4.はじめてのおおそうじ(2)
四章最後です。
「あっ、サレルさんじゃないスか」
食堂に入った時に声をかけてきたのは、ナリスト=サントラルス。宮廷警備隊の隊長をしている。
筋肉質のたくましい体つきではあるが人懐っこく明るいので、使用人達にはとても好かれている。実力も確かで、剣術にも長ける人間だ。
「警備お疲れ様です」
「いえいえそんなことないッスよ・・・・ああ、この子があの」
「ええ。そうです」
ナリストは驚いたような顔でアカリを見て、こう言った。
「可愛いじゃないスか。こんな子の家庭教師なんて羨ましいっス」
そして顔を赤らめる。珍しい・・・彼は普段、女っ気が無いのだ。小さい娘にときめくということは・・・・。
「ちょっ、変な事考えないで下さいっス!」
「何ですか、変な事って」
私がとぼけて見せると、ナリストはますます顔を赤らめた。
「ううっ・・・・とぼけるなんてガラじゃないッスよサレルさん・・」
確かにガラじゃない・・・が。
「そうですか?・・・ああ、この子はアカリ。ほらアカリ、挨拶しなさい」
放心状態だったらしいアカリは私の声に驚いたらしくハッと声をあげた。
「えっ、えーっと・・・アカリって言います・・・よろしくお願いします」
「よろしくっス」
ナリストも少し緊張した面持ちだ。何故か。
「あーっ、ナリストさんに、サレル様じゃないですか!それにアカリも!」
そう言って食堂に駆け込んでくるメイドがいた・・・サラだ。
「・・・貴女も昼食ですか?」
「はい。というか、そこに立ってないで食べませんか?」
確かに。
「じゃあ、行きましょうか」
私達はいつものように皿に食事を取りはじめた。
「サレルさん・・・本当にこんだけでいいんスか?」
「そーですよ。少な過ぎです」
「あたしより少ないじゃん」
やはり私の食事の量を突っ込まれた。私の今日の昼食は、パン一個・・・だけ、だがこれでも充分だ。私は動かない事が多いから、食事の絶対量が少なくても生活できる。
一方でナリストはパン三個に加え、骨付き肉何本かと大盛りのサラダにスープ。
サラは少し控えめに、サンドイッチを二つとサラダ。
アカリはサラのに加えてデザートの果物を取っていた。歳の割には食べる方らしい。
「気のせいです」
「あんたこの前さー、胃の調子が悪いとか言ってなかったかい?」
いきなり後ろから誰かの声がする・・・マリーだ。
「・・・・いたんですか」
「なんでそんな嫌そうな言い方すんだい」
彼女は少しムスッとしてから、皆に笑いかけた。
「アタシも良いかい?」
そうして食事を持って席に着く。
「マリーさん、掃除婦の人達が困ってたんですよ。どこ行ってたんですか?」
サラにそう言われて、マリーはため息をついた。
「陛下に呼ばれてね。なんでか知らないけどあの側近の・・・シーラに睨まれた」
それは多分、彼女が良く私を心配して声をかけるからだろう。
「陛下にですか?・・・陛下可愛いですよねぇ、特にでか目なところが〜」
彼女はやはりファンシーな妄想をしているらしく、緑の目が輝いている。
「そういえば・・・ナリスト、新入りが入って来たって聞いたけど、本当かい?」
「はい。五人入って来たんスけど、一人凄い逸材がいるんスよ〜」
「将来が楽しみだね」
「その人カッコイイのかなぁ〜」
妄想メイドはやはり違う事を考えていた。
「どうしよう・・・」
部屋に戻ろうとした途端、サラが呟いた。
「どうかしました?」
「午後から、明日の準備があるのすっかり忘れてて・・・」
明日の準備・・・・・。
「・・・・・建国記念の日」
どさくさに紛れて、すっかり忘れていた。
「忙しいの?」
「ええ、とても」
アカリは口をあんぐりととあけて叫んだ。
「大掃除出来ないじゃーーーーん!!!!」
アカリの絶叫が、廊下にまで届いた。
お付き合い頂きありがとうございます。
次から建国記念日シリーズです。