第4話 十年後の世界
―王国・辺境街道―
風が吹いていた。
崩れた施設から離れた丘の上。
ゼルは、ゆっくりと歩みを止める。
「……静かだな」
背後では、まだ煙が上がっている。
だがもう、振り返らない。
「ここから先は王国領です」
リリアが淡々と告げる。
「……十年前とは、少し変わっていますが」
「そうか」
興味は薄い。
「説明しろ」
「はい」
リリアは少しだけ息を整える。
「現在、王国は表向き安定しています」
「ですが内部は――」
「王弟派と現王派で分裂状態」
「王弟」
ゼルが呟く。
「レオニス・ヴァルグラン」
「王位を狙う第二王子です」
「裏ではかなりの権力を握っています」
「……そうか」
短い返答。
だがその目は、わずかに冷える。
―街へ―
人の声。
馬車の音。
市場の喧騒。
すべてが、十年ぶりだった。
「……」
ゼルはそれを、ただ観察する。
懐かしさはない。
「ねえ、聞いた?」
「また貴族が出世したらしいよ」
「誰?」
「ガルドって騎士」
ゼルの足が、止まる。
「辺境で魔物討伐してさ」
「今や英雄扱いだって」
沈黙。
「他にもいるよ」
「リシェルって魔導士」
「宮廷に入ったって」
「カインは?」
「あいつは遠征軍のトップだろ」
「エリナも有名だよ」
「聖療院の象徴だって」
笑い声が響く。
「……そうか」
ゼルが呟く。
何も変わらない。
いや――
すべてが変わっていた。
「奪ったな」
静かな声。
「全部」
視線が前を向く。
「……まず一人だ」
「誰から行きますか」
リリアが問う。
少しの沈黙。
「ガルドだ」
迷いはない。
「理由は」
「一番分かりやすい」
短い答え。
「嫉妬で裏切ったやつは」
「一番壊れやすい」
リリアは何も言わない。
―その夜―
宿の一室。
静かな空間。
「……」
ゼルは目を閉じる。
――ふと。
「……っ」
また、あの感覚。
胸の奥の空白。
「……まだ、残っているのか」
理解できない。
だが。
「……関係ない」
切り捨てる。
「全部終われば」
「分かることだ」
静かに呟く。
「……待っていろ」
低く。
「ガルド」
「最初に壊す」




