6.お祭り騒ぎで暴走中(2)
デート編です(笑)
ルーナ=レア帝国ーーーー「限りない平和の国」と呼ばれるようになって一体何年たっただろうか。
この国は資源も豊かな大国で、たくさんの国々と貿易をし経済は潤っている。
・・・ところが。
「えー、挨拶?何言えばいいの?・・・・うーん、今年もまたこの日を平和に迎えられた事を誠に嬉しく思う?私達の生を大地と平和の神に感謝し、皆で喜び合おうではないか?・・・あーちょっと今無理、先サレルやって私その間に考えるから」
グダグダ感を残して先にやらせるのもどうかと思うが、従うしかない。
挨拶はともかく、皇帝は22歳の若さでこの大きな国の政治をしっかり行っているのだ・・・だからといって、一年に一度のこの式典がこんなんで良いとは思わないが。
「では・・・・宮廷魔術師挨拶へ移らせて頂きます」
カインが私に一瞥をくれる。その目は「陛下のフォローちゃんとしろ」と言っていた。
・・・・・そもそも何故宮廷魔術師にまで挨拶の義務があるのだろうか?就任当時はこの挨拶のお陰で恥ずかしい思いをした記憶がある。思い出したくないが。
私は玉座の前でひざまずき、昨年とさほど変わらない言葉を述べた。
「我がルーナ=レア帝国は幾多の歴史を重ねて、幾多の困難を乗り越え、今に至って参りました。その積み重ねで迎えた今日の輝かしい日、私ども帝国民は先祖が作りあげてきたものをさらに美しくなるように精進すると共に、貴女様への永遠の忠義を尽くす事をここに誓います」
これ以上長くしたら・・・ボロが出る。
「皇帝陛下万歳!!」
という人々の声を聞き届けると、私は丈の長いローブの裾を引きずりながら隅へと下がって行った。
皇帝はそれを確認し、ばっと玉座から立ち上がった。
「我、帝国第86代皇帝マナリーネ・キャッツアレ・ルーナ=レア、再びこの日を迎えられた事、嬉しく思う。今日は平民貴族皇族隔てなく、楽しんで欲しい。以上!」
しばらく歓声がガラスの間に響き渡った。それが落ち着くとカインが閉式の辞を述べ、式典はひとまずお開きになる。
ふと思った・・・もしアカリとローランが街に出たら大変注目を浴びるだろうと。しかし心配はすぐに吹き飛んだ。彼はこれでも皇帝の側近である。翻訳耳輪もアカリのを片方使っているし、何とか切り抜けるだろう。
それに・・・あの時私はまだ知らなかったのだ。この日一番に注目されるのは彼女ではなく、この私であるという事を。
「お待たせーー!」
宮殿の裏口で、私と皇帝は落ち合った。
彼女は白いワンピースに身を包み、髪には花飾りをしている。いつもの男勝りな雰囲気とは違い、なんというか・・・・少女のような感じだった。
「本当に良いんですか?・・・私のような者で」
「もちろん、てか誘ったの私だし。今日は皆で隔てなくエンジョイする日でしょ?」
そういってニカッと笑う。
「じゃあさ、早くいこーよ」
と、・・・・私に手を差し出した。
「・・・はっ!?へ、陛下・・・」
予想外の展開に、私は思わずどぎまぎしてしまう。私と陛下は、あくまでも主従関係なのだ。手を繋ぐなど許されるはずが無い。
「いーっていーって、今日は公務とは違うの」
そして、私の手を引っ張りがしっと掴む。じわじわと広がる痛み。
「・・・っ、陛下、お力が強いのですね」
「当たり前じゃん。私武闘派だもん」
彼女はにっこり笑い、私の手を引っ張りながら街へと歩きだした。
「あれおいしそう!」
「わあ綺麗!」
「うっひょー」
デート(?)開始から二時間。私はもう既にへとへとになっていた。
「待って下さい・・・」
声すらあまり出ない。
皇帝は街の景色を楽しみ、美味しい物を食べていた。・・・私がへとへとになった理由はこれだけではない。私達を見た町人達が、高級な酒を振る舞うのだ。当然の事である。この国では町人達は皇族が訪れると酒を振る舞う習慣があるのだから。
しかし・・・・酒豪の皇帝は良いのだが、私は酒に弱いのだ。少し飲んだだけでもめまいがする。かといって、断る訳にもいかない。
「サレル・・・・ははーん、酔っちまったかえ?」
「・・・何処の怪しい老婆ですか貴女は」
「レッツトイレする?」
「吐くなんて一言も言ってません」
いろいろな意味で疲れる。もう少し、まともな会話が出来ないのだろうか。
「あっ、あそこでハンセラスやってる!」
・・・・話をそらされた。ちなみにハンセラスとは、剣士が一対一で、剣の実力を争うスポーツだ。
「見に・・・行きますか?」
「行く行く!レッツらゴー!」
近寄って見ると、二人の剣士が互角に戦っていた。
「ファイトー!!」
ハイテンションな皇帝。その一方で、剣士達の間では切迫感が漂っている。
・・・・だが。
・・・急に片方の剣士が剣を落とした。盛り上がっていた周囲が、急に静かになる。
剣を捨てた男はそのまま観客の間を通ってこちらに向かって来た。
そして・・・・私の目の前で、止まる。
私よりも若干背が低く、若いようだ。筋肉質な肉体に、少し垂れた優しげな目。
そしてその目は、私の目をしっかりと見つめる。
私はその力の強さに一瞬怯んだ。
彼はおもむろに口を開く。
「・・・兄、さん・・?」
時間が、止まった気がした。
弟くん登場させました。突然過ぎてすみません(汗)