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君の名を呼ぶ 救出編(15)

 






ラオが指の腹で優しく涙を拭ってくれる。


けれどそれもずっとは続かない。


パッとローブで包まれると厚い布越しにゴウゴウとすごい音が聞こえて来た。




「忘れてんじゃねぇぞ!」




アイツの激怒した声に顔を上げるとラオは真っ直ぐに向こうを睨み付けている。


が、すぐにあたしを見下ろしてふっと目元を和ませた。


あたしの手首に触れると鉄の重い枷がボロボロと崩れ落ち、抱えていた鉄球から足の枷も同様に砂みたいに空気に消えていく。




「此れを着てろ。」




言葉と共に厚いローブがふわりと肩にかけられる。見た目とは裏腹に羽のように軽い。




「え?でも、ラオは…、」


「心配無い。」




くしゃりと一度頭を撫でられて大きな手が離れて行く。


アイツの冷たい金の瞳と視線が絡み合うと、ここ数日の間でも見たことがないくらい冷たい色をしている。


ゾッとしたがすぐにあたしを隠すようにラオが目の前に立つ。


あの男が両手をこっちに向けた途端に物すごい勢いで炎が唸りを上げながら突進してくる。


けれどラオはそれをアッサリと片手で払い散らした。




「な…っ?!」




男が驚いた顔をする。




「安心しろ。すぐに終わらせてやる。」




一歩二歩と歩き出すラオとは反対にアイツは後退って行く。


やっぱり魔王相手じゃ勝つなんて難しいものね。


アイツの手から放たれる炎はラオが生み出す雷に飲み込まれて消える。


ラオは何故か片目を閉じてアイツを見つめていた。


攻撃も前ではなく背を狙うような動きをしており、アイツが必死にそれを食い止めているようだ。


時折ラオのすぐ傍を炎が通り過ぎるからあたしはもうハラハラしっぱなしなのに、ラオは何時もの無表情で平然としている。


黒い足が歩を進めると足元に燃え広がっていた炎が音もなく消えた。




「先程までの威勢は如何した。」




ラオの雷によって傷だらけになったアイツが苦しげに睨み付けて来る。


背中に受けた傷が一番深い。破けた服の隙間から変な模様みたいな刺青が僅かに覗く。




「クソッ!」


「己を過信し過ぎたな。」


「殺せ、情けを受ける気はねぇ!」




アイツは傷だらけの体で叫ぶように言う。


炎を出さなくなると教会内を包み込んでいた炎が徐々に掻き消えていく。


だけどラオは目を細めるだけで全く攻撃する気配はない。


いよいよ歯を噛み締めて怒り出す男にラオは静かに言い放った。




「俺が手を下さずとも、迎えが来る。」


「何…?」




訳が分からないと言いたげな男が眉を顰めるのと同時に、膝を付いていたアイツの足元に何かが現れた。


それは大きな扉だった。


観音開きの真っ黒な扉には光る紅い字で何かが文字が刻み込まれている。


ラオは男から離れるとあたしの傍に来て、ギュッと抱きしめて来た。


胸に頭を押し付けるような形になったからか見えるのはラオの黒い服だけで、音もほとんど聞こえなくなる。


それでも微かにアイツの悲鳴みたいなものが聞こえた気がしたけれど、ラオが腕の力を緩めた時にはもう何もなかった。




「どうなったの…?」




アイツがいただろう場所を見つめていたラオが振り返る。




「あれは精霊を喰らっていた。それは二十五代目の魔王が禁忌とした事柄…破った者は闇に引き摺り込まれる。」


「闇?」


「あぁ。世界に在る全ての恐怖と苦痛が混じり合う場所だ。」




どちらにせよ、あの男は罪に見合うだけの罰を受ける。もう戻っては来れまい。


静かにそう呟いたラオはそっとあたしの頬に触れた。




「…会いたかった、リア。」




コツンと額が合わさって、そこから温かい体温が広がっていく。


久しぶりだけど慣れた体温が心地良い。




「…あたしも…あたしも、会いたかったよ。ラオ。」




嬉しくて笑みが零れた。


何ヶ月も離れた訳じゃないのに、すごく長い間離れていた気がする。


ラオに抱きついているとコホンと咳が一つ響いた。


………あ。




「此方の事を忘れているだろう?」




呆れ顔のセスさんとクスクス笑っている女性がいた。


女性はあたしが捕まる前にセスさんと一夜を共にした人だ。


何であの人もいるのだろうと思っていると抱き締められる腕に力が加わる。


隠すようにキュッと両腕で包まれながらラオを見上げればちょっとだけ不機嫌そうな顔でセスさんを見ていた。




「邪魔をするな。」


「忘れる方が悪い。全く、お前ももう少し大人にならなければラナに嫌われるぞ?」


「っ!それは無い!!」




なんだかセスさんにからかわれてるラオが可笑しくて笑ってしまったあたしに、眉をハの字に下げたラオがしょんぼりと見下ろしてくる。


大丈夫だよと言う代わりにポンポンと腕を叩いてあげれば嬉しそうに擦り寄ってくる。




「さて、無事ラナも戻った事だ。お前達は城に戻るのだろう?」


「あぁ。だがその前に、」




あたしから離れたラオが、いきなりセスさんの横っ面をぶん殴った。


ちょ、え、ぇええぇえーーっ?!!


何で殴ってるのラオ?!


あんぐり口を開けたあたしを余所に訳知り顔でセスさんは殴られた頬を擦っている。


痛いな、なんて笑ってるから本当に痛いのか分からない。


ラオはあたしを城の外に出して危険に曝したからだと言うけど、それはあたしも同意の上でだったんだけどなぁ。


セスさんは気にした様子もなく何時も通りのちょっと悪戯っ子みたいな笑みを浮べて低く笑う。




「ほら、早く戻れ。キアランが首を長くして待ち兼ねているはずだ。」


「言われなくとも分かっている。…お前らは後から来い。」




若干苛立ちの含んだ声音でラオはそう言うと、あたしの元へ戻ってきて抱き締めて来る。


瞬間移動(テレポーテーション)を使うのだろう。


そっと服を掴んだあたしの手にラオの大きな手が重ねられ、少しの浮遊感がふわりと襲った。





 


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