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第9話 歪みの兆し

―騎士団本部・会議室―


「本日の巡回ルートは以上だ」


 ガルドが地図を指す。


「最近、妙な噂が出ているが気にするな」


「任務に集中しろ」


「了解!」


 騎士たちが応じる。


 いつも通り。


 完璧な統率。


 ――のはずだった。


―会議終了後―


「……なあ」


 若い騎士が小声で言う。


「さっきのルートだけど」


「北側、昨日と同じじゃないか?」


「……ああ」


「でも昨日は副官が南を強化しろって――」


「……気のせいだろ」


 笑って流す。


 だが。


 小さな違和感が残る。


―ガルド―


「……」


 ガルドは廊下を歩く。


 すれ違う騎士たち。


「ガルド様、お疲れ様です!」


 いつも通りの敬礼。


「……ああ」


 問題はない。


 何も変わっていない。


 ――はずなのに。


「……」


 何かが引っかかる。


「……くだらねぇ」


 首を振る。


―裏通り―


「……」


 ルークが立っている。


 無表情。


「(配置変更、完了)」


 誰にも聞こえない声。


 静かに、確実に。


 歯車がずれる。


―騎士団・巡回中―


「おい、ここで合ってるのか?」


「……ああ」


「でも昨日は別ルートだったぞ」


「今日はこれでいいって話だろ」


 曖昧な会話。


 小さなズレ。


 だが任務自体は問題なく終わる。


―結果―


「異常なし」


「問題なし」


 報告は完璧。


 被害もない。


 だからこそ――


 違和感だけが残る。


―ガルドの部屋―


「……」


 ガルドは椅子に座る。


「……何も問題はない」


 そう呟く。


「任務も成功している」


「部下も従っている」


「……なら」


 沈黙。


「……なんだ、この感じは」


 胸の奥に残る“ズレ”。


「……」


 思い出す。


 さっきの会話。


「……いや」


「気のせいだ」


 切り捨てる。


―ゼル側―


「……まだだな」


 ゼルが呟く。


「はい」


 リリアが頷く。


「崩壊には至っていません」


「当然だ」


「いきなり壊れない」


 冷静な声。


「だからいい」


「違和感は」


「積み重なるほど効く」


―締め―


 その日。


 何も起きなかった。


 失敗も。


 混乱も。


 すべて“正常”。


 だからこそ。


 誰も気づかない。


 歪みが、始まっていることに。



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