10.宮廷魔術師新旧対決(1)
今回は対決直前までです。タイトルの割には締まりがない・・・・(泣)
「サーレルちゃん!アタシが来てあげたわよ!」
メイド服に身を包んだ銀髪碧眼の美女・・・・もとい女装が趣味の諜報部長シーラがドアをノックもせずに、しかも蹴破って部屋に入ってきた。・・・・もう少し前に入って来ていればその場の空気を崩壊させていた事など気づいてもいないだろう。師がここにいたら叩き潰されていたのにと、心の中で舌打ちをする。・・・・それより、宮廷人がドアを壊すなんて、一体この世はどうなっているのだろうか。
「はあ・・・・何用でございましょう」
「やーん、そんな丁寧じゃ無くても良いのよ?アタシ、サレルちゃんになら殴られてもナイフで刺されても平気!!」
ちなみに私は、マゾが大嫌いだ。
「でねー、ってアンタ、何でここにいんのよ」
アカリが「ひっ」と言って背筋を伸ばした。容赦なくシーラは彼女を睨みつけた。
「何よ、アタシのサレルちゃんを弄ぶ気?やるならローランにしなさいよ!あいつ喜ぶから」
「そ、そんな事してませ・・・・」
「外から見てそうならそうなの!!ねぇ」
返しに困る質問をする・・・・これは皇帝側近達共通の癖(?)である。
アカリは私に目で助けを求めて来た。黒い瞳が潤んでいる。
「まあまあ・・・・ほかならぬ皇帝陛下からの勅命ですよ、皇帝陛下からの」
二回言った所が、重要だ。
シーラはこれみよがしに舌打ちをする。
「・・・・ちっ、分かったわよ。てゆーか、アタシはその陛下の命でここに来たの」
「・・・・陛下の?」
私と皇帝は最近顔を合わせていない。私も私で用事があるし、彼女も彼女で執務に追われている。そんな中、一体何の用事だろう。
「ほら・・・・アンタの先生が来てるじゃない?それで、二人に決闘して欲しい、とおっしゃったのよ。まあ、カインは大反対してて、ローランはアカリと一緒にいられる時間が増えるから良いって言ってた・・・って何?何で悶え苦しんでるのよ!」
・・・・当たり前だ。
何でそんな事をしなければならないのか、と言うかあの気まぐれな破壊神と戦いでもしたら周囲の物が全て大崩壊するに決まっている。当時まだ第一皇女で外に出る事など滅多になかったとは言え、そんな事くらい知っているだろう。・・・・まあ知っていた所で、変わらないとは思うが。
しかもあのローランの反応は一体何なんだ。
「勅命なら仕方ありませんが・・・・何処でやるのですか?」
何とか立ち直って私が尋ねると、彼は当たり前のように真顔で答えた。
「ガラスの間、だけど?」
私は・・・・ズルズルと床に倒れ込んだ。アカリの幼い顔が青ざめ、シーラが満足げに、
「あーん、こんなヘタレな所も可愛いのよ〜」
と言って微笑むのが見えた。
先日舞踏会で華やかな雰囲気に包まれていたガラスの間は、まるっきり違う雰囲気になっていた。
略装姿の貴族達、調理服を纏ったコック、エプロンをつけたままのメイドなどまちまちの身分の人達がガヤガヤと騒ぎ立て、だだっ広い広間の端で勝負の開始を待っている。
一方私と師は、中央に向かい合って立っていた。彼は決闘は大得意な為何やらにやにやと笑っているが、私はそんな彼に怯んでしまい全く余裕が無い。・・・・いつもそうだ。魔力は私の方が高いはずなのに、それに彼は呪文の詠唱無しには魔法が使えないはずなのに、決闘になってしまうとまるで歯が立たないのだ。
・・・・くだらないプライドが余計に緊張させるのだろう。
「これよりローレンス=アルバ対・・・・良いっスか、サレルさん」
「・・・・あ、あああ、良いですよ?」
決闘によって怪我人が出ないよう取り仕切るらしいナリストの声に思わず驚いてしまう。周囲から笑い声が巻き起こって、私はますます緊張してしまった。
そんな所で少し離れていた師が近づいて来た。
「・・・・思えば、お前がまだ十代の若造の頃はよく決闘をしておったのう」
そう言ってから、さらに声を潜める。
「お前はわしがいなかった八年間で、思いもしない程成長した。・・・・だからこの決闘はわしが死ぬ前の最後のテストだと思え。決して、手加減はせんぞ」
ニヤッと笑う。私もその顔に向かって笑い返した。
「・・・・勿論、負ける気がしません」
「それでよい」
そして私達は離れて、しっかりと立った。
なぜだか、今までになかった「自信」が、少しずつ湧いてくる。
「では・・・・始めっ!」
これが、最後の戦いだ。
次、本番です。