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20 ルグラン領のその後(マルク視点)

「どうして、こんな簡単な作業もできないのですか? マリーなら鼻歌まじりに終えていた作業ですよ」


 父上から領主権限を取り上げられた俺は、薬草学校に雑用として雇い入れられた。

 だが、そこで待っていたのは薬草の選定や素材の下処理、それに書類の仕訳といった地味な仕事ばかり。

 しかも、なにをやっても褒められることはなく、少しでも手を抜くと俺が捕まえそこなったマリーとかいう女と比較される毎日。


「くそっ! これでどうだ!?」


「はあ~、そんな雑に扱わないでください。ポーションの素材はあなたが思っているよりも貴重で、手がかかっているのですよ」


 くそ、こいつはいちいち文句を言わないと死ぬ病気にでもかかってるのか?


「では、こちらでポーションを作ってください。どうもあなたはポーションの価値がわかっていないようですからね」


「はあっ!? なんで俺が!?」


「これもモーリス様からの指示ですよ。ポーションを自分が成り上がるための道具としか考えてない、その価値観を叩き割れとのね」


 くそっ! 父上は一体何をさせようというんだ! 俺だって、薬草学校に通っていた時期はあるんだぞ! 初級ポーションくらい作れるに決まっているだろ!

 とはいえ、だいぶ昔のことだから、思い出しながら自分で選定した素材を刻み、火にかけていく。


「はっ、どうだ!」


「……これは? マルクさん、あなた本当に薬草学校を卒業しているのですか?」


「なっ!? どういう意味だっ!」


「どういうもこういうも、これは低級ポーションではないですか。初級ポーションの素材を使って、低級ポーションしか作れない人を卒業させるわけがないでしょう」


「は?」


「ですから、薬草学校の卒業条件は初級ポーション用の素材から、きちんと初級ポーションを作り出すことだと言っているんですよ」


 こいつの言っている意味が分からない。初級ポーション用の素材を使ったんだ。ポーションになったなら、それは初級ポーションだろう?


「難癖をつけるのは止めろ! きちんとポーションになっているだろう!」


「そこからですか。確かにポーションにはなっています。しかしポーションは素材ではなく、効能によって等級がわかれるのですよ……って、こんなの初歩中の初歩ですよ?」


「だ、だから! これが初級ポーションだろ!」


「残念ですが鑑定魔法でも低級と出ていますよ。……まったく、マリーなら同じ素材で中級ポーションを作りますよ」


「はあっ!? 初級ポーション用の素材だろっ!? 中級ポーションが作れるはずがないっ!」


「本当に薬草学校で何を学んでいたのですか? マリーだけでなく、私もモーリス様も同じように初級素材から中級ポーションは作りますよ」


 嘘だろ? 確かに薬草学校からは中級ポーションが多く販売されていたが、それは中級用の素材を育てているからじゃないのか?


「なら! なんでもっと中級ポーションを増やさなかったんだっ! 中央から求められていたんだぞ!」


「本当に……いえ、あなたの在学中に担当していた教員を調べることにしましょう。質問の答えですが、初級ポーション用の素材から中級ポーションを作るのには魔力が必要だからですよ」


「……魔力?」


「ええ、素材に魔力を通して効力を引き上げる。文字にすると簡単ですが、熟練の薬師でも難しい技です。そうそう本数を作れるわけがないでしょう?」


「……」


 こいつの言っていることが本当だとすれば、マリーとかいう女は……あの上級ポーションを作った女は父上並みの腕前だというのか?

 そんなバカな! だとしたら、やはり是が非でも監禁してポーションを作らせるべきだった!

 なぜ父上はそんな逸材をみすみす逃がすような真似をしたのか!


「バカな考えが透けて見えますよ。言っておきますが、薬師を監禁してもポーションを無理やり作らせるなんてできませんよ。だって、私たちは意志を持った人間なのですから」


「は?」


「あなたもわかったでしょうが、ポーションの作成は手順も複雑で素人では正規の手順かどうかも確認は不可能。だったら、手抜きも異物の混入も容易だとは思いませんか?」


「ぐっ!」


 確かに俺の考えが浅はかだったのはわかる。だが、そんなもの暴力で脅せば……。


「ほーら、また浅い考えが透けて見えますよ。暴力で脅せば簡単に言うことを聞くと思っているでしょう? 薬師なんですよ。ポーション用の素材があれば毒薬だって簡単に作れるんですよ。それも皮膚にかかっただけで体調不良にするレベルのね」


「はっ!?」


「ま、あなたへの罰はそういうことを理解することです。これからもじっくりと薬師について教えて差し上げますよ。あなたが音を上げても終わらない学習地獄です」


 こうして俺は昼は薬草学校の雑用として、放課後から夜にかけては自分がいかに物を知らなかったか、考えなしだったかをじっくりと教え込まれることになった。

 なんでだ? 俺には領主として輝かしい未来が待っていたのではなかったのか?

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