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永久の契約(1)

 







重いカーテンの隙間から漏れ差し込む朝日に目が覚める。


体を包み込む温かさに身動(みじろ)ぎをするとギュッと抱き締められ、逞しい胸板に顔が寄った。


…ん?胸板?


やや寝惚けていた頭で目の前のラオを見れば視界に飛び込んでくるのは何も見に着けていない、少し浅黒くいくつかの傷跡が残った綺麗な体。


顔を上げればまだ眠っているラオの普段よりもちょっとだけ幼い顔がある。


あたしはラオが寝間着代わりによく着ていたワイシャツを着ているだけで、中は思いっきり素肌。


何で、なんてボケたことは言わないし、考えない。


昨夜の事を思い出してしまえば顔が真っ赤になるのが自分でもよく分かった。




「~~っ…!」




あぁあぁっ、穴があれば入りたいわ!


恥かし過ぎる!!


一つになれた悦びもあるけれど同じくらいに羞恥心が頭を悩ませる。


どんな顔して顔合わせればいいの?!


うあー…と言葉にならない呻きを上げてしまっていたからか、あたしを抱き込んでいたラオが小さく唸りながら身動いだ。


ピシリと固まったあたしとは裏腹に少し眠たげな紅い瞳が瞼を押し上げて開かれる。




「…あぁ、美緒…起きた、か?」




あたしを視界に捕らえるとそれはもう蕩けるような微笑を浮べて低く甘やかな声で囁いてくるものだから、パクパク金魚みたいに口を開けたり閉じたりしてしまったあたしの心臓は壊れそうなくらい高鳴った。


真っ赤なあたしを見て、一瞬きょとんとしたラオも、すぐにクツクツと笑って強く抱き締めてくる。




「鼓動が早いな…。」


「っ、うるさい!」




昨夜と同じ台詞で茶化してくるラオの胸を叩けば余計楽しそうに笑われる。


もう!ラオってこんなに意地悪だったかしら?


それでもそんなラオも好きだなぁなんて思っちゃうんだからあたしもかなりダメね。


ラオの腕の力が緩くなった隙に起き上がってベッドから立ち上がる。


時間は分からないけれど何時もよりだいぶ遅いことだけは窓の外にある太陽の位置で予想出来るが、ラオだって魔王なのだから仕事を滞らせてはいけない。


服を着替えなきゃ…。そう思って一歩踏み出すとガクンと膝の力が抜けた。




「え?」




しっかり歩こうとしたつもりなのに床に座り込んでしまった自分の足に目を見開く。


そ、それに、その…あらぬ所に鈍い痛みが…っ。


ベッドに寝転んだままのラオが小さく笑う。


昨夜は激しくしてしまったからな、無理も無い。


悪びれた様子もなく悪人面でニヤリと口元を引き上げた。




「優しくって言ったじゃない!」


「善処はすると言ったが絶対とは言ってない。そもそも美緒が愛らし過ぎるのがいけない。」


「ア、アンタねぇっ…!」




平然とそんなことを言うラオには敵わない。


ベッドから起き上がったラオはズボンを履いていて、シーツごと座り込んでいたあたしを抱き上げる。


ふとそういえばベッドも汚れてないし体もさっぱりしていることに気が付く。


もしかしなくともあたしを風呂に入れたのは十中八九ラオだろう。


あー、もう、ダメ、恥かし過ぎて死にそうっ!


赤い顔を見られたくなくてラオの胸元に顔を押し付けていると頭上から柔らかな笑い声が少しだけ降ってきたが、気付かないフリをした。


瞬間移動(テレポーテーション)でラオがあたしの部屋に移動すると待機していた侍女が隣室から入室して来る。


ラオとあたしの格好を見たら何があったかなんて一目瞭然なのに、顔色一つ変えない。さすが侍女。


でもそっと椅子に下ろされ、ラオが部屋から出て行くと数人の侍女がズイっと顔を寄せてきた。


ビックリして背を引くあたしにキラキラした目が見つめてくる。




「リールァ様、漸く王と結ばれたのですね!」


「あぁ、何と喜ばしい事でしょう!」


「今日は料理長に言って夕食は豪華にして頂かなければ!!」




当のあたしよりも嬉しそうにキャッキャと話す侍女たちに茫然としてしまった。


そこまで喜ばれるとは…。


楽しげに話しながらそれでもしっかりあたしの着替えなんかを済ませる侍女の手際の良さに感心しつつも、蚊帳の外にいるような気がしてならないのはあたしだけだろうか?


ぼんやりと侍女の姿を眺めていれば隣室に続く扉がノックされる。


ラオが出て行った方とは違い侍女がいつもいる部屋だ。


促せば静かに開かれた扉の向こうから入って来たのはあの美女だった。




「あ、」




なんて言っていいのか分からず困ってしまった。


あたしは彼女の名前も知らないのだ。


彼女は穏やかに笑うとあたしの前で跪き、あたしの左手に触れる。




「王との事お喜び申し上げますわ、リールァ様。私の名はエミリア、恥かしい事ながら娼婦として生きておりました。こんな私が願うには過ぎたる願いと重々承知しておりますが、どうか…私をリールァ様の侍女として御仕えさせてくださいませ。」


「え?ぇえ?!」




突然の事に驚いてしまっているとラオが部屋の中に戻って来た。


あたしとエミリアを見るとあぁと納得した様子で真横に歩いてくる。




「え、ちょ、ラオ。これどういうこと?」


「そのままの意味だろう。」


「いや、だから…。うーん、えっとエミリアはあたしの侍女になりたいのよね?」


「はい。」




前にしっかり会った時には睨まれてなかったっけ?


何でいきなりこんな事を言い出したんだか…。




「どうしてあたしに?」


「恐れながら私は初めて御会いした時、リールァ様に嫉妬していたのでございます。大元王のように素晴らしいお方に大切にされ、護られていたリールァ様と自分を比べておりましたの。」


「大元王?」


「父の事だ。」




エミリアの話はあたしにはよく分からなかった。


あたしにとっては、あの時のエミリアは恋する女の子に見えたし、必死な姿は可愛いなぁって思って。


だけどエミリアは娼婦だったから蔑まれたり他の娼婦から妬まれたりもしたらしい。


そんな中であたしだけはエミリアに笑いかけた人だった、とか。


…別にあたしは娼婦だからとか、そんな理由で誰かを馬鹿にしたり見下したりなんてしないわ。


生きるためにしなければいけなかったのなら仕方のないことだし。


あたしもそれについて色々言えるほど出来た人間でもないし。




「分かったような、分からないような……とりあえずエミリアが侍女になる事に反対はしないよ。ラオがいいって言ってくれるならあたしは構わないけど。」


「俺も構わん。」


「では、侍女として働かせていただけるのですね…!」




本当に嬉しそうに笑うエミリアになんだか照れ臭くなる。




「よろしくね、エミリア。」


「はい、リールァ様。全身全霊を以って御仕えさせていだきます。」




朝日にキラキラと輝くエミリアは、あたしが出会ってきた女の人の中で一番綺麗だった。






 

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