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変わり者  作者: 滝川 椛
1/5

邂逅


   1


 

「あっち~」

 俺は額の汗を拭いながら草の陰を出る。はるか上空では、真っ白い太陽がギラギラと地上を焼いていた。

 トントンと長細い葉の上を飛び移っていると、唐突に腹が鳴った。考えてみれば、昨日丸一日何も喰ってない。

「めし、捕りに行くか」

 蟷螂かまきりである俺は、人間と違ってニ、三日何も食わずに生きていける。今も、腹こそ鳴ったものの、そこまで空腹を感じているというわけではない。ただ、何となくだ。感覚的に言えば、三時のおやつみたいなもんだ。

 再び、トントンと葉の上を飛び移る。確かこの先に、程よく背の高い植物が生えてたはず。俺はそこでめしにしようと思ったわけだ。


「………」

 先客がいた。つっても、別の蟷螂がいたわけじゃあない。俺から見れば、ただの食いもんだ。一般的な言い方をすりゃ、そこにいたのは美しい羽をもった揚羽蝶あげはちょうだ。

「誰っ!?」

 そいつはすぐに俺の存在に気づき、警戒し始める。そりゃそうだ。なんたって、俺はこいつの天敵なんだからな。

「私を食べるの?」

「………」

 ま、普通はそう思うよな。だからって訳じゃないが、俺は何となく、満面の意地の悪い笑みで言ってやった。

「いいや、食わねぇよ」

 俺の返答に、この揚羽蝶は驚いているようだった。そりゃ、美味そうな獲物が目の前で座り込んでるのだから、普通に考えりゃ食うに決まってる。だが………

「飛べねぇ蝶なんざ食わねぇよ。俺は生きのいい奴しか食わない。こう見えても、美食家グルメなんだ」

 そう。この蝶は、飛べない。片方の羽が破れていたからだ。おおかた、別の蟷螂にでも襲われたんだろう。この羽でそう長い距離飛べるわけもないし、その蟷螂は近くにいるはずだ。

 別に、その犯人が誰だろうと俺には関係ないが、それでもやはり気にはなってしまうのが人情(虫情?←なんだそりゃ)ってものだろう? 葉の端へ寄り、地上を見下ろした。案の定、真下で顔見知りの蟷螂――ジンがきょろきょろと辺りを見渡していた。

 俺が視界に入ったのか、奴は一直線に俺に向かって来た。奴が同じ葉に降り立つと、さっきまで俺を睨んでいた蝶は恐怖に顔を引きつらせ、今度はジンが俺を睨んできた。……やれやれ。

「おい、セン。そいつは俺の獲物だ。まさか、横取りしようってんじゃないだろうな?」

「横取りも何も、お前はこいつを取り逃がし、俺は確保した――違うか?」

 そう言うと、ジンはものすごい形相で俺を睨んできた。しかし、それが正論だと奴もわかってるんだろう。「ちっ」と盛大に舌打ちを鳴らしながらも、どこかへ飛んで行った。

「どういうつもり?」

 また俺を警戒し始めた蝶は、俺を睨みながら聞いてくる。

「べつに…ただ、何となく」

「はぁ?」

 これもまた当然の反応だろう。「食わない」と言いながら、「自分が確保した」なんて言ったんだからな。普通に意味がわからないだろう。しかしまぁ、本当に何となくだった。何となくで、普通とは異なることをした。なんたって俺は――《変わり者》だかんな。


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