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君の名を呼ぶ 勾引編(6)

 







もう一度目を覚ますと部屋の壁にかけられた一本の蝋燭がもうすぐ消えそうになっていた。


この世界に来て、ラオと過ごすようになってからは彼の生活リズムが体に染み付いてしまっている。


だとすれば恐らく今は夜が明けたばかりだろう。


起き上がって適当に手櫛で髪を整えていれば扉が開き、また昨日と同じ男が同じお盆を持って来て棚の上に置く。


内容も昨日と寸分違わず同じだが食べさせてもらっているだけで十分なので文句はない。


あたしが食事をしている間、男は壁にかけてあった蝋燭を取り、新しい長い蝋燭に火を移すと古い蝋燭の火を消して小さな箱に仕舞った。


見ている間に手が止まってしまっていたらしく男は昨日と全く同じ調子で同じ言葉を口にする。




「さっさと食え。」


「はいはい。」




残っていた食事を早めに胃に詰め込むとやっぱり食器を持って部屋から出て行く。


彼はあたしの食事係なのかもしれない。


いっぱい、とは言い難いけれど、そこそこにお腹にものが入ったあたしはベッドへ寝転んだ。


ええい牛になるんならなってしまえ。


そうすれば手枷も足枷も外れるしあの扉も突き破れる気がする。なんてくだらない妄想をしつつ、暗くて見えない天井にジッと目を凝らしてみた。


どれだけ眺めていたかは分からないが扉の開く音に顔を向けるとアイツがいた。




「いい子にしてるみてぇだなぁ?聞き分けの良いやつは嫌いじゃねぇ。」




アンタに好かれたって嬉しくもないわよ。


ベッドの縁に座るソイツを睨み上げてやればニヤリとした笑みが返される。


この男といると気が張るというか、体が緊張で若干強張る気がする。


コイツといるくらいなら食事を運んでくる男と一緒にいた方が数倍マシだ。


口には絶対出さないけどあたしは多分コイツが嫌い。


あたしの考えてることなんて知らないだろう、指に髪を絡めてまた弄り出す男に苛々する。




「ヒマなの?昨日と言い今日と言い。」


「へぇ…こんな場所で時間の感覚がまだ残ってんのか。」


「体に生活規則が染み付いちゃってるのよ。それで何となく分かるだけ。」




ソイツの視線が顔から体に動くのが分かった。


しげしげと見つめられて流石のあたしも気恥ずかしさに男の手から離れようとした。けれど男はナイフを取り出すといきなりあたしの着ていた服を切り裂き、破く。




「何すんのよ!!」




慌てて毛布に包まると男が笑う。




「隠す程でもないだろ?」


「うるさい!」


「あぁ、でも王が気に入るくらいだから実は良い体してんのか?」


「っ、わっ?!」




グイッと腕を引かれてベッドに倒れ込むあたしの上に男が素早く覆い被さった。


何とか隠そうと抵抗したけれど力なんて始めから敵うはずもなく、毛布はあっさり取られてしまう。


頭上で手枷を押さえ付けられてこれ以上拒むこともできない。


ビリリという音と共にヒンヤリとした空気が肌を撫でる感覚にぶるりと体が震える。


綺麗なワンピースは見るも無惨な布キレと化し、下着しか着けていない体が男の目に曝された。


暴れても男はビクともしないし不愉快そうに目を細められると自然に体が硬直してしまう。


見られている。ラオ以外の男に素肌を見られた。


悔しくて悔しくて睨み付けても男は気にもしない。


それどころか体のラインをなぞるようにスルリと肌へ触れてくるのだから、もうあたしの怒りはボルテージギリギリである。




「触らないで!」




足をバタバタさせるとグッと首を鷲掴みにされた。力がこもって息がしづらくなる。




「体型は普通だけど触り心地は良いな。吸い付くみてぇだ。」




笑いを含んだ声で顔を近づけてきた男にあたしは渾身の力を込めて頭を上げた。


つまり頭突きを食らわしてやったのだ。


かなり鈍い音がして一瞬視界がチカチカしたけれど、男の拘束が緩んだ隙に体の下から何とか這い出す事ができ、毛布で体を隠す。


あたしはどっちかと言えば石頭だからまだマシ。


でも男は相当痛かったのか額を押さえて少し呻いている。


…ざまあみろ。


ベッドから降りて壁の隅に逃げた頃、ようやく男が顔を上げた。


額は少し赤くなってはいるもののタンコブはできていない。




「テメェ…、」




鋭く視線を向けてくる金の瞳に一瞬硬直しながらあたしも言い返す。




「まだあたしのこと調べ終わってないんじゃない?それなのに手を出すなんてどうかしてるわ。」


「黙ってりゃバレねぇさ。」




何てヤツだ。ありえないくらい最低。


男は数回額に触れると痛そうに眉を顰めながら「クッソ、どんだけ石頭なんだよ。痛ってぇ。」と吐き捨てるとベッドから立ち上がった。


来るかと構えたが予想とは裏腹にベッドへ何か投げ捨てると無言で部屋を出て行ってしまう。


戻ってくるんじゃないかと暫く扉を睨んでみたけれど一向に扉は開かない。


機嫌が悪くなって出て行ってしまったみたいだ。


してやったりと思いつつも男が本気で怒らなかったことに安堵する。


まだ少し恐怖でドキドキする胸を押さえながらベッドへ近寄ると服のようなものが散らばっていた。


持ち上げてみれば服は両肩が切れて細い紐がいくつもついている。これなら手枷で袖を通せないなんてことはない。


もう一枚はヒラヒラとした長い布。左右両端に紐っぽいのがやっぱりある。


…これってスカート?


とりあえず腰に何回も巻きつけて紐を縛ってみると意外と綺麗なスカートになった。


服も一度被ってから、切れた肩部分の紐を結んでいけばキチンと着れた。しかも肩の部分だけそうなっているので結構可愛い。


どちらも真っ白な布でつくられているせいかあたしの体は暗い部屋の中でもかなり目立つ気がする。


服はありがたいけど渡し方とか、それまでの過程がありえない。


出て行った男の顔を思い出すだけでも腹立たしいし、恐怖が蘇ってくる。


…あー、やだやだ、あんなヤツのなんてこれ以上思い出したくない。


起きてからあまり時間は経っていない気はしたけれど、あたしは毛布に包まってベッドで眠ることにした。





 

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