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好奇心も程ほどに(3)

 





あたしが導かれた場所はラオの私室。つまりちびラオの部屋だった。


大人のラオの部屋と比べるとかなり物が少ないその部屋は生活感がほとんどない。


大きなベッドに座れば、隣にチョコンと座ってくる。可愛い。




「どれくらいお世話になるか分からないけど、よろしくね。」




繋いだ手に少し力を込めるとちびラオが見上げて来た。




「ほんとうに、おれのこんやくしゃなのか…?」


「本当よ。でも最初は一方的だったけどね。」


「ははのはらの中で、だったか。」


「そう。何時の間にしたのかしら。そこまでは聞いてなかったわ。」




今となってはそうしてくれたからこそ、出会い、恋人同士になれたのだから結果オーライだけれど。




「すき、なのか…?」


「うん?」




ポツリと聞こえた言葉に首を傾げる。


ちびラオは紅い瞳に様々な感情を綯い交ぜにしてもう一度言った。




「おまえは、みらいのおれがすきなのか?」




微かな不安を滲ませた表情は大人のラオがよくする表情と瓜二つだった。


子どもではあるけれど、あたしの知っているラオと何も変わらない気がする。


そっと額を合わせてやれば小さな体が少しだけ強張ったけれど、逃げることはなかった。




「好きよ。」




あたしの言葉に肩がピクリと震える。




「大人のラオはね、あたしの前では我が儘も言うし甘えただし、寂しがりだし、すごく嫉妬深くて、すごく子どもっぽいわ。」


「…だめなやつ。」




未来の自分を思いっ切り卑下するちびラオに苦笑してしまう。


魔を統べる王としては確かにそれではダメかもしれない。


でも、そんな魔王がいたって良いとあたしは思う。




「大丈夫、魔王としての威厳はとてもあるわ。ただあたしの前だとダメみたい。」


「そんな男が好きなのか?」


「えぇ。我が儘で、甘えたで、寂しがりで、嫉妬深くて、子どもみたいな人だけど…あたしを心から愛してくれて、大切にしてくれる大人のあなたを好きになっちゃったの。」




訳が分からないと眉を顰めるちびラオ。


確かにまだ子どもの彼には分からないかもしれない。


決して完璧でなければいけない必要なんてないの。




「甘えたって良いの。我が儘言っても良いのよ。あたしはそんな風に素の自分を曝してくれるラオだから好きになったんだもの。」


「……そうか。」




見るとちびラオが赤い顔で視線を彷徨わせていた。


大人のラオも普段は恥かしい台詞を普通に言うクセに、あたしがこんな風に言うと顔を赤くして視線を彷徨わせたり、オロオロとしたりするっけ。


黒髪を優しく撫でればちびラオは気持ち良さそうに目を閉じる。




「…何となく、みらいのおれがおまえを好きになったりゆうがわかる気がする。」


「そう?それとお前じゃなくて美緒よ?」


「美緒…。」


「はい、よく出来ました。」




よしよしとしっかり頭を撫でる。「あたしの名前を知ってるのはラオだけなのよ。だから忘れないでね。」そう言うと驚いた様子で「そうなのか?」と視線を上げた。




「大人のラオは嫉妬深くてね、他の人には名前を教えるなって。」




思い出し笑いをしてしまう。


ちびラオは「おれだけが知ってるのか。」と口の中で呟いた。




「忘れないでね。」




優しくちびラオの額にキスをする。


するとあたしの横に置いてあった本が強い光を発して、バラバラと勢いよくページが捲れていく。


…もしかして、帰れるの?


本に手を伸ばそうとしたけれど、小さな手が力強く掴んで止められた。


驚いて見やれば無表情ながらも縋るような紅い瞳を視線が絡み合う。




「かえるのか?」




帰るな。そう言われている気がした。




「…探して。」


「?」




ちびラオと真っ直ぐに視線を合わせる。


大人のラオと何も変わらない美しい紅い瞳にはあたしが映って見えた。




「また会えるように。あたしが好きなラオに会えるように…探し出して。」


「…見つからなかったら…?」




不安そうに聞いて来るちびラオに笑ってしまう。


そんなこと、ありえないのに。




「大丈夫、絶対あなたはあたしを見つけ出せるわ。あたしはラオの婚約者だもの。」




出来る限りの笑顔を浮べてあたしは本を掴んだ。


眩い光が溢れて、世界が真っ白になる。それでも不安はない。


すぐに力強い温もりに引き寄せられて、抵抗することなく身を預けた。


やがて光が止む。


閉じていた目を開ければ大人のラオが目の前に座っていて、紅い瞳があたしを見つめている。




「……ラオ。」




手を伸ばして頬に触れると嬉しそうに紅い瞳を細めて、あたしの手を自分のそれで包み込んだ。


今なら全て分かる。


ラオが何故母のお腹の中のあたしと契約したのか。


どうしてあたしだったのか。




「…探したぞ。」


「うん。」




触れた唇はとても熱く、見つめる瞳は喜色でいっぱいだった。


あたしの言葉を信じてくれていたのね。


ずっとずっと、探して、見つけ出してくれた。




「見つけてくれて、ありがとう。…ラオ。」




愛してるわ。どちらからともなく重ねたキスに、愛の言葉は溶けて消えた。






 

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