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君の名を呼ぶ 救出編(16)

 







「王、リールァ様!」




聞き覚えのある声に閉じていた目を開ければ、側近の安堵した表情が飛び込んで来た。


泣きそうな、だけど嬉しそうな、そんな顔だ。




「すまない、長く城を空けた。」


「いいえ、そのような事構いません。王とリールァ様が御無事であればよろしいのです。」




胸に手を当てて微笑む側近にあたしもじんわりと涙が出そうになる。


あぁ、色んな人に迷惑かけちゃったんだ。


みんなこんなにもあたしの事を心配してくれていたのに。


側近の穏やかな目を見たら自然と謝っていた。




「ごめんなさい…心配かけて、」


「全くです。もう勝手に城を抜け出さないと御約束していただけますか?貴女が城からいなくなると全員仕事に手が付かなくなってしまって城中大騒ぎになってしまうのですから。」


「あははっ…うん、もう勝手に城を出ないわ。約束する。」


「なら今回は大目に見ましょう。」




ニッコリ笑う側近にあたしも笑った。


それから侍女に促されるまま浴室に向かう。


そんなに離れてないのに浴室の前まで着いてくるラオに、あたしはまた笑ってしまった。


侍女もちょっとだけ困ったような顔をしていたけれども流石に浴室の前に来ると、殿方は此方までですなんてハッキリラオを追い出していた。


少ししょんぼりしてたラオの姿を思い出すと笑いそうになる。


何だか今回の事で余計に過保護になっちゃったかもしれないわね。


侍女にも散々心配したとお小言をもらった。でも嫌な気は全然しない。


それだけ心配してくれていたんだって分かったから。


綺麗に体を洗ってもらった時に両手首と右足首の枷で擦れた傷を見た侍女が悲鳴を上げた。




「この傷は一体どちらで…?!」


「あ、どっちも枷で擦っちゃって。」


「リールァ様のか弱い肌になんて事を…!後で必ず王に治療して頂いて下さいませ!」


「う、うん。」




ズイと迫られて、頷いたあたしに侍女は納得して、傷に沁みないよう優しく洗ってくれた。


そんなに言うほど痛くはなかったけど傷口を改めて見ると赤くなっているし、擦れて結構皮が剥けてたりして痛々しい。


これじゃあ驚くのも無理ないかも。


髪もキチンと洗ってもらって、サッパリした気持ちで浴室から出る。


そこにはやっぱりラオがいた。ただ服は何時もの黒いものではなく、かなりラフな格好だった。


普段から黒い服ばかりなのでラフな格好は珍しい。


マジマジと見ていたあたしに小さく笑って、ラオはあたしを抱き上げた。




「わっ?!」




しかもいきなり瞬間移動。


廊下からいきなり寝室に移動していた。


せめて一言くらい断りなさいよ、と文句を言っても口の端を引き上げて笑うばかり。


優しくそっとベッドの縁に下ろされて座れば、ラオが跪いてあたしの足首を見た。


自分で言うのもなんだけど結構痛そう。


ラオが傷に触れるとピリリと痛んだけれど我慢していればほんわり温かくなって痛みが引いた。


両手首もそうやって傷を治してくれて、傷跡どころか赤みもなくなっている。




「ありがと。」




あたしの言葉にラオは首を振り、跪いたままあたしの手と自分の手を絡めた。


いわゆる恋人繋ぎになった手にラオがキスしてくる。




「…恐ろしかった。」




ぽつり。そう呟く。




「美緒がいなくなって、父といる事を知って…勾引かされて。怪我をしていたらと思うと恐ろしくて堪らなかった。」


「…ごめん。」


「否、悪いのは俺だ。美緒が謝る必要は無い。不安にさせてすまなかった…。」




筋張った手が控えめに頬を撫でる。


けれどその手をすぐにグッと握り締めたラオは、それを胸元に当ててあたしを見上げた。




「俺と、婚姻してくれ。」


「!」




慌ててラオの顔を見たら、泣きそうな顔をしてる。


不安げで、だけどとても強い光を湛えた紅い瞳が見つめてくる。




「美緒を俺の物にするように、俺も美緒の物になりたい。」


「いいの?ラオはそれで…後悔しない?」


「そんなものするものか。美緒と一緒に居られるだけで良い。」




真っ直ぐな瞳に涙が零れてくる。


――…嬉しい。


温かくて、優しい何かが心に溢れてきた。




「……いいよ。あたしも、ラオと結婚したい。」


「っ、美緒…!」




ギュッと抱き付いてくる大きな体をあたしも抱き締め返す。


ラオも、今のあたしと同じ気持ちだといい。


嬉しくて、温かくて、優しくて、ほんの少し切ない。


普通の人みたいな出会いじゃないし、結婚も、きっとその後の生活もあたしの思い描く‘普通’とは違うだろうけど。


でもそれでもいいと思う。


ラオがいて、側近がいて、城のみんながいて、たまにセスさんが来てラオと喧嘩したり、勇者が来て大騒ぎになったり…きっと色々なことがまた起きる。


苦しいこともあるし、悲しいこともある。


だけど、そんな時も二人一緒に居られたら越えられる気がするから。




「ラオ。」


「…何だ…?」


「二人で、幸せになろうね。」




あたしの婚約者で契約魔は、強くて、優しくて、でも子どもっぽい魔王様。


こんな素敵な人と結婚するんだよって家族に言えないのが悲しいけど、それも今度話そう。


力強く頷いてくれたラオが嬉しくってまた涙がぽろぽろ頬を伝い落ちる。


美緒は泣き虫だな、なんて笑うけど仕方ないじゃない。


嬉しくて死んじゃいそうなくらい本当はもう幸せなんだもの。


見上げたラオの頬にも、一筋の雫が伝ったのがあたしにも見えた。






 

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