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甘い毒牙(9)

 







「なっ、リ、リア!なんて格好をしているんだ?!」




耳まで真っ赤になった顔が困ったような、怒ったような何とも表現し難い表情を浮べている。


紅い瞳が思いっ切り泳いでいて大きな手も顔の半分を隠す。




「やっぱり、可愛くない?」


「違っ、その、可愛いが…っ、あ、足をさらし過ぎだ!」


「そう?あたしのいた世界じゃこれくらい普通よ?それに、あたしからすればあーんな胸元とか背中がバックリ開いたドレスの方が恥かしいもの。」




持っていた布を奪ったラオは、それをあたしにかけ直した。


そうしてやっとまともに視線を合わせてくる。


…まだ顔に赤さが残ってはいるが。




「足を見せるのは婚姻を済ませた者だけだ。」


「ならいいじゃない。もうあたしはラオと結婚するって決まってるんだから。」


「…それは、そうだが…。」




あたしの言葉に仕立て屋や侍女と同じような表情を浮べて悩むラオ。


多分もう一押しで折れるだろう。




「ね?長い裾でダンス中に転びたくないし、結婚するんだっていい宣伝になるし。」




お願い。と見上げればラオが溜め息を吐いた。


そうして紅い目を細めて仕方が無いなと言う風に小さく苦笑して頭を撫でてくる。


何も言葉はなかったけれど折れてくれたことは雰囲気で分かった。


感謝の気持ちを込めて抱きつくと布の隙間から足が見えたのか、また若干目元を赤らめながらもしっかり抱き締め返してくれる。




「ではそのデザインでドレスを御作り致しますわ。」


「お願い。あ、あとシュシュも作ってもらえる?」


「シュシュ…ですか?」


「そう、こんなやつで手首と足につけたいから。」




そこら辺にあったシュシュによく似たやつを見せれば心得た様子ではいと頷いてくれた。


ラオの紅い瞳を見て、ふっと思いついたことも忘れずに耳打ちしておく。


仕立て屋が笑って了承して、それを見たラオが不思議そうに首を傾げたけれど夜会までの秘密だと言えばやや不満げな顔をしつつも分かったと頷いた。


着替えるから一度ラオには外へ出てもらい、ワンピースに着替えて客間の片付けを侍女と仕立て屋に任せつつ、あたしは廊下で待っていたラオと一緒に庭園へと向かう。


今日は天気がいいから外で昼食を摂ることになっていたのだ。


時間になるまで二人でのんびり花を楽しみながら歩く。


以前は色の濃い花々が多かったけれど、今は色素の薄い淡い色合いの花が多い。


鮮やかな大輪の花も綺麗だが控えめながらも柔らかい小花も可愛くてあたしは好き。


エルディア・リーも前よりずっと綺麗に咲き誇っていて、桜みたいな薄いピンク色の花びらがそよ風に揺られている。


ジッとあたしが見ていたせいかラオは微笑すると驚いたことにエルディア・リーを一輪摘んで、結い上げられていた髪のところにそっと差し込んできた。


傍にあった小さな水瓶(みずがめ)――植物へそこから細い水路を引いて水が流れている――で見れば淡いピンクの花が綺麗な花飾りみたいになっている。


見上げた先にいたラオに抱き締められる。




「ラオ、いいの?これ結婚式で使う花でしょ?」


「知ってたのか。」


「うん、前に聞いたわ。」


「そうか。」




優しく髪を梳かれ、毛先にキスが降る。




「俺は始めから美緒の物だ、今更構わない。」




恥かしげもなくそう言い切って低く笑い、手を引かれ、食事の支度が整った小さなドームに二人で小走りして行った。


走ってくると思ってなかったのだろう。


侍女はあたしたちを見て驚いた後、子どもの悪戯を見つけた母親のような顔をして、それから微笑を浮べてあたしたちを席へ促す。


並べられた色鮮やかな食事と楽しい会話に時間が早く流れて行く。




「リールァ様。」




ダンスの御時間ですわ。エミリアにそう声をかけられて、ようやく何時間も話し込んでいたことに気が付いた。


一日一曲覚えられたらいいけれど残念なことにあたしが覚えられた曲はまだ三曲しかない。


しかも三曲目はちょっとあやふやなのだ。


そのため今日も三曲目の練習がある。


名残惜しそうに目を細めるラオの頭を軽く撫でて、行ってくるわと言えば最近恒例となった頬にキスをされ、無理はするなと念を押されて送り出される。


最初は顔から火が噴きそうなくらい恥かしかったのにもう慣れてしまった。




「陛下は心配性でいらっしゃるのね。」




ラオに見送られて城の中に戻ると先を歩いていたエミリアがクスクス笑いながら振り返った。


慣れているとは言ってもやっぱりちょっとだけ照れ臭くなる。


あたしがちょっと何かするだけでラオはすぐに無理はするな、大事ないかとこっちが呆れるくらい言葉をかけてくる。


けどそれが心の底から心配してくれているものだと分かるから悪い気はしない。


真剣な紅い瞳が不安そうに揺れるからついついあたし自身も無理しないよう気を付けてしまう。


でもそれはあたしも同じだわ。


最近はなくなったけれど、少し前までは夜遅くまで執務をしていたラオ。


時には二日三日と連続で徹夜している様子だったから結構心配していた。


側近は「以前から王はほとんど御眠りになられませんでした。むしろリールァ様がいらしてからはよく休まれるようになってホッとしております。」なんて言っていたが、やっぱり睡眠不足は良くないと思う。


あたしに無理をするなって言うならラオにも無理はしないで欲しい。


本当はそう言いたいけど一国の主である以上執務もこなさなくてはいけないし、色々と他にも仕事がある。


だから何にもしてないあたしが軽々しく口を出せるようなことじゃない。


結婚がまだだから王妃でもないためラオの手伝いをすることも出来ないし。


時々、そういうのがとても歯痒く感じた。


結婚に多少の不安はあるけれども、傍にいるのに手助けが出来ないことの方が苦しい。




「過保護過ぎるだけよ。」




本当はもうちょっと頼って欲しいんだけどね。


そんな言葉を飲み込んで代わりに言ったあたしの言葉に、彼女は殊更可笑しそうにコロコロと笑った。






 

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