無意識の線引き
3
「く…んあ~~」
体を起こし、伸びと同時に大きな欠伸。今日は、ランと会ってから五日目にあたる日だ。「おはよう」と言いながら横を向くと、いつもいるはずのランがいなかった。
「ラン?」
まだ体温が上がっておらず、うまく動かない体を何とか立ち上がらせ、外に出る。
「うわ……」
思わず、そう漏らした。大きく広げられた美しい羽に、見惚れてしまったからだ。そんな俺の間の抜けた声が聞こえたのか、彼女はゆっくり振り向いた。
「今日は私の方が早く起きたわね」
ランは、そう言って笑った。蟷螂に笑いかける蝶もおかしなものだが、俺への警戒心が薄れたのはありがたい。常に警戒心むき出しで睨まれてても、いい気はしないからな。
「羽、治ったのか?」
「一応はね。でも、まだ飛べそうにはないかな。今日一日休んで、明日ここを出て行くわ」
ありがとね――そう言って、もう一度笑った。
「そうか。なら、しっかり休めよ。俺は出かけてくるから」
手をふって歩き出すと、彼女も手を振って見送ってくれた。重ねて言うが、一応俺は天敵のはずなんだが。
ランが見えなくなると、途端に腹が鳴った。考えてみれば、四日前に蛾を食べてから何も食べていない。暫くの間ずっとランといたからなのか、何となく虫を食べる気になれなかったからだ。まぁ、だからと言ってこのまま葉についた朝露しか口にしなかったら生きていけないわけで、流石に何か食わなきゃならない。
どこかに美味そうな奴でもいないかなぁ………。