2.魔術師とメイド(2)
少女の名前があきらかに。
ちょっと明るくなります。
メイドは大きな緑の目を丸くして呆然としていたが、やがて私の姿を確認するとホッと胸をなでおろした。まだ起きたばかりなのか寝巻姿で、ふだん二つに結んでいる茶色のカールした髪は下ろされたままになっている。
「あっ、サレル様。おはようございますぅ~」
「おはようございます。こんな時間に一体どこへ?」
彼女は大口をあけてあくびをしてから答えた。
「ええっと・・・・・・なんか怖い夢を見ちゃったんです。カステラでできたうさぎに追われて、逃げていたら壁に頭をぶつけて、我に帰ったらここにいました。他にもプリンでできた恐竜とか」
「昨日食べたものと、読んだ本を教えてください」
「確か・・・・・・夜に買い物ついでにカステラとプリンを食べに行って、ベッドの中で「行け異世界」を読んでたらいつのまにか寝てて・・・・・・・ってええ!?」
彼女は今更少女の存在に気付いたらしく、いきなり大声をあげた。
「えっ、さらってきちゃったんですか?駄目じゃないですか!!というかサレル様ってロリ・・・」
「しーーーっ、廊下で人聞きの悪いこと言わないでください、というか私はロリコンじゃないし誘拐犯でもありません」
そしてあたりを見回す。幸い誰も気づいていないようだ。
「しかも、黒髪の可愛い・・・・・あれっ」
話を聞いちゃいない。だが黒髪が存在しないことに気付いたようだ。
「・・・・黒髪って本当にいたんですねー。らい恩が黒髪でしたけど・・・・もしかしてこの子も異世界人?」
「その可能性も否めません」
何故か彼女は顔をほころばせる。一方少女は言っている意味が分からないようで、何度も首を傾げている。ロリコンの意味がわからなくてよかったと、私は心底ホッとした。
「貴女と話したあと部屋に戻ったら、この子が倒れていたんです。おまけに言語もさっぱりでした」
「じゃあ話せないんですか?」
「いいえ。翻訳耳輪があるので話せますが、貴女は耳輪をつけていないので会話はできません」
「ちょっと貸してもらえます?この子と話したいんです」
私は無言でうなずくと耳輪を外して彼女に手渡した。彼女は興奮した様子で耳輪をつけ、少女に話しかける。
「はじめまして。私はサラ=コースティン。あなたは?」
「ミ・・・ミツボシアカリ。ミツボシが名字で、アカリが名前」
そう、と言って微笑むと、彼女ーーーーサラは続けた。
「よろしくね。アカリ、何歳?」
「六歳」
「そーなんだ。妹も六歳なの。もしかして、甘いもの好き?」
「うん。イチゴのショートケーキが一番好き」
「一緒だね。今度、一緒にたべようか」
「うん!」
少女ーーーーアカリの固かった表情は、次第に柔らかくなっていく。
私は安心すると同時にどこかで悔しさを感じ、深くため息をついた。
お付き合いいただきありがとうございます。
あと、評価、感想よろしくお願いします。