その6 「ロックのN」
伊勢に出てきた時、アパートにお世話になったロックの「N」
ですが、いつの間にか伊勢志摩フォークにいたという感じで、
伊勢にある商店街の中の休んでいる店舗の前で、お客さんの
名前を針金で目の前で曲げて作ったり、ビーズのアクセサリー
などを売って生活をしていた。
エレキギターを弾くのだがバンドを組んだことがないというので、
元々私の兄が、プロのバンドのベースマンで興味があったので
ベースギターをやってみることにした。
ドラムを探し出して、練習場所も見つけてやってみたが、ものに
なりそうもなくやめたがそれ以来、「N」とは親しく付き合う
ようになり、いろんな武勇伝を聞くことになる。
無免許で車を走らせていたらパトカーに追いかけられて、信号無視や
一旦停車せずに逃げ回ったそうだが、とっつかまって警察官に
取り囲まれ袋叩きにあったそうだ。
当時の警察官は決して民主的ではなくて、警察官になった高校時代の
友人と正月に賭け麻雀をやったときの話ですが、初めて交番勤務に
なった時、先輩達が酔っぱらいを交番に連れ込んで袋だたきにした
そうで、傷が残らないように腹を蹴るように言われ、一緒に
やるように強要されたと言っていた。
さらに「N」は深夜に伊勢神宮に忍び込んで五十鈴川に
放流されていた錦鯉を盗んで1万円で売るという罰当たりな
ことをやったそうだ。
外宮の放し飼いにされている鶏は年寄りのオスで肉が硬いと言って
いたのでどうやら食べたらしい。
すべて本人から聞いた話ですが、まぁホントかどうかは
わからないけどね。
そんな行動がロックな「N」にも苦手な奴がいた。
路上で仕事をしているのでどうしてもチンピラが絡んでくる
「誰に断って」とお決まりのセリフである、決して手を出す
ことはないのだが鬱陶しい。
商店街の人に「この辺を縄張りにしているテキ屋さんに行って見たら」
とアドバイスを受けたのですが、一人で行くのがおっくうだと言うので
ついて行ってやることにした。
訪ねてみると優しそうなおばさんが出てきて、家に上げてもらい
お茶をだされて拍子抜けしてしまった。
今ではそんなことぐらいでは何も言わないので無視していいと
言われて安心したのだがそうは簡単には行かなかった。
組織の上の言う事を聞かないとんでもないチンピラがいたのです。
そいつは一度、私のアパートに突然やってきた事があるやつでした。
部屋にいるときはいつも鍵をかけていなかったので、いきなり
ドアを開けて上がり込んできて、誰々は居ないのかといった。
おそらく前の住人の事だったのだろうが、こんな奴に付きまと
われたら、誰でも引っ越したくなるだろうというぐらいの凶相で
どう見ても頭が悪そうである。
脅しのつもりなのかエンコ詰めした小指をわざと見せてきて、私が
「知らない引っ越してきたばかりだ」と言っても帰りそうになかった。
怖がったら負けだと思った私は「腹減ってないか」といいラーメンを
作って食べさせてやると一変して機嫌がよくなり当時、私が持っていた
鉄製の本物そっくりの玩具の拳銃を見つけると気に入ったみたいで
「ちょっと貸してくれ後で返す」というので貸してやると喜んで
部屋を出て行った。
もう拳銃は戻ってこないだろうと思ったら返しに来てお礼まで
いったので驚いた。
その後、私が住んでいるアパートの2階の六畳の部屋が空いたので
「N」に知らせると彼女と共に引っ越してきた。
だがしばらくすると彼女が私の部屋に来て「N」が帰ってこないと
言ってきた。
前に一度アクセサリーのお客といい仲になったことがあって、
私にホテル代を貸せと言って来たのを断った事があるので、
そっちに行ったのだろうと思ったのだが、彼女にはそんなことは
言えないので「大丈夫だよすぐ帰ってくるよ」と言っておいた。
しばらくして帰ってきたが話を聞くとあのチンピラに拉致されて
琵琶湖まで連れ回されて逃げられずにえらい目にあったと
言うことだった。
その後見かけなくなったと思ったら、組で何かやらかしてシメられた
という話を聞いた。
なぜ知ったかというと、そこの山口組系の幹部とアルバイト先の酒屋の
大将が知り合いで配達先だった。