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永久の契約(3)

 








見上げればニコリと笑う側近がいて、無理せずともよろしいのですよと言う。


だけど守ってもらう以上はある程度警備内容を知っておいた方がいいじゃない。そう言ったあたしに、側近は緩く首を振る。




「リールァ様が気になさる必要はありません。貴女の自由を制限してしまわぬように護衛するのが彼らの務め、逆にリールァ様が気を遣われては彼らも萎縮してしまいますよ。」


「そうかしら…?」


「そうですよ。貴女はもう少し肩の力を抜いて下さい。」




ぽんぽんと両肩を軽く叩かれて、何とも言えない気持ちになる。


あたしは色んなことをしてもらったりしているが、それらに何か返したいと思うのに、返せるものがない。


そう言えばきっと側近は首を振るだろうけど。


側近は穏やかに笑ってなら、と内緒話をするように口元に指を当てて小さな声で囁く。




「家族と思っていただければ結構です。」


「家族?」


「此の城に仕える者達は皆、互いに家族同然に思っております。ですから、リールァ様も城に仕える者たちを家族だと御思い下さい。家族同士に気遣いなど無用でしょう?」


「…すごい大家族ね。」


「えぇ、何せ大黒柱は王ですから。」




想像したら笑ってしまった。


ラオが父、あたしは多分花嫁、セスさんはおじいちゃんで、側近や兵団、使用人たちはみんな兄弟。


そう思うとすごい大家族だわ。でも不思議と家族という言葉はピッタリ当てはまる。


花嫁だけど、きっとあたしは末っ子なんだろうな。


側近と二人して笑っていたらラオに名を呼ばれる。


振り返るとちょっと不機嫌そうなラオとこっちを見てる兵団長たちがいて、側近はおやおやと笑っていた。




「何を話している?」




どうやらあたしと側近が内緒話していたのが気に食わないらしい。


それでも側近相手だからか怒ったりはしない辺り、ラオがどれだけ側近を信頼しているか見て取れる。




「何でもないわ。ただ、城の人全員を家族だと思えって話。」


「家族?」


「えぇ、リールァ様は我々に気を遣い過ぎますのでどうせなら全員家族だと思われたら、と。」


「ちなみに大黒柱はラオねって言ってたのよ。」


「……それは、少し酷く無いか?」




何とも言えない表情でそう言ったラオにまた笑ってしまった。


でも城の人たちはとても優しくて、こんな大家族も悪くないと思う。


警備の話を終えただろう二人は仕事があるからと執務室を出て行く。




「あ、もし城内を歩かれる場合は何時でも俺達にお声をかけて下さい。」


「御一人で歩かれては王も執務が手に付かなくなってしまいますから。」




なんて茶化すのも忘れない。


本当に何と言うか、兄弟という例えは間違っていないかもしれない。


また執務をやり出すラオと側近をぼんやり眺めつつ、あたしは小さく笑った。


結婚する前から大家族になってしまったみたいで少しだけ可笑しくて、でもホッとするような嬉しさと言うか温かさみたいなものに包まれている気がしてくすぐったい。


ラオとの結婚に不安がないと言ったら嘘になるけれど、結婚して、王妃としてラオの傍に立つことができるようになったら本当の意味でみんなと家族になれると思う。


まだまだ名前を知らない人や会ったことのない人もいる。


その人たちもあたしとラオの結婚を祝福してくれたら嬉しい。


そうして、その人たちと家族のように暮らしていけたら……、




「…嬉しそうだな、リア。」




想像を膨らませていたあたしにラオが微笑しながらそう言う。


そんなに嬉しそうな顔をしてたかしら?


側近もニッコリ穏やかに笑ってそうですねなんて同意してる。




「ふふっ、秘密。」


「俺に隠し事をする気か?」


「そんな大層なものじゃないもの。」




責める言葉とは裏腹にラオの声は静かで優しい音色を響かせる。


そう、いつか…結婚して子どもが出来て、年を取って老いたときに懐かしい思い出として話せるようになるまで、これは秘密。


クスクス笑うあたしにラオは軽く肩を竦めて執務に戻る。


ふわりと風に舞って飛んできた洋紙が足元にヒラリと落ちた。


拾い上げると何も書いていないもので、どうやら羽ペンの試し書きやペン先につく紙の繊維を取るときに使うもののようだ。


その紙が落ちたことに気付かないくらいラオは執務に集中している。


あたしは手持ち無沙汰だったので丁度よく飛んできたその紙で折り紙を折ることにした。


作るのはあたしが小さい頃から一番好きだったバラ。ちょっと面倒だけれど慣れてしまえばツルと同じで指が勝手に動いていって見慣れた姿を形作っていく。


最後に周りを少しだけ巻いて完成したバラは久しぶりだったせいか気持ち歪になってしまった。


だけど少し硬い羊皮紙を使ったにしては思ったよりも綺麗な出来栄えだろう。


ちょこんと手に乗ったバラの折り紙をのんびり眺めていれば、執務を終えたラオが机から離れてこちらへ来る。


あたしの手の上の折り紙を見て不思議そうに首を傾げた姿が少し可愛い。




「何だ其れは。」


「折り紙よ。一枚の紙を何度も折って作るの。」




ラオの手にそっと移す。大きい手の中にあるバラは少しだけ小さく見えた。


色々な角度からバラを見た後にラオは関心した様子で「…器用だな。」ポツリとそう呟く。


日本人は全体的に小さいし、馬鹿みたいにキッチリしているところがあるから、折り紙のように手先の細かさを求められるものは得意なのだと思う。


折り紙に興味を示したラオは白い洋紙を数枚持ってきて、そのうちの一枚をあたしに、もう一枚を自分の前に置いた。




「もしかして折り紙やってみたいの?」


「あぁ。…こんなに精密で美しく作る過程も見てみたい。」


「そっか。じゃあ少しずつゆっくり教えるわね。」




きっと手の大きなラオは折り紙に苦戦するだろうから。


本当はもっと簡単なものから始めるべきなんだろうけど、きっとラオはこのバラが気になってるはずで、簡単なものでは満足してくれないだろうし。


ラオが理解して綺麗に折れるまで何度も繰り返し一つずつ折る場所を教えていく。


案の定大きな手はもたついてしまって上手に折ることが出来ない。一生懸命折ろうとしているのに洋紙は少しぐちゃっとしてしまっている。


それでも結構な時間をかけてラオはバラを完成させた。


あたしのものよりもずっとヘチャリとしていて、何度も何度も折り直した後が残ってしまっていたけれど、よく出来ている。


多少不恰好なのは仕方が無い。


折り紙なんて初めてやったのだし。


ラオ自身はあまり納得していないらしく自分の折ったバラとあたしの折ったバラを見比べては眉を少し下げていた。




「…難しい…。」


「そうね、そう簡単に覚えられるものでもないし。けど初めてにしては上手よ?」


「そうか…?」


「えぇ。あたしが初めて折ったときなんて、もっとグシャグシャで破れちゃったりしたもの。」




あたしの言葉にラオは紅い瞳を丸くさせて、リアもそうだったのかと聞いてくる。


誰だって初めては上手くいかないもの。何度も繰り返し練習するからこそ上達するのだ。





 

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