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6.お祭り騒ぎで暴走中(4)

6章最後です。


アマール川。

都の中心部を流れる川なのだが、地元の市民団体が「子供たちに遊ぶ場所を残そう」と言うスローガンで植林活動を始めたため川の周辺には緑が広がっている。だからここは庶民の憩いの場として、天気のいい日は人がたくさん集まるのだ。

そして余談ではあるが、この川にはあるジンクスがあるという。



私はテイクアウトのレストランで少しばかりの食事を買い、市場で何本かの酒と|(あくまで皇帝のため)果物を買った。

川へ着いてから、魔術で敷き布を作り出し、その上に買ったものを置いて二人の人間が座れるだけのスペースを作る。

「綺麗だね、青空ー」

そう言って微笑む皇帝の銀髪が風で揺れる。

ふと見上げると、確かに雲ひとつない空が広がっていた。川の向こうの民家にかかった洗濯物が穏やかな風に吹かれている。

もう春なのか・・・・・私は今頃になって季節を思い出した。宮殿の自室に引きこもっていると、どうしてもそういった事を忘れてしまう。

「座ってもいい?」

「ええ。どうぞ」

私と彼女は二人で腰掛ける。・・・距離が一気に縮まるのを感じた。

彼女はおもむろに袋からサンドイッチを取りだし、一つを私に差し出した。いまいち物を食べる気がしなかったのだが、皇帝の頼みとあらば仕方がない。私は一言礼をいって受け取った。

「一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

私は今朝からずっと気になっていたことを彼女に尋ねようとした。

「何?」

「陛下は何故、私を誘ったのですか?」

彼女は「ん?」と言って一瞬考えるしぐさをすると、こう言った。

「なんとなく、かな?」

なんとなく、って・・・・と突っ込みたくなるのを堪える。それ以外に、どんな理由があろうか?

そんな私の心の中など気にもせず、気が付いたら皇帝はサンドイッチをほおばっていた。

「あっ、これ美味しい!サレルも食べなよ!」

私は無言でサンドイッチを口のなかにいれた。ベーコンにレタスという単純な組み合わせではあったが、レタスは新鮮でシャキシャキと音がたち、ベーコンも噛むたびに香ばしい味が広がる。さすが有名な店で買っただけあって、なかなか美味い。

「おいひいれすれ(おいしいですね)」

「ばーか・・・・食べながらしゃべんないの」

しまった。

「ほんっとに、昔と変わらないんだから、サレルは・・・・・ちょっと、拗ねないでよ。ごめんって」

彼女にくすくす笑われて、思わず赤面してしまった。皇帝はいつもそうだ・・・・嘘で塗り固められた「私」の中身を見ている。

「・・・・そういえば、ローランとアカリはどうしているのでしょう?」

あわてて話をそらした。

「あの二人は、うーん・・・・街探検でもしてるんじゃないの?あの子まだこっちに来て日がたたないから、よくわかってないだろうし。今頃はどっかでご飯を食べてるんじゃないかな?」

彼女は何か思い出したようで、続けた。

「この前アカリちゃんがマリーんとこで掃除してた時に、たまたま会ってちょっと話したんだけどね、あの子私のこと、”死んだお姉ちゃんに似てる”っていったの」

「ああ、彼女は姉を亡くしたって言ってましたよ。確か・・・・タマキと言う名前だった」

皇帝は目を細め、切なげな顔をした。・・・・何だろう、寂しさが伝わってくる。

「幸せだったんだろうね、そのタマキって子。あんな良い妹を持って。・・・でもアカリちゃんは寂しかったんだろうね。お姉ちゃんが早くにいなくなっちゃって」

そうかもしれない。・・・でも。

「いなくなって寂しくなるほど、いいお姉さんだったんじゃないですか?」

「・・・そうだよね」

彼女は安心したように軽く笑んだ。

「サレルはアカリちゃんの事、どう思ってるの?」

深い青の瞳が私を見つめる。

「あの子は、私に似ているようで、似ていない」

私は思ったままを率直に話した。

「あの子もやはり無理をして今の環境に馴染もうとしています。でも私と違って、涙も流さず、自棄になったりもせずに、笑顔でいます・・・周りに迷惑をかけたく無いのでしょうね」

少し声が自嘲気味になってしまった。

・・・・言い終えた所で彼女はハハハと身をよじって笑い出した。涙まで流している。

「・・・何が可笑しいんでしょうか」

「ゴメンゴメン・・・・いやー、サレルも人の気持ちがわかるようになったんだなーって思って。師匠さん喜ぶよ」

最近ろくに連絡も寄越さず世界中を飛び回っている師匠。彼には「読心術」ができた。「空気読めない」と言われてそれを叩き込まれたが全く出来ず、結局は諦められたのだ。

彼は今頃・・・どうしているのだろうか。

「でもさ・・・あっ、酒」

しまった。

「飲んでいい?てか飲もうよ!!!」

「生憎、酒は苦手なので・・・」

「だいじょぶだいじょぶ!!ほら飲も飲も!!」

「や、やめてください」




酒に弱い私はこの後案の定泥酔状態になった。

皇帝に私のあられもない姿を見せてしまい、さらに少数の目撃者に噂を広められて「宮廷魔術師は酒に酔うと暴走するらしい」と言う事を聞いた町人が私にたくさんの酒を振る舞うようになってしまった。

「お前はそれだからいつまでたっても大人になれないんだ」とある人物に責められたのだが、それはまた別の話。

この二人に「甘々」と言う言葉は似合いません(笑)

次は夜の舞踏会です。

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