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9.その人、語る(2)

9章後半です。

「まるでカグヤヒメみたい・・・」

隣でアカリが謎の言葉を呟いた。



「その青年は眠っていた。長い金髪を一つに束ね、見ているだけで生気を失ってしまうかのような美しさ。雪の様に白い肌にはシミ一つなかったのじゃ。正に人外と言うものよ」

彼は夢を見ているかの様に言った。

「わしは今すぐ目覚めの魔法をかけたい気持ちを必死で堪え、青年が目覚めるのを待った。すると意外な事に、すぐに彼は目を開けたのじゃ」

「・・・・貴方が、起こしたのでは?」

「そうかも知れんな。・・・・彼の目は金色だった。この娘さんの黒髪黒目の様に、この世界には存在しないもの。わしはすぐに彼が人間にあらざる者だと判断した」

部屋の中には彼の声の他に、何も音はない。

「・・・・わしは彼に何者かと聞いた。すると、『この世に存在する魂を司る神』だと答えた。空気を振動させて伝える声では無く、頭の中に響く美しい声でだ。・・・・それから彼はこう言った、『そなたは三つに分断された魂の繋ぎ手だ』と」

「・・・・三つに分断された、魂」

私は呟いた。幼い頃から村でも何度も学んできたが、魂は一人一つで、個々が独立しているらしい。

そんな物を三つに分断するなど、考えもしないのだ。

「そう、もともと一つであった魂が何らかの理由で三つに分かれ、今は三人の人間として成り立っているようなのじゃ。今は良いのじゃが、その三つは非常に不安定で、時を見つけて結合させなければならない、と神は言った。ああ、・・・・こうとも言っておったな。・・・・分かれている三つの欠片が悪しき者の手に全て渡ってしまえば、その者が強大な力を手に入れてしまう、と」

・・・・世界が歪む前に、人間の手でそれを阻止する、と言うことか。そもそもその三人の手がかりが見つからない事には、何も出来ないかと思うが。

「神はまた言った・・・・わしの魔力は、この任務を果たす為に、ただそれだけの為に存在する。わしが九十八年と言う長い生涯を送っているのも、まだその任務を果たしきれていないからだと」

「『だけのため』って、どういうこと?」

久しぶりにアカリの口から言葉が出た。純粋に疑問に思ったのだろう。

師はアカリを見て優しく微笑んだ。何処か、寂しさの様なものが垣間見える。これがあのいい加減な老人の顔かと疑ってしまう程に。

「いい質問じゃ。サレル、この娘さんはお前よりも物分かりが良いかもしれん・・・・すまんすまん、何もお前を侮辱したいと言う訳では無いのじゃ。話を戻そう。・・・・・『だけのため』と言う言葉には、どんな意味が含まれているか。それは・・・・任務が終わったら、不必要になってしまうと言うことじゃ」

「・・・・と、言うと?」

「わしはあの金髪の神にはっきりと言われたよ・・・・人の生死には、情けはかけられ無いとな」

私が、多分アカリも思ったであろう真実。・・・・信じたく無い。絶対に、絶対に・・・・。

でも、私の師は非情にも、深く息を吸って言葉を紡いだ。

「わしは任務を遂行してしまえば、この世からいなくなる」

・・・・その時、啜り泣く声が、耳に入った。

「・・・・酷い」



涙を流したのは、アカリだった。



「何で、何で死ななきゃなんないの?・・・何で?」

活発な少女は・・・ひたすらに涙を流し続けていた。そう、一人の老人の為に。それを見た老魔術師は、少々驚いた様な顔をして、アカリの頭をそっと撫でた。アカリの漆黒の瞳を見つめながら。

「お前さんはとても心優しい。他人の為に涙を流せる人間など、そうそういないじゃろう。・・・・死ぬ前にこんなに素敵な娘さんに出会えて、わしは幸せじゃ。・・・そうじゃ、何故この子がここに来たことが人ならざる者の仕業だと言ったのかを話してなかったのう。『欠片を持つ者』の三人のうち一人だけ違う世界に生を受けてしまい、何らかの形で残りの二つがその世界に引き寄せられているようなのじゃ」

・・・・引き寄せられている。

・・・・アカリの生きた場所は、異世界・・・。

「・・・・と、言うことは」

私の言葉から一つ間を置いてから、アカリが言った。

「あたしは、その三人の中の一人だって事?」

「恐らく・・・そうじゃ」

調べるのが、余計に難しくなってしまった。でも、今はそんな事を気にしている様な時ではない。




「もうこの話は終わりにしようかのう。・・・・サレル、頼みがある」

「何でしょう?」

「・・・・わしはしばらくここに留まる。無論、娘さんについて調べる為じゃ。この子の魂が奪われてしまうのは、嫌じゃろう?」

「・・・・当たり前です」

魂を奪われたらどうなるのか、想像もつかないが。

「わしに、協力してくれるな?」

真剣な表情。子供の様に、澄んだ瞳。十歳の時からずっと背中を見てきた人。

・・・・だから、信じても、良いと思えた。

「勿論」

私は決意をこめて、深く、深く頷いた。


お付き合い頂きありがとうございます。

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