7.舞踏会で素敵な夜(2)
いよいよ建国記念日フィナーレです。
ガラスの間。
ここは昼間に日光が反射して美しく輝く。改修を重ねてはいるが、五十年も前から式典や舞踏会で使われている歴史ある建物だ。
・・・・しかしこの建物は、夜が一番美しいと言われている。シャンデリアの柔らかい光がよく合っている。
そしてこの月夜の晩に、建国記念に因んだ貴族達による舞踏会が行われているのだ。
やはり舞踏会の時間には間に合わなかったようで、私達を捜そうとしていたらしいカインとばったり廊下で出くわしてしまった。カインもグレーのタキシードに身を包んでいる。
彼は私を上から下まで覗き込むように見て一言、
「シーラに似てきたようだな」
と呟いた。
失礼な・・・・そう言いたかったが我慢する。
「私がさせたんだよ、可愛いでしょう?・・・あっ、他の人達にはまだ内緒ね」
皇帝は自分の唇に指を当てる。可愛らしい。
「仰せのままに・・・ところでサレル、あの娘は今日ローランの部屋に泊まると聞いたが本当か?」
「そのような事は一切聞いておりませんが」
私は即座にこう答えた。本当は、「あのロリコン貴公子め・・・」と言いたい所だったが、やはり我慢する。
カインは渋面を崩さなかったが、ほんの少しだけ笑ったような気がした、何故か。
「まあ良いんじゃない?今日は記念日だしっ!!」
やけにハイテンションな皇帝は跳びはねながらこう答えた。
「・・・・っ、陛下、いけません」
「お固いな〜カインは。サレルもなんか言ってやってよ〜〜」
こんな感じの台詞を誰かから聞いた事のある気がする。大変返しに困る言葉だ。
「はあ・・・・ところで、もうそろそろガラスの間へ行きませんか?」
「あっ、いま私の事スルーしたでしょ!酷〜い」
「そうだな。早く行かないと舞踏会がお開きになってしまう」
「なっちゃう〜〜〜」
「じゃあ、行きましょうか」
「・・・・」
結局誰にも私達の正体はばれずに舞踏会は幕を閉じた。面倒臭がりな皇帝はダンスが踊れたらしく、上手くエスコートしてくれたお陰で、ダンスが全く踊れない私も何とか場に馴染む事が出来た。
・・・・問題は、再び皇帝の部屋に戻る途中で起こったのだ。
「何とかなったねぇ〜」
「よかったです」
廊下にはまだ人がいるのでひそひそと話す。
何度か食器などを載せた台車をおすメイドとすれ違った。運よく私を良く知っているサラやマリー、ナリストやカイン以外の側近達とは会わない。
「それにしても、今日は何だかんだ言って楽しかったね。サレルの秘密も知れたし!弟君も見られたし」
レイチェル・・・彼はこの都で何をしているのだろうか。
「ええ、私も楽しかったです。アマール川の夕焼けも綺麗でしたし。・・・八年前を思い出しました」
無意識に出てしまったこの言葉。ずっと胸の中にしまっていた、変わらない思い。
皇帝は切なげに肩を竦めた。
「そうだね・・・・でも一日だけでもあんたと一緒にいられて幸せだった。私は今でも・・・・」
「あーぶないっ!!!!」
ガラガラガラ、と言う音がメイドの甲高い叫び声の後に聞こえた。見ると、銀食器の載った台車がメイドの手を離れ、暴走してこちらへ向かってきた。どうやら押していたメイドは転んでしまったらしく、廊下に倒れていた。
こう言う言い方をすると少し大袈裟かも知れないが、まるで私達を殺そうとするかのように、それは進んだ。
「きゃっ」
皇帝が(珍しく)高い声を上げた。台車は、もうすぐそこ・・・・・私はやはり、無意識に指を鳴らしていた。
・・・・台車がピタリと止まる。
「助かった・・・」
安堵の溜息。倒れていたメイドはとたんにハッと声を上げた。
「・・・・サ、サレル様・・・?」
しまった。
「サレル様が女装を・・?」
「何か悩んでいるのだろうか?」
「でも、似合っていますわ」
「・・・・」
周囲の囁き声。
ばれた・・・・・やはり、ばれた。
「ち、違います!私は、その、その・・・・」
うろたえる私を見て、皇帝がクスクスと笑う。自分で提案した癖に・・・私は焦りと怒りの混じった雑多な感情をごまかすために、野次馬達の列に大股で割って入った。
結局アカリはローランの所に泊まる事になり、私は深夜まで研究に明け暮れた末、再び本の山の中で行き倒れたのだった。
この二人の過去はまた後ほど載せようと思っています。
次回、新しい主要人物登場です。
やはり変人(笑)