5.建国記念で大忙し(1)
建国記念日編スタートです。
私達は宮殿の外に出ることにした。先程より少し雲行きが怪しい。
「ねえ、建国記念の日って何するの?」
ふとアカリがこんな質問をしてきた。
「皇族や貴族達が集まって式典を行います。それからは宮殿や都のあちこちで祭りが行われます。貴族達だけではなく、その日だけは平民も混じって良いため、都は大賑わいです。夜は晩餐会と仮面舞踏会。ざっと言うと、こんな感じです」
そこまで言うと、アカリはぱっと顔を輝かせた。
「舞踏会?って事は、サレルも踊るの?」
「それは・・・」
舞踏会があるたびに壁の華を決め込んでいるなんて、言えない。
「私は一介の魔術師ですから」
またごまかした。
「なぁんだ・・・あのおねーさんと一緒に踊るのかなぁって、ちょっと楽しみにしてたのに・・」
あのおねーさんとは、十中八九皇帝の事だ。実は皇帝も壁の華を決め込んでいるなんて、もっと言えない。しかも理由が「面倒臭いから」だとか舞踏会の最中に抜け出して夜の散歩をしているとか、そのたびに付き合わされているとか、・・・・言えない。
「どしたの?」
アカリが不思議そうに私の眼を覗き込む。黒の大きな瞳で見つめられ、私は我に帰った。
「いえ何も。というかおねーさんではなく皇帝陛下ですよ」
彼女はえっ、と目を見開いた。・・・・無理もない。ルーナ=レアの皇族は気さくで自由奔放だ。だからこそ、国民の人気を得て、平和な大国を代々築き上げているのだ。
「あの人、偉い人だったんだねー。・・・・あたしもなんか準備手伝いたいなぁ。何かやることある?」
思わず私は首を傾げる。
確かに・・・・掃除婦達は宮殿の外でも中でもせわしなく動いているし、今日の夕暮れの賓客到着に備えてメイドやコックも忙しそうだ。しかし、ここに来たばかりの彼女には何もさせない方が得策だろう。でも私も仕事がある。誰かに面倒を見てもらわなければならない。やはりマリーか・・・・。
「やあ、若き宮廷魔術師殿。可愛らしい少女を連れて、何処へお出かけかい?」
甘ったるい男の声が、聞こえる。
目を細めて向こうを見ると、長い銀髪を後ろで結った色男がいた。紫色の服を着ている。
「随分と早いご到着で。ノア殿」
彼・・・ノアは都から少し離れた地方都市を治める上流貴族で、若いながらも地方の政治を安定させている、と有名だ。
彼は薄笑いを浮かべると私の腕を馴れ馴れしく触る。
「君と話がしたくてね。後で僕の部屋に来てもらえるかい?仕事が終わってからで良いからさ。君だけで」
珍しい・・・・貴族に呼ばれる事などほとんど無いのだ。ましてやノアなど、話すことすら少ない。何か重要な事でもあるのだろうか?
「分かりました。日没前にお伺いいたします」
「わかった。ではまた後ほど」
彼は軽く手を振ると、軽やかな足取りで去って行った。
かなり時間が押してしまったので、私は仕事に取り掛かる・・・・前にアカリをマリーの所に預ける事にした。
「良いけど・・・・アカリ、床磨きを手伝ってくれないかい?」
マリーを捕まえて頼んだ所、こう返事が帰ってきた。
「やるっ!」
アカリが威勢よく答えるとマリーは微笑み、近くにいた若い掃除婦にアカリを預けた。
「サレル、アンタは研究の虫だからね・・・・そういえば、ノア様に呼び出しを食らったって本当かい?」
「はい。何の用かはわかりませんが」
マリーは少し顔をしかめた。
「あの方は見かけによらず疑い深いらしいから、アカリの事を何か言ってくるかもしんないけど、アンタがあの子を信じてるんなら、それだけを言えばいいから」
「心得ています」
私は彼女の眼を見つめて笑った。
すると・・・。
「ちょっと!!アタシのサレルちゃんに何してんのよ!!!」
・・・・出た。
側近トリオの一人・・・シーラがものすごい勢いでこちらへ向かって走ってくる。これまた厄介だ。
「では失礼」
そもそも皇帝の側近は暇なのだろうか、というか皇帝は一体何故側近を遊ばせているのか・・・・私は皇帝を心の中で恨みながら、廊下を全速力で駆け抜けた。
逃げ足(だけ)は、早いはずだ。
側近達は暇なんです(笑)