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何事も二人いっしょに。

 








城に着くと、案の定入り口に佇む彼の側近がいた。


顔に張り付けられた笑みとは裏腹に纏う雰囲気はオドろオドろしい。


馬車から降りて来たあたしたちを見て少しだけ目を見開き、けれどすぐにまた笑顔を浮べて口を開く。




「王、どちらへお出掛けに?」


「…湖。」




側近の怒りのオーラにたじろぎながらも答えるラオ。


休憩なんてさせてもらえるはずもなく、執務室に連行されたかと思えば執務机に座らせられて懇々と諭し出す側近は余程頭にキていたのだろう。


ちょっとでも身じろぐだけで「聞いていますか?」と叱責されている姿はあまりにも可哀想過ぎた。


肩を落として項垂れるラオを後ろから抱き締めてやれば甘えるように擦り寄ってくる。




「ごめんなさい。今回はあたしも悪かったのよ。」


「リールァ様も、ですか…?」




不思議そうに目を瞬かせる側近に強く頷いた。


あたしの曖昧な態度は魔王を苦しませ、普段ならばしない行動を取らせてしまった。


追い詰めてしまっていた原因があたしであるならばラオが怒られるのは間違っていると思う。




「まぁ色々あってラオを追い詰めちゃってたみたいなのよ。多分、今回はそれが原因だと思う。…もう起きないし、ラオもしないって約束してるわ。」


「……仕方ないですね。」


「ありがとう。」




ふっと息を吐き出した側近に苦笑と感謝の意を示した。


許してもらえたことにホッとしたらしく、ラオもやっと肩から力を抜いて側近を見上げている。


やらなかった分だと書類を執務机に置くと「これが終われば今日の執務はもうありません。」と穏やかな笑みを浮べて側近は出て行った。


さっそく羽ペンを持って書類と向き合う様子を後ろからぼんやりと眺めていれば、「出来る限り、早く済ませる。」なんて真面目な顔で言って文字を目で追っていく。


黒髪を優しく撫でつつ肩から腕を回して抱き締めた。




「…夜、星を見よう。今夜はきっと、よく見える。」




サインする手は止まらないが、そう言った声は優しげで。「楽しみだね、」と返すと大きな体が音もなく揺れて笑う。


何枚も、何枚も、書類が片付けられていった。


ラオ自身も楽しみにしているらしく黙々と執務をこなし、二時間ほどかけて漸く終わらせることが出来た。その頃には日も落ちて外はだいぶ暗くなっていたがラオは疲れた様子も見せずに立ち上がる。


手を引かれて少し早めの夕食に向かえば廊下で擦れ違う人々から祝福の言葉を投げかけられた。


夕食も何時もより豪華で、なんでこんなにと首を傾げていたあたしに侍女が笑顔で話しかけてきた。




「お祝いですよ。リールァ様と陛下の。」




婚約者ではあるけれど恋人になっただけでこれだけ祝われては、結婚したときはどうなってしまうのだろうか?


ラオを見上げても目元を和ませているだけで浮かれる使用人たちを注意する様子はない。


食べ切れないほどの夕食を終えて私室に戻る。




「…ちょっと食べ過ぎたかも。」


「凄かったな。」




軽くお腹に手を当てていると笑いを含んだ声で茶化される。


そう思うなら注意しなさいよとボヤくも、使用人たちの思いを無下にするのかと聞かれてしまえば返す言葉もない。


…あたしが太ったらどうするのかしら?


ふぅと溜め息を零せばやっぱり楽しげに笑って抱き締められる。


マントの中に包まれ、促されるままにテラスに出た。少し肌寒い空気が頬を撫でていったけれどキュッと抱き込まれてしまえば温かな体温で寒さなど消えてしまう。


元いた世界と違って空気に汚れのないこの世界の夜空はどこまでも澄んでいた。


見上げた空には見たこともないほど輝く星たちが集まり、散らばり、時には流れる川のように夜空を横断している。




「…綺麗。」




赤と青の月が優しく照らす世界は昼間とは打って変わって静寂の海に沈み、時折遠くから響くフクロウの鳴き声が時の経過を報せた。


届いてしまいそうなほど間近に迫る星に手を伸ばす。


するとラオはあたしの手に自身の手を重ねて同様に空へと手を伸ばし、開いていた手の平を包み込んだ。




「…欲しいか。」




望むなら取って来るぞと冗談なのか本気なのかよく分からないことを平然と言うのだからどうしようもない。




「止めておく。」


「…良いのか?」


「手に入らないからこそ綺麗なのよ。」




見上げた先にある星空はどこまでも広がっていた。


そんなものなのかと魔王は小首を傾げながらも、やや不満そうに眉を寄せる。




「折角、何か与えられると思ったのに。」


「こら…あたしを物で釣る気だったの?」




視線を逸らすラオがあんまりにも素直ですぐに噴出してしまった。


今まで彼の傍にいた女性や貴族たちはそうだったのかもしれない。でも、あたしは高価な物も地位も興味ないし、欲しいとも思わないわ。


もごもごと言い訳をする魔王の手を握り締める。


この先、何年、何十年と共に過ごすのだからそんな気を使わなくたっていい。




「今、欲しいものはないわ。」


「…欲が無いな。」


「自分の手で持てるだけあれば十分よ。」




あたしはラオと違って小さいから、沢山は持てないもの。


魔王は小さく笑うと頬にキスをしてきた。




「…俺も、胆に命じておこう。」




今あるものを大切にして。


大切にしたい物は腕の中に抱えて、


あなたと一緒に過ごして生きたいから。








 

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