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魔王陛下と夜色の妃

 








シェリル嬢の一件から早いもので、あっと言う間に一ヶ月が経ってしまった。


あの事件以来ラオはあたしとの婚姻を出来る限り早く執り行いたいと言い出し、あたしも…ちょっと恥かしかったけれど嬉しかったので了承した。


それからは、もうあれよあれよと言う感じでドレスの採寸やら式の日取りやらを決められ、今日に至る。




「さぁ、リールァ様…目を御開け下さいませ。」




促されるままにそっと瞼を持ち上げると、目の前の鏡に映るのは黒髪に黒い瞳の綺麗な女の人。


何度見てもあたしじゃないみたいで落ち着かないのよね。


立ち上がれば真っ白な純白のドレスの裾を侍女が直し、引きずり過ぎないよう後ろで一人が裾を持つ。


エミリアが静かに前に立ってレースの付いた髪飾りが頭に乗せられる。


視界が薄い白のレースで覆われ、やや見づらくなるも、まさに結婚式のウェディングドレス姿に頬に熱が集まった。


本当に今日、ラオと結婚するんだわ…。


いつもならラオが迎えに来るのだけれど今日は違う。


コンコンとノックされた扉を侍女が開ければ、黒の正装をして佇むのはセスさんだ。




「嗚呼、随分美しくなったな。」


「あ、ありがとうございます…。」




真っ直ぐな言葉が恥かしくて顔があまり見えないと分かっていても俯いてしまう。


そうすればセスさんは可笑しそうにクククッと喉の奥で笑った。


ラオによく似た顔で褒められるとどうにも弱いわ、あたし。


差し出された腕に自分の腕を絡めて、部屋を出る。


後ろからは裾を持った侍女が足音もなくついて来る。


婚姻の日、夫婦となる者たちは婚姻の儀まで顔を合わせてはいけないという仕来りに従って、前日の夜から別々の部屋であたしたちは眠った。


そして朝起きるとすぐに入浴し、マッサージを受け、メイクなど様々なことを経て花嫁の姿になったあたし。


ラオもきっと花婿の格好をしているんだと思うと見たいような見たくないような…。




「………礼を言う。」


「え?」




廊下を歩いていると不意にセスさんが口を開いた。


唐突で思わず顔を上げた先には普段のニヒルな笑みとは違う、とても穏やかな笑みが浮かんでいる。


立ち止まってしまったあたしに合わせるようにセスさんも立ち止まった。




「お前からすれば余とあれは随分仲が悪く見えるかもしれん。だが、あれは余が愛した女との間に生まれた唯一無二の息子。…あれに他者(ひと)を愛する喜びを与えてくれたお前には感謝している。」


「そんな…あたしは何もしてませんよ。」


「フフッ、まぁそれでも良い。兎も角、此れから先もあれの事を頼んだぞ。何だかんだ大人になってもあれの寂しがりな所は治っておらんようだしな。」


「あ、あれって昔からだったんですね。」




甘えたなラオを思い出して笑ってしまった。


セスさんも穏やかに笑い、目を細める。




「ならあたしもセスさんに感謝しないと。…セスさんが奥さんと結婚したから、あたしはラオと出会うことが出来たんですから。」


「そうか。そういう考え方もあったか。」




またセスさんが笑うのと廊下の先から侍女が走ってくるのは同時だった。


やや慌てた様子の侍女はあたしたちの前まで来ると、息を少し整えてから顔を上げる。




「リールァ様、大元王様…王がお待ち兼ねでございます。」


「すまん、時間が押しているのだったな。」




さぁ行こうと促されながら歩く。


一歩一歩進む度に自然とラオとの思い出が込み上げてきた。


この世界に連れて来られてから、まだ半年も経っていないのにまるでもう何年もここにいたかのような感覚がする。


開けられた扉の向こうでは既に待ち草臥れていたラオがやや不機嫌そうに佇んでいた。




「遅い。貴様、リアに何もしてないだろうな。」




ギロリと父親を睨む魔王に苦笑してしまう。




「ごめんね、ラオ。ちょっと準備に手間取っちゃって。」


(いや)、リアのせいでは無い。」




歩み寄ってきたラオが腕を伸ばしてくる。


そっとセスさんの腕から自分の腕を外して、ラオの腕に絡めた。


嬉しそうにそのまま絡んだ手と手が繋がれる。


城の外にある広い中庭に面した部屋のテラスからは大勢の人々の声や、ざわめきが聞こえて来て、ドキドキと心臓が脈打つ。


そんなあたしの心境を読んだようにラオが繋いだ手にキスをした。




「リア、案ずるな。誰も反対などしないし、させはしない。」




薄いレースの向こうで紅い瞳が柔らかく細められる。


繋いだ手がそのままラオの胸元に導かれ、服の上から胸に触れた。


手を伝ってドキドキと早いラオの鼓動が広がっていく。




「俺も緊張している。…緊張など初めてだ。」




少し眉を下げて笑うラオを心の底から愛しいと思う。


結婚式ですごく緊張してる……とても可愛いあたしの夫となる魔王様。




「さっさと婚姻して、幸せになれ。」




セスさんのそのたった一言に胸が熱くなる。




「はいっ、お義父さん。」




ラオとあたしはセスさんに背を押されながらテラスへ足を踏み出した。


どこまでも晴れ渡った青空の下に様々な姿をした魔族が集まっている。


あたしたちが姿を現した瞬間、地鳴りかと思うほどの歓声が鳴り響いた。


だと言うのにラオが手を上げた途端水を打ったように辺りはシンと静まり返る。




「我が下に集いし同胞(はらから)よ、今日という日を我は決して忘れはせぬ。祝言(しゅくげん)を述べよ!汝らが王と其の花嫁に!!」




一拍の間を置いて、先程とは比べ物にならないくらいの大歓声が下から湧き上がる。


ぶわりと風が吹いたかと思うと空から綺麗な淡いピンク色の花びらが舞い落ちて来た。


祝福されている。まるで、世界中から‘おめでとう’と言われているような気がして。


優しく腰を引き寄せられる。




「此の娘を生涯我が花嫁とし、愛する事を我が血と名において誓おう!新しき王妃の誕生だ!!」




ラオの言葉に一際多くの花びらが舞い散る。


嬉しくて、嬉しくて…言葉にならないくらいの感情が心から溢れる。




「リア…。」




呼ばれて顔を上げればラオの手にふっとエルディア・リーが現れた。


それを髪に差し込まれる。手渡された花をラオの胸元にあたしも差す。




「…愛してる、美緒。もう手放さない。」




視界を覆っていたレースが持ち上げられて、ラオの顔がゆっくりと近付いて来る。


そっと唇が重なったあたしたちを大歓声が祝福した。


あたしの夫はずっとずっと年上で、魔族を束ねる魔王様。


冷酷で恐ろしいと言われる人だけど本当は甘えたで嫉妬深い寂しがりな人。


これから先も一緒にいよう。どっちかが死ぬまで、ずっと。


お父さん、お母さん…あたしは幸せです。


大好きな人と結婚できたこの幸せをいつまでも大切にしていきたいよ。


薄く開いた視界の先にあった大好きな紅と黒にポロリと涙が零れ落ちた。








「――…あたしも、愛してるよ。ラディオス。」












―――――Fin.



 

 

最後までお読み下さり、ありがとうございました。


完結できたのは皆様の応援のお陰だと思います。


書き終えることができて本当に嬉しいです!


ありがとうございました!!


 

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