第10話 小さなズレ
―辺境都市・巡回路―
「本日は第三区画の巡回だ」
隊長が地図を広げる。
「北側の路地を優先して確認する」
「了解」
騎士たちが頷く。
いつも通りの任務。
問題はない。
――はずだった。
「……隊長」
若い騎士が声をかける。
「そのルート、昨日と同じでは?」
「……ああ」
「だが問題はない」
「しかし副官からは――」
言いかけて、止まる。
「……何だ」
「いえ……南側の強化を優先と」
沈黙。
「……どちらが正しい?」
小さな問い。
「……」
誰も即答できない。
―結論―
「……北で行く」
隊長が言う。
「ガルド様の指示だ」
「……了解」
納得したわけではない。
だが従う。
―結果―
「……異常なし」
任務は問題なく終了。
被害もない。
だからこそ。
「……なんか変じゃないか?」
ぽつりと誰かが言う。
「……何がだ」
「いや……」
「なんか、噛み合ってない感じ」
「……」
誰も否定しない。
―別部隊―
「南側巡回完了」
「こちらも異常なし」
「……南もやってるのか?」
「……ああ」
「でも北もやってるぞ」
「……二重じゃないか?」
無駄な動き。
だが、問題にはならない。
“まだ”。
―騎士団本部―
「報告です」
「本日の巡回、すべて異常なし」
「そうか」
ガルドは頷く。
「問題は?」
「……ありません」
少しの間。
「……ならいい」
それで終わる。
だが。
―ガルドの内心―
「……本当にか?」
ふと、思う。
報告は完璧。
だが。
「……無駄がある」
違和感。
「……誰が判断した?」
思考が巡る。
そして。
「……ルークか」
名前が浮かぶ。
―ルーク―
「……」
廊下に立つ。
無表情。
「(侵食率、上昇)」
小さく、呟く。
誰にも聞こえない声。
―ゼル側―
「順調だ」
ゼルが言う。
「はい」
リリアが頷く。
「まだ崩壊には至りませんが」
「いい」
「そのままでいい」
「……?」
「気づかない違和感ほど」
「長く残る」
静かな声。
「そして」
「気づいた時には遅い」
―締め―
その日も。
任務は成功した。
問題はなかった。
誰も罰せられない。
誰も責められない。
だが。
確実に。
“何か”がずれていた。




