11.本音飛び交う歓迎会(1)
久しぶりの更新です。
「んで?ガラスの間は直ったの?」
事態を報告しに皇帝の執務室に来た私達に、彼女は仏頂面で聞いた。
「はい。呪文詠唱と魔法陣の刻印を同時に行い、永久持続で未来永劫破壊出来ない様に致しましたのでご心配いりません。また・・・」
「あーーっ、もー良い」
突然皇帝が悶絶する。
「陛下、お気を確かに」
「もー、魔術師ったらどいつもこいつも難しい言葉ばっかり使いやがって。あー、死ねばいいのに」
「・・・・」
この部屋にいる、師とカイン、そして私は誰一人声を出さなかった。最近彼女は「死ねばいい」を口癖化している。やはりこの国の将来を案じた方が良さそうだ。
「もー疲れたなー」
・・・・陛下、一番疲れたのは私達だと思うのですが、どうか。
「まあ、この件は一件落着ですよ、陛下」
「そうかもね、じーさん」
皇帝は師の事を「じーさん」と呼ぶ。・・・・まあ、良い。
「じゃあ、お疲れ様会でもしない?ついでに歓迎会もかねて。・・・・あっ、でも少人数で良いよ。私と、側近トリオと、サレルとじーさんと、給仕は数人の使用人にやってもらえば?」
実は彼女、人混みが大嫌いなのだ。直属の使用人が少ないのもこの由縁である。
「・・・・いいですね!会場は何処に致しましょう」
テンションの高い師に、皇帝は首を傾げながら答えた。
「そーだね・・・・第一使用人食堂で良くない?」
「なりません、陛下。あそこは使用人の過ごす場所である故、あなたさまの様な方が・・・・」
「良いじゃん」
「ですが・・・・」
「・・・(チラッ)」
皇帝のひと睨みで、カインは黙りこくった。流石は皇帝(実際は、あまり関係無い)。
「決まりだね。じゃ、夕暮れに」
「・・・・アカリ」
第一使用人食堂に入った私は驚きの余り口をあんぐりと開けてしまった。
・・・・なんと、アカリが厨房の調理台に立ち、フライパンで何かを焼いていたのだ!
・・・・・訂正しよう。焼いていたのだ。
「あっ、サレルだ。おひさー。今ね、オムライス作ってんの」
な、何と、六歳で・・・。
私なんか、私なんか・・。
二十八にして、今だにオムレツすら作れないと言うのに・・・!
「・・・・少し、落ち着けば?」
弱冠六歳に、呆れられた私。
「・・・・はぁ、ところで、ガラスの間にヒビが入った時、何処に居たのですか?」
あぁ、と言う顔をする。
「直前までシーラさんと一緒にいたんだけど、途中でサラが通り掛かったから一緒に行けって言われたの。そんで今、料理のお手伝いしてるんだー」
そう言ってニッコリ微笑む彼女。今更気付いた事だが、私は六歳児を甘く見ていたようだ。
「もーちょっとしたら出来るから、楽しみにしててね」
私はそれに答えて頷くと、自分の席に着いた。
第一使用人食堂は五つある使用人食堂のなかでも一番規模が広く、厨房の設備も充実している。その為か、ここは非番のコック達の練習場としても使われている。
華やかな宮殿にはそぐわないシンプルな内装で、田舎から出て来た使用人達の唯一の寛ぎ場所にもなっている、大変多くの人が使用する食堂だ。
「サレル様、お茶ですよ〜」
ほわほわ(?)した声で話しかけてきたのは、久しぶりのサラだった。
「ありがとうございます」
「あの〜、ちょっと隣、よろしいですか?」
私は軽くお茶を啜ってため息をつく。甘めの紅茶の中から僅かに香る、桃の香り。
「・・・・それにしてもサレル様、本当に皇帝陛下と付き合っているんですか?」
・・・・今、紅茶が器官に入った。私は激しくむせ返る。
「・・・・だっ、誰が、そんな、噂を、ゲホッ」
「誰って・・・アカリに決まってるじゃないですか」
・・・・・馬鹿野郎。
「・・・・見えますかね。そんな風に」
「そりゃあそうですよ!陛下はツンデレですからね」
だから・・・何だ。
「そう言う貴女は、どうなんですか?」
「私ですか?・・・・でもメイドですし、ぶっちゃけ警備隊の人達ってみんなゴツいんですよねー。ああ、恋したいなー」
「・・・・はいはい」
こうして話がダラダラと進んでいるうちに、歓迎会の参加者が集まってきた。主賓であるアルバは最後にご到着、だそうだ。
それにしても。
「陛下、来ませんねー」
サラの間抜けな声で、思い出した。もう歓迎会開始の筈である。
そう思った瞬間。
・・・・バタン。
ドアが開き、カインが荒々しい足音を立てて入って来た。それも仏頂面で。
「カイン殿、陛下は?」
「・・・・今、来る!」
怒られた。何故に?
私は苦笑いを返して、ドアを見た。すると、ローランが入って来る。
・・・・腹をよじって笑いながら。
「・・・・は、ははは」
手まで叩く始末。
「ローラン殿・・・・」
「す、すまない。で、でも、お、かしくて」
話にならない。
カインの不機嫌、ローランの大笑いの理由は・・・。
「あっ、陛下!」
サラが声を上げて立ち上がる。
ドアの向こうを見ると、そこには・・・・。
まず、自分の師。
白いタキシードを身に纏い、手には花束。
そして皇帝は、むっつりとしている。
彼女は普段のシンプルなロングドレスではなく、膝より短いミニのドレスだ。
しかも、余す所なくレースのついた、ピンク色。
師は隣でニヤニヤしている。
やっぱり私の師は、奇人だ。