2.魔術師とメイド(1)
アクセス頂きありがとうございます。どうやらコメディーに戻るのは次話以降になりそうです(泣)
事件の日の夜はあっという間に過ぎ、朝日が昇る時間になった。
昨夜は結局眠ることが出来ず、黒髪の少女の側で翻訳耳輪を作り直して一夜を過ごした。今のだと、少女の耳には大きすぎるからだ。それに・・・・少女は別の人間に引き渡さなければならない。私はあくまでも魔術師。世話をするのはメイドや掃除婦達の方がいいだろう。彼等は人懐っこく優しい。私なんかよりも、彼女の心を和ませてくれるだろう。
私は箪笥から青のローブを取り出して服の上に羽織ると、乱れた髪を梳かして束ね直した。服装に無頓着な私はよく「ダイヤモンドの原石」と呼ばれる。意味について深く考えた事は無い。
朝食の時間になる前に彼女の存在を誰かに教えなければならない。・・・・ふと頭の中に、あの(大食い)掃除婦のマリーの顔が浮かぶ。事情を話せば分かってくれるだろう。
身支度の途中で、少女が目を覚ました。寝ぼけ眼で部屋を見回し、ため息をつく。まだ現実だと信じたくない様子だ。
「おはようございます」
「・・・・・」
返事はない。昨日の耳輪はまだつけたままなので、言葉が通じないわけではない。私の事を、いやこの世界の事をまだ信じていないからだ。ひとまず、マリーに会わせることにする。「貴女に会わせたい人がいます。ついて来てください」
私が言うと、少女は無言で体を起こした。そして 私の側へ来る。口をつぐんでいる彼女は、泣くのを我慢しているように見えた。目には涙のあとが残り、瞳は暗闇を湛えている。
私は彼女の手を取り、まだ薄暗い廊下を歩きはじめた。
窓からさしてくるわずかな光に照らされる廊下には、人っ子一人いなかったシャンデリアが日光に照らされ淡く輝いている。
少女は私が手を引くままついて来た。相変わらず少女は口もきこうとはしない。ただ黙ってついて来るだけ。
私の部屋の一階上は侍女長などの上級使用人の個室がある。そのさらに上の階には他の使用人たちの部屋だ。彼女の手を引きながら足音をたてずに階段を上がる。誰にも知られずにマリーの部屋に辿り着けそうだ。
・・・・ところが。
静かな廊下に、「ハッ」と言う声がする。辺りを見回すと、曲がり角に一人の女がいた。
そう、昨夜食堂で話した、あのメイドだった。
お付き合い頂きありがとうございます。