その5 「神田川」
1974年3月に2年間務めた防水屋の仕事を辞め、伊勢に
アパートを借りて、リーダーの「H」の紹介で酒屋の
アルバイトをしながらますます音楽活動にのめり込んでいった。
最初はロックファッションに身を包んだ「N」のアパートに
転がり込んでいたのですが、「N」に彼女が出来て、
同棲を始めてしまいました。
しばらくは3人で川の字で寝ていたのですが、リーダーの
「H」が住んでいる近くにアパートが見つかりそこへ
引っ越しました。
そのアパートの前には勢田川というどぶ川が流れ、川向かいには
風呂屋があり、かぐや姫の神田川を思わせるようなところでした。
そこに引越しをして直ぐに酒屋の得意先のラーメン屋の娘に
神田川の映画に誘われた。
そのラーメン屋は家族経営なのですが、昼間は兄弟と妹の3人で
やっていて、夜になると両親が手伝いに来るという店でした。
私はその店に昼過ぎの暇になる時間帯に行って、御用聞きをしてから
もう一度、配達をするのですが、「暑いだろ」と言ってはジュースを
一本、栓を抜いて瓶ごと渡してくれるのが日課のようになっていました。
そしてこの店が配達の最後になるので、いつもしばらくは話をしてから
酒屋に戻っていました。
最初は丸刈りのヤンキーっぽい下の兄ちゃんだったのが、いつの間にか
妹がジュースを私に手渡すようになっていて、たまたま店の外で妹と
出あった時に、映画のチケットがあるので一緒に行かないかと誘われた。
店の前の駐車場には映画の看板が立ててあり、いつも無料券が
もらえるらしく上映していたのがたまたま神田川でした。
特別な感情もなかったのですが断る理由もないので、彼女の休みの日に
私が、アルバイトが終わる時間に合わせて映画館の前で、
待ち合わせることにしました。
その日、酒屋のアルバイトが終わるとあいにくの雨だったのですが、
映画館が商店街の近くだったので、そのまま走っていった。
映画館についたが誰もいない、早かったのかなと思っていたら
大きな看板の後ろに隠れていてヒョコっと顔を出したので、
ホッと安心したのと、ちょっと可愛いなと思ってしまった。
映画は主演が草刈正雄と関根恵子(後の高橋恵子)で、ヒットした
神田川の歌詞とはイメージが違っていて、あまり面白くなかったのだが
彼女は感動したらしく特にエンデイングがいいと言っていた。
映画が終わって近くの喫茶店に入ったら、いきなり結婚に対する
考えを話しだしたので、このまま付き合っていいのか迷ったが、
次の彼女の休みの日のデートの約束をしてその日は別れた。
その後、何度もデートするようになり、休みの日には私のアパートで
帰りを待つようになったのですが同棲することもなく、従って一緒に
風呂屋に行くこともなく、翌年私が京都へ行くことになり、
そこだけは映画と同じように別れてしまった。
今は神田川の歌や映画と共に懐かしい思い出として残っています。
「神田川」 1973年9月 日本クラウン
歌:かぐや姫
作詞:喜多条忠
作曲:南こうせつ