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後先考えないのは止めましょう(2)

 






十歳になると世界や国の成り立ちについてを学び出す。


この頃は勉強が主になって、その合間に戦いの基礎を学ぶ。


あたしもこの世界や国の成り立ちを本で読んだけれど、なかなかに難しく、子どもたちも苦戦しているようで何度も先生に質問を繰り返していた。


先生自身も嫌がる事なく子どもたちが納得するまで根気強く付き合っている。


そういう努力があるからこそ子どもたちの学力は伸びるのだろう。




「ねーねー、リールァ様って魔王様の‘こんやくしゃ’なんでしょ?」




傍にいた女の子があたしのドレスの裾を引いて見上げてきた。


理事が注意しようとしたけれど「良いの。」と止め、女の子と視線を合わせるように屈み込む。女の子はとても可愛らしい顔立ちをしていて、耳があるはずの場所には猫科の動物のものらしい耳がヒョコリと生えている。




「えぇ、そうよ。」




頷くと、脇から男の子が来て「‘こんやくしゃ’って何?」と小首を傾げた。




「将来、‘けっこん’する約束をした人どうしのことよ。」


「じゃあリールァ様は魔王様と‘けっこん’するんだ!」




女の子の言葉に男の子は凄い凄いと輝く瞳であたしを見る。


…覚えのない内にされた約束だけどね。


うんともいいえとも言えなくて笑って誤魔化したけれど、女の子は真っ直ぐな瞳で聞いてきた。




「どうしてまだ‘けっこん’してないの?」




不思議そうな表情に苦笑する。


確かにラオは美形だし、性格も悪くないし、お金持ちだし、それこそ悪い所を上げる方が大変なくらい完璧な人だ。




「そうね。でも結婚ってうんと大事なことだから、簡単に決めちゃいけないのよ。」


「リールァ様は魔王様のことすきじゃないの?」


「うーん、好きだけど、結婚するための好きかどうかはまだ分からないわ。」




あたしの言葉に大きな目を更に大きくさせて驚く女の子。目が零れ落ちてしまいそうだ。


けれどすぐに「魔王様はリールァ様のことだいすきなんだから、結婚してあげないと魔王様がかわいそう。」と反論されてしまう。どうやらあたしに対するラオの態度は城下の学校にまで広がってしまっているらしい。




「リールァ様は、ぜったい魔王様とけっこんしなくちゃダメなの。」


「どうして?」


「貴族の子っていやな子がおおいもん。貴族の子が王妃様になるのはいや。」




チラリと理事を見ると困ったように眉を下げていた。


どうやら一般の魔族と貴族との間には何か溝があるみたいだ。


女の子は友達らしき別の子どもに呼ばれると、あたしに手を振って走り去ってしまう。


立ち上がったあたしに理事は何とも言い様のない顔で目を伏せ、声を落として言った。




「私たちただの魔族と貴族とでは法も立場も異なります。どれ程力が強くとも生まれによって全てが決まってしまいます。」


「つまり貴女方は貴族に逆らえない、ということですね?」


「えぇ。あんな小さなうちから貴族と平民は分けられるせいか、平民の子を苛める貴族の子も多くて…。」




なるほど、それであの女の子は貴族を嫌がっていたのね。


地位だけで差別が生まれているのは良くない。今はまだそれほど目立ってはいないけれど、いずれ時が経てばそれも崩れてしまうだろう。


平民の中にもしも力の強い者が生まれてしまえば反乱する者が現れる。それは国にとって最もよろしくない事態だ。


…何とかしないといけないわね。


ちょっとした羽伸ばしのつもりが政治に繋がってしまい溜め息が漏れる。


いくら魔王の婚約者とは言え、所詮他人であるあたしが口出しできるものかしら?王妃であればそれなりに権限はあるだろうけれど、そのためだけに結婚しようと思うほど正義感が強いわけではない。


何とかしたいと思う気持ちと放置してしまいたい気持ちの板ばさみ状態だ。




「暗いお話は止めにしましょう。折角ご見学なさっているのですから、今この時を楽しんでくださいませ。」


「…そうですね。」




暗い雰囲気を振り払うように理事が笑う。




「次は十二歳、この学校の最高学年の教室を見ましょうか。」


「はい。お願いします。」




歩き出した理事とあたしに、侍女と数人の護衛がついて来る。


最高学年は丸々一つの校舎を使っているのか渡り廊下を抜けて別棟に移ると、そこかしこから騒ぎ声や何かが爆発するような音が響く。下の学年よりもずっと騒々しい様子に笑ってしまった。


一つの教室から煙がもくもくと上がると何人かの生徒がワッと飛び出してくる。




「だから違うって言っただろ?!」


「煩いなぁ!お前だって試してみろって言ったじゃんか!!」


「ってかどーすんだよ?実験やり直しじゃん!」




広がった煙の中から言い合いをする少年たちの声と人影が現れる。


それぞれ独特な姿をした三人の少年は、目の前に立っていた理事を見て悲鳴に近い声を上げた。




「「「げっ、理事長先生?!!」」」


「げっ、じゃありません!何をしているのですか、貴方達は!!」




腰に手を当てて憤慨する理事の前で三人の少年は互いの顔をチラチラと見ながら、どうする?どうするか?とヒソヒソ話し合っている。


理事の様子を見ていたが、どうやら彼らは授業を抜け出してこっそり別教室に隠れて何やらやっていたらしい。


先程の言葉からすると何か実験をしていたが失敗してしまったのだろう。


げんなりした顔で理事からお説教を受ける三人に思わず笑ってしまった。


そこで漸くあたしの存在に気が付いた彼らはキョトンとした表情で理事の向こう側から顔を覗かせ、驚きと多くの好奇心を滲ませた瞳であたしを見つめた。




「もしかしてリールァ様?!」


「うっわー、俺初めて見た!」




パッと表情を明るくして寄って来た三人に理事が溜め息を零す。


そんな彼らが城で留守番している魔王と重なり、あぁやっぱりラオってば子どもと同じじゃない。なんて笑ってしまった。





 

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