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第三話

 しばらくして落ち着いた少女は、

「ごめんなさい、お礼も言わないで。私はアリシアといいます。助けてくれて、ありがとうございます」

 そう言うと、微笑んで頭を下げる。

 眠りながら涙を流す姿を見ただけに、悲しみを押し殺したその姿に、レオは胸を締め付けられるような気がした。

 意識を取り戻したら、いろいろ質問しなければならない事があったのだが、そうする気になれない。何か言おうと思うのだが、何を言っていいかわからない。

 気まずい沈黙が落ちそうになった時、少女が口を開いた。

「あ、あの……」

 なぜか恥ずかしそうに頬を染めている。

「ええと、レオン……? すみません、ぼーっとしていて」

 申し訳なさそうに眉を下げた顔を見ていると、レオの心にのしかかっていた思い何かが少し軽くなった。すると美しい少女と向かい合っていることを思い出して、今度はレオの顔が熱くなる。

「レオンハルト。レオでいいよ。それに畏まった喋り方もやめてくれないかな。なんか耳馴れなくて」

「はい……じゃなくて、うん。わかった、レオ」

 顔を背けて頭をかくレオに、アリシアはそう言って小さく笑う。初めて彼女の自然な笑顔が見られて、レオは心底ホッとした。

 そこへ、母のローサが入ってきた。

「あら、気がついたの。よかった」

 急に現れてニコニコと自分を見ている女性に驚いている様子のアリシアに、レオは笑いながら告げる。

「俺の母さんだよ、アリシア。気を失ってる君を手当てしたのは母さんなんだ」

「レオの母のローサよ。よろしくね」

「あっ、失礼しました。アリシアです。ありがとうございました」

 焦って挨拶を返すアリシアに、ローサも目を細める。

「気がついたのならよかったわ。朝ごはんの前に、体や髪を洗わなきゃね。いらっしゃい」

 そう言って有無を言わせずアリシアの腕をとる。

「え、え、あの……?」

 目を白黒させながら引きずられていく少女を、少年は呆然と見送った。


 アリシアがローサに連れてこられたのは、歩いて数分の所にある川辺だった。昨日、アリシアはここに流れ着いていたらしい。

 そこで髪や体を洗った。長い髪に絡みついた埃や泥がなかなか落ちずに苦労していると、ローサが優しく洗ってくれた。丁寧に梳ってくれる手の感触に、何故かとても安心できた。

 そうして水浴びを終えて、ローサの持ってきてくれた服に着替えて一息ついたころ、ローサが小さな袋を取り出した。

「昨日、ここに落ちてたんだけど、これはあなたの物かしら?」

「あっ」

 それは確かに、村から逃げる時にエミリオから手渡されたものに違いない。大事なものだと言われていたのに、どうして今まで忘れていたのか。自分に腹が立つ。

「悪いとは思ったけど、中を見せてもらったわ。これがどういう物か、わかってる?」

 ローサの顔からはさきほどまでの笑みは消え、恐ろしいほど真剣な表情が浮かんでいた。

 差し出してきた袋を受け取って、中身を出す。

「え、これ……」

 出てきたのはペンダントだった。細い銀の鎖につながった本体は水晶で、翼を広げた竜を意匠化した紋様が刻まれている。

 まじまじと手元を見つめるアリシアにローサも驚いたようで、

「もしかして、中身がなにか知らなかったの?」

 意外そうに聞いてくる。

「はい。つい最近、渡されたんです。私にとって大切な意味を持つものだ、絶対になくすなって」

「そう。じゃあ、その紋様の意味はわかる?」

「はい、翼を広げた竜は、皇帝家の紋章……でも、どうして私に」

 混乱するアリシアにするどい視線を向けながら、ローサは念を押すように問いかける。

「もう一度きくけど、これは本当にあなたの物なのね?」

 その問いに、おそるおそる頷くアリシア。そして、このペンダントを手にするまでの出来事を、すがるようにローサに話した。村での暮らし、自分の立場、騎士団に襲われたこと……

「そう……」

 聞き終えたローサは、何事か考え込んでいた。

「真なる神……よりによってこの子が……なんて皮肉な」

 アリシアの髪と瞳に目をやって呟いたローサは、やがて顔を上げて言った。

「帰りましょう。この話は、レオも一緒に聞いたほうがいいわ」 

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