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第5話 英雄の影

―辺境都市・騎士団本部―


「ガルド様! 討伐完了しました!」


 歓声が上がる。


「さすがです!」


「やっぱり英雄だ!」


 鎧姿の男が、静かに剣を納める。


 ガルド・ヴァルグラン。


 王国が誇る、辺境の英雄。


「……ああ」


 短い返答。


 部下たちはそれだけで満足そうに頷く。


「お前たちもよくやった」


 表向きは、理想的な騎士だった。


 部下を労い、民を守る。


 誰もが信頼する男。


―その夜―


「……チッ」


 部屋に入った瞬間、舌打ちが漏れる。


 酒を乱暴に掴み、あおる。


「……つまらねぇ」


 机に叩きつける。


「また俺かよ」


「また俺が英雄かよ」


 誰もいない部屋。


 だが、声は荒れていた。


「……違うだろ」


 低く呟く。


「本当は――」


 言葉が止まる。


―回想―


「すげぇな、ゼル……」


 かつての自分の声。


「なんでそんなに強いんだよ」


 笑っていた。


 羨望だった。


 だが――


「……なんで、お前なんだよ」


 嫉妬に変わる。


「なんで俺じゃねぇ」


―現在―


「……っ!」


 ガルドが頭を押さえる。


「……やめろ」


「……出てくるな」


 だが、消えない。


「……ゼル」


 その名前を、口にする。


 瞬間。


 背筋が凍る。


「……はっ」


 自嘲気味に笑う。


「死んでるはずだろ」


「十年前に、俺たちが――」


 言葉が止まる。


「……違う」


 首を振る。


「俺は間違ってねぇ」


「選択だった」


「正しかった」


 自分に言い聞かせるように。


「……あいつは危険だった」


「だから切り捨てた」


 だが。


「……それでも」


 心の奥に、残っている。


「……なんで」


「俺が、あいつじゃねぇんだ」


 静かな、歪み。


―外―


「ガルド様はすごいよな」


「王都でも有名らしいぜ」


「次は将軍かもな」


 笑い声が響く。


―室内―


「……うるせぇ」


 ガルドは拳を握る。


「全部、俺の力だ」


「俺がここまで来たんだ」


 だが。


「……なのに」


 どうしても消えない。


 あの背中。


「……ゼル」


 低く、呟く。


「……もういねぇんだろ」


 確認するように。


「……いねぇよな」


 沈黙。


 返事は、ない。

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