7.舞踏会で素敵な夜(1)
夜の舞踏会です。
暴走(?)していたら夕日が沈む時間になってしまったので、私達は宮殿に戻る事にした。
アマール川が夕日に照らされ、キラキラと輝き幻想的な雰囲気を醸し出している。
「一つ提案があるんだけど、聞いてくれる?」
皇帝はふと質問をしてきた。
「なんですか?」
「その・・・・」
彼女は周囲を見回した。街なので当然人が歩いている。しかしもう夕暮れなので、ちらほらとしか見られないが。
「ちょっと耳貸して」
そして皇帝は私に「あること」を耳打ちした。
・・・・聞いた時私は彼女をひっぱたきたかった、いや、ぶん殴りたくなった。人に恥ずかしい思いをさせるのが趣味なのか?それとも本当に悪趣味なのか?
「あれ無言・・・・ねえなんか喋ってよ〜」
「・・・怒りますよ」
「えっ怒ってる?ごごごごめん!!!!」
彼女は慌てた様な顔をしているが全然反省していない。
「嫌だとは言わせないよ・・・だーって私こ・う・て・いだもん」
「嫌らしい言い方しないで下さい」
「まあまあ・・・・弟君に見てもらえるかもよ?」
「もっと恥ずかしいです」
確かに私は・・・・恥ずかしいのだが、全使用人女装コンテストで第2位を受賞経験5回だ(ちなみに皇帝の側近の誰かさんは万年1位である)。
使用人長のコンテスト好きのせいで毎月のようにコンテストが行われ、おまけに強制参加なので毎回無理矢理参加させられるため、別に極めている訳ではない。
「分かりました・・・・私達だってばれないようにしてくださいね」
「まっかしといて!」
今私達は、皇帝の私室にいる。皇帝は自分の箪笥の中をまるで引っ掻き回すかのように必死で探している。その一方で私は研究室から持ってきたタキシードの皺を伸ばしていた。
この部屋は先日カインやアカリと訪れた部屋とは違う。あの部屋は彼女が執務を行ったり、他国の賓客を始めとする様々な身分の訪問者を迎える部屋だ。そしてこの部屋は完全なプライベートの部屋であり、一般には側近以外の立ち入りは許されていない(と言っても側近達は皆男なので、立ち入る事はほぼ無いが)。
それだけに・・・・彼女の趣味が良く表れている。執務室に比べてぬいぐるみの数が多い。
「あったあああああー!!!」
突然彼女がものすごく大きい声を出したので、私の体が少しびくついた。
「これこれ!!少し前に父上から貰ったドレス!」
皇帝がばっと箪笥から出したのはマリンブルーのローブデコルテだった。布の艶がいいのか、光っている様に見える。
明るい色の割には、レースの多過ぎない落ち着いたデザインだ。
普通なら感心するはずだが、私は深いため息をつく。
「本当に・・・・これを着るんですか?」
「もっちろん!」
そう、彼女がした「提案」は、
・・・・私が女装、彼女が男装をして舞踏会でダンスを踊る、というものだった。
「大丈夫!これを着て化粧バッチリにすれば絶対ばれないって」
そういう問題じゃない。
「かわいーっ!!」
皇帝が高い声で叫ぶ。
「サレル、超プリチーじゃん!!」
私自身、鏡を見て唖然とした。彼女が施した化粧の効果なのか、私が男だと言う事が見た目だけでは微塵も感じられないのだ。白い頬は若干赤みがさし、細い目は少しばかり大きくなっている。
「・・・・締め付けられて痛い。陛下もタキシードお似合いですよ」
彼女は別室で着替えて来たのだが・・・・普段している微量の化粧を落としたようだ。しかしもともと端正な顔立ちをしている為、さほど気にならない。
綺麗な短い銀髪が、黒いタキシードのためますます際立っていた。
「そぉ?・・・・これならアカリちゃんにもばれないかもね」
アカリとローランには宮殿に帰ってきたばかりの時に会った。ローランには舞踏会が終わるまでアカリの面倒を頼んでおいた。彼は「この子の為なら夜中まででも!」と言って喜んでいたので、心配なさそうだ。
「危ない危ない・・・・髪の毛やらなきゃ」
そう彼女が言った瞬間、拡声器からカインの声が響いた。
「間もなく舞踏会開始です。参加する方は至急お集まりください」
なんとも事務的な連絡だ。
「もう行かないとまずいですね」
私の声に、
「大丈夫、万が一の時はこっそりカインに言って途中参加」
普通に言った。
皇帝がそれではまずいだろう・・・・私は彼女に髪をいじられながら、呆れていた。
サレルは自分では気付いていませんが相当な美形です。でもヘタレ。