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君の名を呼ぶ 勾引編(7)

 







早く寝たせいなのか、あたしは変な時間に目を覚ました気がする。


扉の外の様子に聞き耳を立てていると足音が聞こえ、扉の前にいた見張りが何かを話していた。




「そういや、今月の集会って何時やるんだ?」


「確か三日後の夜だったぞ。」


「集会の時は見回りもしなくて良いから楽なんだよなぁ。」




楽しげな会話の内容にこれだ!と思う。


三日後の夜、集会、見回りが減る。


上手くこの部屋から逃げ出せれば何とかなるかもしれない。


ベッドに横になったままあたしはほくそ笑み、目を閉じた。



































 


宿のベッドに腰掛けながらラオは宙に浮く円形の中を見ていた。


そこには調べた書類を読み上げていくキアランの姿がある。




「其方の街ですと裏を牛耳っている者は一人です。それなりに力があるようで人身売買から裏市場に出回るもの全てが必ず一度その者の元に集められるそうです。街の兵にリールァ様が引き渡された様子もないことから十中八九そこにおられると思います。」




また面倒な者に連れて行かれたものだとセオフィラスは内心溜め息を吐きそうになった。


どんな街でも裏家業と言うものはあり、それがあるからこそ表も繁栄している。


下手に裏を潰せば表にまで影響を及ぼす場合もありえるため簡単には手を出せない。


だからこそ人身売買や非正規品が裏で取引され、余計に裏の威力が持ち上がる。


全く嫌なくらい裏にとっては都合の良い循環だろう。


丁度タイミングよく戻ってきたエミリアがラオとセオフィラスを見る。




「どうやらリールァ様は影の住処(ハイドレグ)にいらっしゃるようです。今日、私の知り合いの所へ来た客がリールァ様とよく似た方を捕まえたと自慢していたそうですわ。」


「影の住処?」


「はい、この街の裏を牛耳る男の(ねぐら)です。…それからもしも助けに向かうのでしたら三日後の夜になさった方がよろしいかと。」


「何故だ?それでは彼女が危険だろう?」


「いいえ、三日後の夜開かれる集会は裏市場に出す物の話し合いの場です。それまでは商品となるものに傷を付ける事は絶対にございません。その日だけは影の住処の警備は手薄になり、品物を求める人々がこっそりと集うのです。」




つまりその中に変装して紛れ込めばいい。


ある程度潜入できてしまえば、後は敵を薙ぎ払うなり、叩き伏せるなりして探し出すだけだ。


ラオは考えるような仕草をしてからこの案を承知した。


本当は今すぐにでも助けに行きたいだろうに耐え忍ぶ息子の姿を見て、セオフィラスは胸が痛くなる。


これほど大切に思っているとは知らなかった。


安易な思いで彼女を旅に連れ出すべきではなかったのかもしれない。


話が済むと己の部屋へ引っ込んでしまう息子の背中は、セオフィラスには酷く寂しげに見えた。




「…本当に愛していらっしゃるのですね。」




ポツリと呟かれたエミリアの言葉に顔を戻せば複雑な顔があった。




「お前はリールァが嫌いか?」


「最初は…嫌いでしたわ。貴方の傍に居て、何時も守られていて、子どもみたいな笑みを浮かべるんですもの。私自身との境遇の違いを見せ付けられたようで苛立ちました。」


「そうか。」


「ですが、今は違います。本当にお助けしたいと思っております。」




強い口調にセオフィラスは少し目を丸くする。


てっきり嫌いですで終わるとばかり思っていたので鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。


エミリアはそっと胸に手を置く。




「リールァ様は私に笑いかけてくださいました。娼婦という穢れ堕ちた私を蔑むことも、嫉妬することもなく、ただ笑いかけてくれたのです。その笑顔がずっと頭を離れません。…出来ることならばもっとリールァ様とお話させていただきたいと思っております。」




穏やかな表情で紡がれた言葉にセオフィラスは笑った。


力のない、か弱い人の子であるにも関わらず彼女は多くの者を惹き付ける何かを持っている。


それが吉と出るか凶と出るかは定かではないけれども、持って生まれた一種の才でもあるのだろう。




「本人に言ってやってやれ。…きっと喜ぶだろう。」




あのコロコロと表情を変える少女はきっと嬉しそうに笑う。


そうしてエミリアを傍に置く事を許すはずだ。


帰って行くエミリアを見送り、セオフィラスは空を見上げる。どんよりと重たく広がった雲が空を覆い隠していた。


三日後の夜、この雲が完全に晴れれば良いと思う。


怪我一つしていない彼女と息子が互いに互いを抱き締めあう姿が目を閉じれば瞼の裏に浮かぶ。


そのためにも己ももっと情報を集めなければと硬貨の詰まった袋を手に、夜の街へと歩き出した






 

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