表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/77

何事にも障害は付き物です(3)

 






あたしの目が据わっているせいなのか、ラオは完全に萎縮してしまっていた。


確かに恋人が以前は浮名を立たせていたことは知っている。けれどその中に許婚が混じっていたとなると、話は変わってくるのだ。




「で、どういう訳なの?」




隣に来たがっていた魔王を無理矢理あたしとシェリル嬢の間に座らせ、にっこり笑顔で聞く。


ラオはあーとかうーとか意味を成さない声を少し発した後に項垂れて薄情した。




「…臥所を共にしたのは事実だ…。」




彼の言葉にシェリル嬢がほら見ろと言わんばかりの笑みであたしを見てくる。


…止めてくれないかしら、それ。すっごく腹立つのよね。


少々ウザったくなってきた笑みに気付かない振りをしつつ「へぇ」と相槌を打った。思ったより平坦だったその声にラオがパッと見上げてきた。




「だ、だがそれは了承した訳ではなく、その…!」




ごにょごにょと言い難そうに尻すぼみになった言葉に侍女の言葉を思い出す。



――…王も殿方なのですよ?



そう、ラオだって男なんだもの他の人と寝ることくらいあったって可笑しくない。


それぐらいあたしだって分かってるわ。


でも許婚とも寝たっていうのが引っかかるというか、癪に障るというか……あれ?


ふと自分の思いに疑問が湧いた。え、これってあれよね。俗に言う嫉妬ってやつ?


…そうか、あたし嫉妬してるのか。


心のモヤモヤの原因が分かって少しだけ軽くなった気がした。




「王とて男性ですのよ?愛する人の欲も受け止めることも出来ないなんて…。」




アンタに言われたくないわよ。苛立ちながらも我慢してニッコリ笑う。




「御心配ありがとうございます。ですが、私はすぐに体を許してしまえる程軽い女ではございませんので、お互いをキチンと知り合ってからと思っておりますの。」




今度はあたしとシェリル嬢の間に火花が散る。


許婚が何よ。あたしはラオと契約もして、婚約もした恋人なの。アンタが出る幕なんてないわ!


ブリザードが吹き荒れる中、ラオがあたしたちの間に割って入った。




「リア、落ち着け。…シェリルも今日は帰れ。」


「嫌ですわ!」




しかし魔王をハッキリと断るシェリル嬢。




「私、今日から此処に住まわせていただきます!」


「…は、?!」




驚くあたしとラオを余所に彼女の勢いは止まらない。


「もう必要な物は持って来てありますもの。今更戻るなんて出来ませんわ。」したり顔でそんなことを言う。


行動派と褒めるべきなのか、自分勝手と罵倒するべきか。


あまりの自己中心的な行動にあたしは怒りを通り越して呆れてしまった。


…何だって魔族は我を通そうとするのかしら?




「…分かりました、お好きにして下さい。」




シェリル嬢の侍女が嫌な笑みを浮べた。




「けれど、許婚である間だけとしましょう。」


「私はずっとラディオス様の許婚ですわ。」


「私とラオが結婚したら?許婚など何の意味もありませんもの…ねぇ?」




侍女に聞くと、満面の笑みで「はい。」と頷く。


取り残されたラオが酷く困った様子であたしとシェリル嬢に挟まれていた。


「良い?」と聞けば、俺は構わないと許可が出て、シェリル嬢が城に住むこととなった。


わざとらしいまでの無邪気な笑顔で嬉しそうに恋人に抱き付くライバルをどうやって叩きのめそうか。


額に手を当てたあたしの口から、重い溜め息が零れ落ちた。
































シェリル嬢が城に住み付くことになってから数日が経っても、朝から使用人は慌ただしく駆け回っていた。


せっかく客間に案内したのに狭いと文句を言ってラオの私室に一番近い空き部屋に住むことになり、食事においてももっと豪華なものにしろだの、魔王の執務室はどこだだの煩いの何の。


暇さえあれば魔王の傍に居ようという魂胆が見え見えで嫌になる。


夜も寝る頃になってシェリル嬢はラオの寝室に訪れたのだ。


あたしが居るのを見ると、許婚の自分を差し置いてと文句を言っていたけれど、逆を言えば許婚の分際で態度がデカ過ぎる。


使用人の足音に目を開ければ眠たそうな紅い瞳が見つめていることに気が付いた。




「…起きる?」




ちょっと早いけどと思いながら聞くと「嫌だ。」なんてハッキリ拒絶するラオ。


相当起きたくないらしい。あたしの体をギュッと抱き締めて今日は一日このままでいたいと呟いた。


昨日昼前にシェリル嬢が訪れ、それからずっと彼女はラオにべったり。


あたしは彼女と一緒にいたくないから別の場所に行く。


そうするとあたしとなかなか会えなくてラオは寂しい。


たった数日だったけれど、この甘えたな魔王にはかなり堪えたようだ。窓の外では薄雲に覆われた空が広がっている。


命令したらどうかと言ったけれど、一度抱いた身としてはいらなくなったから捨てるという行為は後ろめたいみたいだ。


同じ女であるあたしからしても、それは流石にしてはいけないと思う。


そのせいかなかなか良い案が浮かばず、彼女が押しかけて来てからもうすぐ一週間くらいになるだろう。


本当に何とかしなければラオもそうだけれど、あたし自身の精神衛生上よろしくない。


イライラするし、心の中がモヤッとしたままだし、何時までも負けっぱなしなんて性に合わない。


どんな方法を使えば諦めるだろうか。そう考えていると寝室の扉が無遠慮にノックされた。







 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ