8.その人、来たる(2)
今度こそ、新キャラ登場です。
ローレンス=アルバ。
自由気ままな少年時代を送っていた私に目をつけて、両親を説得して故郷である辺境の村から連れ出した張本人。
彼は昼夜無しに文字すらまともに書けない私に一般教養と魔術のコントロールの仕方を教え、それが大体出来るようになると彼の趣味である散歩や旅行|(それも半端な距離ではなく、最も遠い時は旅に出た半年後に帰ってきた)に付き合わせ、彼が起こした問題の責任を負わされるなど、どう考えても自分がただの下僕にしか思えないような生活を送らされた。
挙句の果てに、私が二十歳になると「ワシャもう年寄りじゃ」とか言い出していきなり宮廷魔術師の職をいきなり押しつけてきた。ちなみに私が渋々了解すると、建物から建物へと飛び移るのを半日続ける始末。どこが年寄りだ。
しかもその後は完全放置。「野蛮民の村」と呼ばれているハサバ村の出身である私が高貴な貴族の集まる宮廷で生きていくことがどれほど大変だったかは言うまでもないが、もっと大変だったのは就任当時の私の面倒を見て礼儀作法を教えたカインとローラン|(当時は現皇帝マナリーネの家庭教師)だったであろう。
私の師は自由奔放で我がまま、今いる場所に飽きたら去っていく、そんな人間である。
そして彼が最も得意とすることは・・・・・ありとあらゆる物を壊すことだ。
故に彼は、「気まぐれな破壊神」と呼ばれる。
「宮殿内を一通り探したのですが、見つかりませんでした」
「宮殿の外を探せ。第一部隊は宮殿通りを、その他の部隊は一番街から五番街を。何としてもあの方を見つけ出すのだ」
「はっ」
扉の破壊の犯人である老魔術師を探すため、ナリスト不在|(彼は今日一年半ぶりの休暇で、田舎に帰っている)の今は副隊長の命令で警備隊の一部は捜索隊を組み、動き始めていた。
私は門を直すため、陽門の目の前に立つ。
・・・・酷い有様だ。創作した職人達が苦労したであろう装飾の数々は粉々に砕かれ、門の骨組みは元の形を留めずぐにゃぐにゃになっている。
「随分と派手にやりましたね・・・・あの方は」
まだ壊すだけならいい。魔術でこの鉄の建造物を直す事など私にとってはたやすい。しかしご丁寧に、魔術防止の結界まで張られているという徹底ぶりだ。
警備隊副隊長|(名前は忘れた)も飽きれ果てている。
「・・・全く、昔からあの人はそうなんだ・・・あなたからも言ってやって下さい」
そう言われても、場所も告げず全く手紙を出さず、自分から出しても返事すら寄越さないような人の事など、知る由もない。
私はひとまず外側の結界を解くことにした。・・・それにしても、ちょっとした悪戯ごときにしては強力だ。結界解きは私の得意分野だが、正直面倒臭い。
術をかけると、単に結界が外れるだけのはずが・・・・その場一面光に満ちた。今日は曇天なので尚更、私や警備隊の面々は顔をしかめ、目を細める。
「なんだ、これは・・・」
「サレルさん、殺す気ですか?」
「失敬な・・・・」
断じて私のせいではない・・・絶対に。
その光は中々収まらず、妙な輝きを放っていた。明るすぎて、そこにあった門すらも全く見えない。・・・・私が自らの師に対する復讐を誓い、完全魔法解除をかけようとした、その瞬間。
・・・・光の輝きが収まり、現れたのは全くもって損傷の無い陽門と、
「ふぉーっふぉっふぉっ、ドッキリ大成功!!」
声高らかに叫ぶ、深緑のローブを着た白髪の老人だった。
「アルバ様?」
「アルバ様だっ!」
周りにいた者達が、歓喜の声を上げる一方で私は一気に気が抜けて、深い深いため息をついた。
「お久しぶりです、先生・・・・さっきのは何です?また私に責任を押し付けてお逃げになるつもりですか?」
「やー、サレルが喜ぶかなって思ってさー、ホントホント」
「・・・嘘ですね」
「・・・ばれたか」
そういって私の師、ローレンス=アルバは何故かデコピンしてきた。
「痛・・・っ」
確かに殴られたり叩かれたりするのよりは衝撃は弱いが、それでもじりじりと痛みが来る。
「へっへーん。痛いじゃろー」
まるで小さな子供のような声で笑う彼を、私はひと睨みした。だが尚更笑われる。
「そんな些細な事で怒るでない。お年寄りは大切に、じゃぞ」
「・・・・年寄り?それは一体どなたの事でしょう?」
「とにかくわしゃ疲れた。茶が飲みたい。風呂にも入りたい。と言うか腹減った・・・・」
ぶつぶつうるさいので、私は呆然と突っ立っていたアカリと自称老人の魔術師を連れて宮殿の中へと戻った。
彼は当然厄介事の種になるのだが、私はまだ彼が何故今私の元を訪れたのか、その理由を知らなかった。
お付き合い頂きありがとうございます。