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甘い毒牙(11)

 







当日、目が覚めてからの慌ただしさは物凄いものだった。


起きて朝食を摂るとすぐにあたしとラオは引き離され、怒涛の如き勢いの侍女に若干気圧されながら朝からシャワーを浴びた。


元々丁寧なのだが今日はいつもよりもっと時間をかけて丁寧に体と髪を洗われた。


それから体にいい香りのするオイルを擦り込まれ、髪にも甘い花の香りの油をつけられ、浴槽から出れば今度はマッサージ。


手の指先から足の爪先まで解し張りを持たせるように気持ちのいいマッサージを二時間くらい受け、ワンピースを着せられたかと思えば今度はあたしの部屋へ。


そこで既に待ち構えていたエミリアを含む五人近い侍女の手によって爪を磨かれたり全身に保湿クリームを塗り込まれたりとまたマッサージ紛いのようなものを受ける。


髪もさらさらになるまで丁寧に櫛で梳かれたからか普段よりもストレートで纏まっていた。




「では今からお化粧を致しますね。」


「腕によりをかけてリールァ様をもっとお美しくしましょう、皆さん!」


「勿論ですわ!」




更に王の寵愛をいただけるよう我々が全力でリールァ様を磨いてみせましょう。


五人全員で深く頷いてあたしに振り返る。




「よろしいでしょうか?」


「あ、うん…お願いします…。」




ニッコリ笑顔なのに目が笑っていない気がする侍女にちょっと頬が引きつった気がした。


が、そんなあたしの様子に構うことなく侍女がそれぞれに動き出す。


まずは化粧のために下地のファンデーションを塗る。


化粧は元いた世界のものとそう変わらないので見ているだけでも結構いい勉強になる。


今は自分で出来ないけれど元の世界じゃあたしだって女の子だからメイクくらいしてたしね。


手の平で広げ温めたファンデーションがマッサージの要領で顔に塗られていく。


厚化粧じゃなくて、本当に薄く薄く施されるが鏡を見るとそれだけで不思議なくらい肌が綺麗に見えた。


次に別のファンデーションを塗る。これはさっきのものより更に薄く、滑らかに肌に馴染む。


次はアイメイクだ。


目を閉じるよう言われてしっかり閉じれば侍女の細い指が触れてきて睫毛のラインに沿って線が引かれていくのが分かる。


思ったよりも控えめに引かれ、目を開ければ描く前よりも少しだけ目が大きく見えた。


…あれ?




「ねぇ、ラインは下にも引かないの?」


「下、でございますか?」




首を傾げる侍女。やっぱりこっちではアイラインは上だけなのかもしれない。


でもこれだと上瞼ばかり強調され過ぎている気が…。




「ね、それ貸して。」


「リールァ様ご自身で描かれるのですか?」


「うん、上だけだと気になるのよね。」




手渡された筆のような細いペンタイプのものを持つ。


鏡を見ながら描いていると忙しそうにしていた侍女たちは皆動きを止めてあたしをジッと見つめている。


そんなに見られると緊張するんだけどなぁ。


目の縁を少し長めに書いてクルンと上に跳ねさせ、いわゆる猫目にすると、今度は下睫毛の間を描いていく。


幸いこのアイライナーは防水仕様のようで涙とかで流れたりはしないらしい。


これも魔力の効果だとか。魔力ってかなり便利だわ。


描き終えれば見慣れた猫目メイクが完成した。




「はい、ありがとう。」


「まぁ…とても素敵ですわ!目もぱっちり見えますし、本当に猫のように愛らしいです!!」


「このようなお化粧があったなんてっ。」


「リールァ様、今度私(わたくし)達にもお化粧をお教え下さいまし!」




よっぽど気に入ったのかあたしの目を見てはキャイキャイと騒ぐ侍女に、今度教えるからと約束する。


少しして我に返った侍女たちが慌ててまた支度に取り掛かった。


眉が整えられ、派手過ぎない柔らかなベージュ系のリップグロスを塗られ、爪は薄いピンクのマニキュアで統一される。


頬にチークがさされて睫毛にマスカラが重ね塗りされた。


その間にもあたしの髪は後ろでアップにされて流れる髪の毛は緩く巻かれてウェーブを描く。


気分的にはキャバ嬢みたいだけど派手さはあまりなくて、でも少しだけ小悪魔的な印象を受けた。


髪には頼んで紅い薔薇のような髪飾りを付けてもらう。


…なんで紅なのかはご想像にお任せするわ。


これだけで一時間以上かかっているのに、今度はドレスを着なくちゃいけない。


ワンピースを脱いでまずはコルセットを付ける。


どうしてこんな苦しいものをと思うけど綺麗に見せるためなら女性は多少の我慢も必要ですわ、なんて侍女に嗜められつつ思いっ切り締め上げられた。


朝食の量を少なめにしておいてよかったと少しだけ思う。


侍女が持ってきたドレスはあたしが頼んだ通りに仕上がっていた。


一人では絶対に着れないので二人に手伝ってもらいながら何とか着る。


背中部分にある紐を縛ってもらいながら手首足首にお揃いのシュシュを付け、後ろのふんわりとしたレースを別の侍女が綺麗に伸ばす。


履いていた靴を黒くてあまりヒールのないパンプスに履き替えた。


それにも紅い薔薇が飾りとしてついている。




「完成ですわ。お疲れ様にございます、リールァ様。」




鏡の中に映るのはパッチリ猫目の小悪魔的な雰囲気を醸し出す可愛い女の子。


紅い髪飾りの薔薇が程好いアクセントになっている。


お化粧も然ることながら、ヘアメイクもドレスもばっちりだ。


平凡なあたしは一体どこに行ったんだか。


気付けば昼食の時間になってしまっていた。


あぁ、ラオのところに行かないと。なんて考えていれば扉がノックされる。


十中八九魔王様に違いない。


侍女の一人が扉を開ければ案の定予想通りの人物が立っていた。


予想と違ったことと言えば、その後ろに側近がついていることくらいだ。


相変らず黒い服を着ているけれど今日はいつもの装いとは違い、ところどころに紅が使われ、あたしのドレスと対になっているように見える。




「ラオ、そこに居たらキアランが入れないでしょ?」




あたしを見て立ち止まってしまったラオに苦笑しながら注意すれば、あぁと生返事を返して部屋に入って来た。


側近もあたしを見てほぅと感嘆の溜め息を漏らす。




「リア、今日は一段と美しいな。他の男の目にさらすのが惜しいくらいだ。」


「ありがと。ラオもカッコイイよ。その服、あたしのドレスと対みたいで素敵。」


「あぁ。仕立て屋に対にするよう頼んでおいた。」




なんと抜け目がない魔王だ。


少し誇らしげに胸を張ったラオに笑ってしまう。


夜会までまだまだ時間はあるけれど、今日は一日外へは出てはいけないらしい。


せっかくお化粧してくれたのに崩れたら大変だし仕方がない。


昼食を摂り、執務があるというラオに付き合うためにあたしも執務室へ向かった。






 

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