そこにあるのは、二人で使ったコントローラが置かれていたり、コップも二つある。

あいつがいたという証拠がここにあるというのが、自分にとってかけがえのないものだった。

 でも、片付けないといけない。それが嫌だった。

 心を無心にして、お菓子の袋を捨てたり、ゲームを元の場所に置いたり、コップを台所に置いた。


「そうだ、みんなの分のクリスマスプレゼント」


 デパートに買いにいったプレゼントの袋を、リビングまで持ってきておく。

 家族が帰ってくるのは、夕方らしい。

 それまでの間、何もする気力が起きなかった。

 朝ごはんすら食べたくなかった。

 食事が喉を通るとか思えないほどだった。

 そして、いつの間にか昼を過ぎた。

 着替えてすらいないので、何か服を着替えに、自分の部屋まで戻っていく。

 適当に選んだ服を着て、またリビングに戻る。


 車の音が聞こえてきた。多分、家の車だ。

 帰ってきたのかな?

 ありったけの力を振り絞り、立ち上がる。

 せっかく買ってきたプレゼントを渡したい。


「「「ただいま~」」」

 三人が、声高らかに玄関に入っていく。

 やっと帰ってきた。そんなことしか思えない。

「おかえり~」

旅行カバンを掲げて、リビングに三人入ってくる。

「ちゃんと、元気にしてた~?」

「うん。勉強に集中できた」

 三人が全員リビングでくつろいでいく。

プレゼントを渡すタイミングはここでいいのかな?

「はいこれ、お土産ね」

 お菓子を渡された。

「うん。ありがとう・・・あと、それから、俺から家族みんなにクリスマスプレゼントがあります」

「「「えっ?」」」

 全員ハモった。さすが家族だな。

「まぁ、そんな大したものじゃないんだけど、一応クリスマスイブに買いにいったから」

「大成がプレゼントねぇ」

 俺が家族みんなに一つずつラッピングされたプレゼントを渡していく。


「ありがとね」

「お兄ちゃん、ありがとう」

「大成、ありがとう」


三者三様で、お礼の言葉を言ってくる。

「開けていいの?」

「いいよ」

 みんなが、ラッピングをはがして、プレゼントを出していく。


「わぁ、マグカップだ~」

「みんなとお揃いなんだね」

「なかなかいいな」


 気を使って言ってくれてるのかもしれないが、単純に喜んでおこう。

「喜んでもらえて嬉しいな。あと、それと、椿にはもう一つだけプレゼントあるから」

「えっ? もう一つくれるの?」

 目をキラキラ輝かせて、こっちを見てくる。

「これだよ」

 袋のまま、渡してみた。

「あ~、ぬいぐるみだぁ、可愛いな~」

 喜んでもらえて本当に良かった。

「ありがと♪ お兄ちゃん」

「どういたしまして」

 嫌そうな顔をしていないので、一応、良かった。

もしも、嫌そうな顔をしたら、没収する気だった。


「それにしても、大成優しくなったな」


 この言葉が、俺の頭の中でよみがえる。

 昨日の風呂で言われた言葉だった。

 鮮明にそこの記憶が、再生されていく。


「昔より、一段と優しくなったな」


 また、よみがえっていく。

 昨日の晩ごはんを思い出せないのとは逆だ。

 昨日のことが、一言一句と思い出していく。


「あら~、お父さん、昔から優しいじゃない」


 俺の中で、我慢していたものが決壊を始めた。

 涙がどんどんこぼれて、落ちていってしまう。


「お兄ちゃん? どうしたの?」

妹に気付かれてしまっても、涙は止まらなかった。

声にもならないほど、泣いていた。


「大成、どうしたの?」

 家族全員、俺に集中してくる。

 そりゃそうだ、いきなり泣き出したんだから。

 理由は分かってる。寂しくてしょうがないなら。

 あの三日間が本当に楽しくて楽しくて、ずっと、続いてほしいと願っていたから。

 でも、別れてしまって辛いから。

 あいつともう会えないとか考えてしまったり、あいつのことを忘れてしまったりするのが嫌だった。

家族には、喜んでもらえて嬉しかったとか、適当に理由でも付けて部屋に戻ろうとしたのだが、もう、声なんか出せる状態にはなっていなかった。


 それから、俺は、何時間も泣き続けて、家族全員から何度も抱擁されていた。

泣き止んでも、呼吸が乱れていて上手く喋れない。

 何とか頑張って、部屋に戻るとだけ言い残して、部屋に戻った。

それから、部屋でマグカップを見て、また泣いた。

 泣くような男はモテないとか言われるが、これだけはしょうがないと思っていた。


これが、俺にとって一番のクリスマスの思い出だ。


 その後、誰も涙の理由を聞いてこなかったのは、気を使ってくれていたのだろうな。


 それから、大学受験は見事、志望校を合格した。

 それからは、出来るだけ友達を作って、大学二年生の頃には生まれて初めての彼女も出来た。

大学の四年間のクリスマスはまぁまぁ楽しかった。


 その間に、あいつは出てくることはなかった。


 大学も卒業して、就職もした。

 そこで、働きながらも友達と会ったり、趣味が合う友達も出来て、とても楽しく過ごしていた。


 そして、三十歳の時に、結婚した。

 同窓会で、たまたま仲良くなった女子と、ご飯に行ったり、デートをしたりして、告白をした。

そしたらOKの返事がいただいたので、付き合った。

 そして、二年の交際期間を経て、夫婦になった。


 その間にあいつは出てくることはなかった。


 そして、時は経って四十歳。

 自分も父親になって早七年。

 子どもというのが、可愛くてしょうがない。

 二人の子どもに恵まれて、幸せだった。

 そして、クリスマス。

 奥さんが、子どもを連れて、ママ同士でクリスマスパーティーに行くことになった。

多分、久しぶりの一人で過ごすクリスマスだった。

 家で、もう一つのマグカップを取り出す。

 いつか取り出そうと思っていたが、出すことなく二十年も経ってしまった。

 引っ越しの時には、一番大事に持っていった。

 テーブルに座り、自分の分のマグカップと誰もいない向かいの方にもう一つのマグカップを置く。

 今でも、あの三日間のことを思い出す。

 人生で、一番といっても過言ではないほど素晴らしい三日間だった。もちろん、四十回のクリスマスにおいて、ナンバーワンである。


 冬はとても寒いものである。

 マグカップには温かいココアをそれぞれ入れて、今日はのんびりと過ごそうとする。

 一口飲んで、気持ちが良くなる。

 だんだん力が抜けるような感覚になった。



「久しぶり」



 目の前には、俺と同じ姿をした男がいた。

そして、ココアの入ったマグカップを一口飲んで、

俺と目が合う。



「戻ってくるのに、何年かかってんだよ」

「もう、おじさんになったな」



「幸せだったんだろ」

「あぁ、幸せだ」



「俺なんか必要なくなったかと思ったぞ」

「いや、ずっとお前と話をしたかった」



「それじゃあ、少しの間だけ話でもしようか」

「そうだな」



 二人はそれから、たわいもない話を続けた。



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