3.皇帝と愉快な側近達(2)
側近二人目登場です。
「失礼致します」
立ち上がり深く頭を下げると、彼女・・・皇帝は大口を開けてアハハと笑った。
「サレルってさー、なんか最近丁寧な仕草が板についてきたと思ったけど・・・やっぱまだまだって感じ?」
「・・・申し訳ございません」
「謝らない謝らない。・・・というか、新境地開いちゃった?」
そしてアカリを指差す。
・・・彼女の言いたい事は分かる。否定したいが、相手は皇帝だ。何も言わない。カインとアカリは「新境地」の意味を考えているようだ、今更。 「それにしても・・・かーわいいねぇ。ちょっと、お嬢さんこっちおいで」
彼女が手を差し出すと、アカリは戸惑いながらも部屋の奥に進んでいった。皇帝は相変わらず人懐っこい微笑みを浮かべていたが、不意に顔を少し歪めた。でもすぐに笑顔を取り戻す。
「私はマナリーネ・キャッツアレ・ルーナ=レア。お見知りおきをっ」
それにしても・・・普段彼女は初対面の人にこんなに積極的に接する事は無い。でもこんなに積極的なのは、アカリの可愛らしさ故か。
皇帝がアカリに手を差し出すと、アカリもおずおずとその手を握り返す。
「やぁ・・本当可愛い。可愛過ぎる・・・あっ」
思わず後ろを振り向くと、そこには銀髪を短くカットした美しい女性が立っていた。右手にはティーセットの載った盆を持っている。嫌な予感だ。
ティーセットを持った女性は妖艶に微笑む。
「お茶をお持ちしました!サレルちゃん、アタシの事見て!」
語尾にハートマークが付きそうな話し方をされて、私は少なからず寒気を覚えた。「ちゃん」付けなんて親にもされたことが無い。
「ありがとぅー!」
皇帝もハイテンションだ。・・・女性は実は皇帝側近の男だ。女装趣味で一日の殆どを女装して過ごしている。しかも私にやたらとアプローチしてくるので、かなり厄介な存在だ。しかも私に近付いた女性にケンカを売る。彼は力はさほど強くないのだが、その威圧感からたくさんの女性に怖がられてきた。それでも彼の類い稀なる諜報能力は少なからず役に立っているので、こうして皇帝の側近をしているのだ。
そんな彼はテーブルにお茶を置くやいなや、アカリをものすごく恐ろしい眼差しで睨んだ。
「あんた何サレルちゃんに媚び売ってんのよ!!あんたみたいなガキにサレルちゃんが興味持つわけ無いでしょアタシのものなんだから!!」
アカリは青い顔で怯えている。無理も無い。怖い目つきで睨まれながらこんなことを早口でまくし立てられたら子供は平気な訳が無い。
「まあまあ・・・子供にケンカ売っちゃ駄目だよ?」
皇帝はそう言ってお茶をがぶ飲みした。そして砂糖菓子をつまむ。
「思ったんだけどさぁ・・・どうすんの?この子」
突然本題に戻り、私は少し戸惑いながら答えた。
「掃除婦長のマリー=クワイエルに預けようと・・」
「駄目だよ」
「えっ?」
私だけでなく、その場にいた皇帝以外の全員が声をあげた。
「陛下・・・ではどうしろと」
冷静さを保とうとするも、少し声が震える。
「どうしろって・・・あんたが面倒見んの」
皇帝は真っ直ぐな眼でこちらを見つめる。
「あんたがこの子の、家庭教師」
皆が呆然とした。彼女は・・・何を考えているのだろう。
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