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お茶会は女の戦場(1)

 







部屋中をパタパタと侍女が忙しなく動く。


その手には美しいジュエリーの数々と、髪留めと、つい先程まであたしが着ていたシンプルなマーメイドドレスが抱えられている。


そうして化粧台の前に座って鏡越しに侍女の仕事ぶりを眺めているのは見知らぬ美女。もとい侍女の手によって驚くほどのビフォーアフターを遂げたあたし。


鮮やかな紅色のマーメイドドレスには控えめだがキラキラと輝くスパンコールや、一体いくらするんだと思ってしまう宝石が飾りつけられている。


普段は下ろしてある髪も纏めてサイドでアップにされ、ドレスと同色の薔薇の髪留めで留められていた。


あまりメイクをしないあたしだったけれど侍女さんにガッツリしてもらい、もう誰コイツってくらい変わってる。


仕度の間中、侍女は興奮した様子で張り切っていたけれど、慣れないあたしはもうグッタリな気持ち。


片付けに勤しむ侍女を見ていればコンコンと扉が控えめに叩かれる。


どうぞと入室を促せば、入ってきたのはラオだった。




「終わった、か…」




扉を開けた格好で静止してしまったラオの顔は赤い。


顔に似合わず素直な反応を示す魔王に苦笑しつつ手招けば、いそいそと歩み寄ってきた。




「…美しい。」


「侍女さんがお化粧上手だったからね。」


(いや)、リアは元々美しい。だが今は何時も以上に美し過ぎて…人前に出したくない。」




サラリとアップにしてあった髪の一房に触れて、それに口付けてくるラオに一瞬クラっとしてしまう。


ダメダメ、絆されちゃ!!


小さく頭を振ると不思議そうに紅い目が瞬く。




「…この無自覚タラシめ。」


「?」




こてんと小首を傾げたって可愛くないんだからね。


立ち上がるとラオは通せんぼするように、あたしの前に立ちはだかった。


もうすぐ貴族同士のお茶会が始まってしまう。あまり遅く行っては印象が悪くなってしまうではないか。


なのにラオはあたしを行かせたくないのか大きな体をフル活用して妨害している。




「ラ・オ。」


「…行くな。」


「無理言わないで。あたしが行かなきゃ困るのはラオよ?」




理解しているからかムスッとした表情で見下ろしてくる。


図体は大きいのにどうしてこう思考は子供っぽいんだか。




「帰ってきたら一緒にいてあげるから、ね?」


「………迎え。」


「迎え?」




頷いたラオは「半刻経ったら、迎えに行く。」と呟いた。


何とか折れてくれたみたいだが一時間とは短いんじゃと顔を上げれば、紅い瞳とバッチリ視線が絡み合う。


どうやらお迎えは本気らしい。


強い光を帯びた瞳に心の中だけで溜め息を零す。


迎えを了承すればあっさり道を譲るラオに「行ってくるね」と挨拶を言うと、嬉しそうに「絶対、行く。」と返してくる。





侍女を一人引き連れて、あたしは城の中庭にある美しい庭園へと向かった。





















男と女は色々違う。


性格とかもそうだけれど、男同士と女同士というものは本当に正反対だ。




「リールァ様、ようこそお越し下さいました。」




ニッコリ笑顔での挨拶。でも何となく背後に黒い何かが見える気がする。




「御機嫌よう。今日はお招き頂きありがとうございます。」




あたしもニッコリ営業スマイルを顔に張り付けつつ、淑女の礼をとって、侍女が引いてくれた椅子に腰掛けた。


三人ほどいる貴族の娘や奥方たちは皆穏やかな笑みを浮べている。


この笑みに騙されたらお仕舞いだ。


あたしもティーカップに口を付け、一口飲んで喉を潤す。




「陛下の御加減はいかがでして?」


「お陰様で何事もなく、毎日執務に精を出しておられます。」


「まぁ、流石陛下。」


「でもそれではリールァ様はお寂しくいらっしゃるのでは?」




リールァというのはあたしの別名、‘王の花嫁’という意味だ。


この名であたしを呼ぶ時の貴族の娘や奥方は、何時も少し刺々しい言い方をする。


誰もが魔王陛下の妃になりたいと望んでいるのに、自分よりも美しさに劣る娘が選ばれればそりゃ嫌な顔するのも道理だわ。


だけどいちいち話すたびに刺々しく声をかけられるとイラっとしちゃうのよね。


そこで怒ったらあたしの負けなんだけど。




「そんなことありませんわ。陛下ったら、執務が終えられると(抱き付いてきて)朝まで離してくださらないんですの。」


「そ、そう。」




頬を赤らめて相槌を打つ貴族の娘にしてやったりと内心ガッツポーズ。


あたしは少し内容を端折って言っただけで、相手があらぬ想像をして勘違いしているだけだもの。


うふふふ、おほほ、なんて笑いながらクッキーを一枚つまむ。


穏やかな雰囲気なのにあたしたちの間は激しいブリザードの嵐だ。





 

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