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君の名を呼ぶ 脱出編(10)

 










「――動かないで。」


「!」




見張りの男から奪ったナイフを女の子の首筋に当て、小さく囁く。


女の子はビクリと盛大に肩を震わせて小さな悲鳴を上げた。


震える体に同情したもののあたしだって今は死に物狂いなのだから許して欲しい。


少女の首にナイフを添えたまま細い通路へと移動する。ロウソクの火を消させると細い通路はかなり暗くなった。




「あなたここに住んでるの?」




あたしの問いにコクリと頷く。




「は、はい…。」


「なら出口も知ってるわね?言いなさい。」




少しナイフを強めに首筋へ当てれば少女が泣きそうな声で出口までの道を言う。


通路を真っ直ぐ行き、ライオンの小さな絵がかけられた場所を右に、それから更に通路に沿って進むと二本の松明がかけられた少し広い場所に出る。そこの一番左端の通路へ入り、一番目の角を左に、その後すぐ脇にある階段を上って右に進むと幾つか扉があるけれど、右から二番目以外は全て袋小路になっている。


右から二番目の扉を開けると更に小さな階段がある。それを昇った先には広い場所があり、そこを通り抜けさえすれば外に出られるとのこと。


…ヤバい、覚えきれたかしら?




「本当ね?」


「は、はいっ、本当…ですっ。」


「そう。」




女の子を傍の部屋に入れ、箱に座らせる。あたしが持っていた鉄球を落とした音だけで今にも気絶してしまいそうなくらい顔を真っ青にさせていた。


倉庫か何かだったようで太い縄で女の子の手足を椅子に縛り付けると適当な布を噛ませる。


叫んで助けを呼ばれては計画が水の泡になってしまう。


ナイフを見てまだ怯えている少女に苦笑してしまった。




「ごめんね。でも傷付けるつもりはないわ。…あたしはここから逃げ出したいだけだもの。」




助けが来るまでは我慢してねと言えば驚いた様子で女の子は目を丸くする。


この子は今まで会ってきた人とは違い、気が弱くて、本当に普通の女の子のようだった。


そんな子にナイフを向け、あまつさえ椅子に縛り付けるなんてあたしもしたくないけれど、この子が誰にもあたしのことを言わない保障もない。


少し不自由ではあるだろうが我慢してもらおう。


鉄球を持ちながら、そっと女の子のいる部屋から出てあたしは通路に戻った。


耳を澄ますが物音が一つもしない。


鎖のジャラジャラという小さな音が嫌に響いてしまうが気にしてはいられない。


あたしは記憶を頼りに通路を真っ直ぐ進んだ。通路は分かれ道になる度に小さな絵や像が壁につけられていて、どうやらこれで彼らは道を覚えているようだった。


どれだけ歩いても視界の変わらない通路はまるで迷路である。


もしかして通り過ぎたんじゃあ…と不安に駆られてきた頃、漸く小さなライオンの絵がかけられた分かれ道に辿り着いた。


ここを右だ。曲がって通路の通りに進む。


途中で通路は変なカーブを描いたり直角に曲がったりするものだから、あたしの方向感覚は完全に麻痺してしまっていた。


だいぶ歩くと重ねられた二つの松明が中央にかけられた少し広い場所に出る。


そこは円形になっていて別々の通路へ続く入り口が六つもあった。


何も知らずに当てずっぽうで歩いていたら絶対に外へ出ることはできないだろう。


恐ろしい場所だと心が底冷えする。一番左側のやや大きな通路に入ると数メートルもしないうちに一番目の角に辿り着く。ここを左。


真っ直ぐ歩きそうになって慌てて立ち止まった。


曲がって本当にすぐ左脇に階段があった。


それこそ気付かず通り過ぎてしまいそうな位置にある。なんて性質の悪い。


階段を上ろうとしたが進む先から降りてくる足音が聞こえて来る。咄嗟に階段の斜め前にある細い通路へ逃げ込んだ。


あたしが隠れて一拍後に階段からロウソク片手に男が降りてきた。


…危ない危ない。あのまま行ってたら鉢合わせになってたわね。


この脱走作戦では敵に見つけられた時点でゲームオーバーだ。リセットもリプレイも出来ない一回きりのチャンスなのだ。


男の姿が角に消え、足音がだいぶ遠ざかったのを確認してからあたしは階段に足をかける。


ちょっとデコボコしてて上りづらい。


転ばないよう壁に時折寄りかかったりしながら何とか上がりきると息が切れてしまった。


鉄球が重過ぎる。こんな荷物を持ってるせいか、それとも捕まってから運動していなかったからかかなり苦しい。


ふぅふぅ言いながらちょっと顔を出して左右を確認する。


集会というのはかなり大規模なのか、あれだけ騒いでいた人々は影も形も見当たらない。


あたしとしては都合が良いけれどこうもトントン拍子でことが進むと逆に疑いたくなってしまう。


…まさか(トラップ)なんてないわよね…?


息が整うと右の通路に素早く入り込んで壁際を歩く。さすがにこれ以上走ると体力の方が先に限界になってしまいそうだった。


鉄球が予想していたよりも重たい。


大きさはバスケットボールくらいなクセに何でこんな重いのよ?


少し苛立ちながら歩いて行った先には扉があった。それも変に横長な猫の額みたいに狭い空間に幾つも。


もう面倒臭かったので数えるのは止めにしよう。


右側へ行き、突き当たるまで歩く。右から二番目の気持ち古びた扉を開けた。


目の前から伸びる階段はアパートとかの階段によく似ている。…かなりデコボコで足場は悪いが。


これで最後だとあたしは勢い奮って階段を上る。


先ほどの階段より長く、途中で息が切れて足が震えた。


けれど立ち止まってるヒマはもうない。


ここが出口に繋がる一本道ならば何時誰が降りてくるか分からない。


ぐずぐずしていては危険だ。


うるさい心臓を無視して無理矢理足を上げると枷の付いている右足首にピリリと痛みが走る。


それに気付かないフリをしてあたしは長過ぎるくらい長い階段を何とか上り切った。


…後もう少しで外に出られる!


目の前にあるやや大きな扉のドアノブを掴み、思い切り押し開けた。








 

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