第8話 奪われる信頼
―辺境都市・夜―
雨が降っていた。
騎士団の一人が、足早に路地を進む。
「……チッ」
低い舌打ち。
名は、ルーク。
ガルド配下の中でも、古参の騎士。
「……くだらねぇ噂だ」
そう言いながらも。
足は止まる。
―路地裏―
「……誰だ」
気配。
「誰かいるのか」
「いる」
声が、落ちる。
「――っ!?」
振り向いた瞬間。
そこに立っていた。
黒い影。
「な、んだ……お前……」
目が、合う。
それだけで。
「……っ」
呼吸が止まる。
「契約しろ」
短い言葉。
「……は……?」
身体が動かない。
「な、なんだ……これ……!」
「選べ」
一歩、近づく。
「従うか」
影が覆う。
「死ぬか」
「……くそ……!」
抵抗。
だが、無意味。
「……っ……」
「……従う……」
「……契約、成立」
雨音だけが残る。
―数時間後―
―騎士団本部―
「ガルド様」
ルークが膝をつく。
「どうした」
「報告があります」
顔を上げる。
その目に、感情はない。
「最近の噂についてですが」
「内部からも情報が漏れている可能性があります」
「……何?」
「調査のため」
「一部の騎士の配置を変更すべきかと」
自然な提案。
違和感はない。
「……そうか」
ガルドは頷く。
「任せる」
「は」
ルークは立ち上がる。
そして。
わずかに、口元が動く。
「(主の命令、実行中)」
―ゼル側―
「……入ったな」
ゼルが呟く。
「はい」
リリアが頷く。
「内部の一人、完全に支配下です」
「いい」
「そこから広げる」
淡々とした声。
「次は」
「信頼の崩壊だ」
―騎士団内―
「おい、聞いたか?」
「ルークが配置変えたらしいぞ」
「なんで急に……?」
「さあな……」
ざわめき。
「最近、おかしくないか?」
「……ああ」
小さな疑念。
だが確実に。
―ガルドの部屋―
「……」
ガルドは黙って座っている。
「……ルークか」
信頼していた部下の名前。
「……大丈夫だ」
自分に言い聞かせる。
「まだ、崩れてねぇ」
だが。
どこかで。
理解していた。
「……始まってる」
何かが。
―締め―
「……誰だ」
低く、呟く。
「こんなことをしてるのは」
答えは、まだ出ない。
だが。
すぐそこまで来ていた。




