3.皇帝と愉快な側近達(3)
三章最後です。
「あんたがこの子の家庭教師だよ」
「何故ですか?」
私の人付き合いの悪さは宮廷中で有名だ。彼女なら、「ちっちゃいんだからいっぱい遊ばせとけー」とか言うはずだ。私には彼女の意図が全く理解できない。
皇帝は珍しく真面目な表情でこう言った。
「確かにマリーはこの子を育てるのに一番良いと思うよ、あの人ホントに良いお母さんって感じだから。でもね?」
いったん言葉を切り、軽く咳ばらいをする。
「この子・・・アカリちゃんだっけ?はあんたの部屋に現れたんでしょ?そうなんだったら、アカリちゃんが元の世界に帰るためにはあんたの力が必要なんじゃない?」
確かに・・・アカリには誰かの手によって召喚された形跡がなかった。レベルの高い魔術師が証拠を隠滅したか・・・そんなはずはない。これでも魔法学校を首席で卒業した身だ。恐らく自分の勘を信じた方がいいだろう。
女装趣味な間諜は悔しさで顔を歪ませながらも、彼女の言葉には納得したようだ。アカリも落ち着いた態度で話を聞いている。
皇帝はアカリの眼をひたと見据えた。
「アカリちゃん・・・確かにサレルは生真面目だし、なのに部屋汚いし、足癖も悪いけど・・でも言った事は絶対に守るから。信じてあげて」
・・・前半の言葉はスルーするとしよう。アカリは重々しく頷いた。その幼い顔に、決意が見える。小さいながらも現実を受け入れようとしていた。
私に何が出来るのかは、正直言ってわからない。だが、彼女が辛い時に側にいること位は出来るはず。故郷に帰りたくても帰れない・・・・私はその辛さを知っている。
・・・彼女が元の世界に帰れるように、そして少しでも辛い思いをしなくて済むように、全力を尽くすと心に誓った。「よし・・・・握手でもしたら?ほら、これからよろしくってことで」
皇帝がいつもの様に明るく微笑み、少し離れていた私達の体をを引き寄せた。私もアカリも少しふらつく。
私はアカリの黒い瞳を真っ直ぐに見つめた。彼女は少し後退りしたけれど、小さな頭をあげて見つめ返した。
そして・・・私は自分の右手を差し出した。彼女も小さい手を差し出し、互いの手を握りあった。
・・・不意に、アカリがクスリと笑い、こう言った。
「サレルの手って、すごい細いんだね」
「・・・・」
何も言えなくなる。
・・・・小さい手と細い手。握手は決して強いものでは無いけれど、心はしっかりと支えてやりたい、そう思った。
「サレル、ちょっと話が」
自室に戻ろうとすると、皇帝は私だけを呼び止めた。アカリにはカインと共に(あの怖い女装男も)待っていてもらうことにする。
「何でしょうか?」
「いやぁ・・・言っておきたいことがあって」
彼女はムフフと笑う。
「もうちょっとさ・・・素を出しても良いと思うよ?アカリちゃんもいるんだし」
「えっ」
「そんだけ!スィーユー!」
「可愛い可愛い可愛いっっ!!!」
「やめなさいローラン。はしたない」
「だってだって!」
「わかったわローラン。この子と結婚しなさい」
「ありがとーシーラ!!」
「ふふふ・・・これでサレルちゃんはアタシのもの」
「・・・・(怒)」
部屋からでると、側近三人組が揃って変な話をしていた。アカリは何故か楽しそうに笑っている。
外の青空を見て、私も彼女につられて微笑んだ。
お付き合い頂きありがとうございます。