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19 コピク王国のその後(父・義姉・国王視点)

 クソッ! マリーがいなくなってから5年の歳月が経ち、ペルヴィス領はワシの手を離れ代官へと引き継がれていってしまった。

 アラン・ド・ペルヴィスと名乗るのも、あと5年の間だけ……その後は平民へと身分が落ち、ただのアランとなる。

 はじめのうちは平民になろうとも金を稼げばいい、ワシには商才があると思っていたが、現実は理想よりも厳しい。


 いくつかの貴族家からはこの5年の間に絶縁され、ポーションも美容品もなくなったワシの元からはさらに多くの貴族が離れていった。

 今はペルヴィス家の薬草をいくつかの領に卸すことで生活が成り立っているが、妻と娘の浪費癖は治らず平民になれば生活が成り立たなくなるのは目に見えている。

 平民になればペルヴィス領の薬草を卸すこともできなくなるし、新しい商材はまだ見つかっていないのだから。


「お父様っ! なぜ新しいドレスを買ってはいけないのっ!」


「はあ~、だからウチにはそんな金はないと言っておろうがっ! だいたいドレスを買ったとして、どこに着ていく気だ?」


「お金を稼ぐのは殿方の仕事でしょう!? それに新しいドレスがなければ夜会にも、お茶会にも行けないじゃないっ!」


「はっ! 以前の夜会で恥をかいたというのに、まだ夜会に行く気だったとはなっ! 夜会に行きたければ自分で金を稼ぐんだっ! 出来ないのなら夜会に行く必要はない! お前の嫁ぎ先は決まっているからなっ!」


 マリーがいた頃は確かに美容品のモデルとして価値があったから、夜会にもお茶会にも出席させていたが、美容品が販売できない現在ではジュリエットに大金を費やす価値はない。

 エルザもジュリエットもマリーがいた頃は美容品を贅沢に使っていたから、高位貴族に劣らぬ美貌を持っていたが、それも今や形無し。

 商品も生み出せず、宣伝としても価値はない……それでも若い女というだけで、嫁に迎えたいという人間は腐るほどいる。

 今でさえ結婚適齢期ギリギリのジュリエットは、早々に売り飛ばす……もとい、嫁に出したほうが良さそうだ。


「なによなによっ! だったら、わたしがポーションや美容品を作ればいいんでしょ!?」


「はっ! やれるものならやってみればいい。だが、テスターなどいないからな。自分で作ったモノは自分で試すがいい!」


 売り言葉に買い言葉というのは、まさにこのことだろう。ワシだって何も学んでこなかったジュリエットが本当にポーションや美容品を作れるとは思っていなかったが、イライラして言ってしまった。

 これが悲劇を生むだなんて思いもせず。


――――――


 お父様にドレスのおねだりをしたけれど、考えることもせずに反対されてしまった。

 なによ! 前なら月に一着といわず十着でも二十着でも作ってくれたくせに、マリーがいなくなってからのお父様は本当にケチになってしまったわ。

 それに、あの屈辱的な夜会での出来事を引き合いに出して、わたしに金を稼いでこいですって!


 あまりの酷い物言いに、頭がカーッとなってポーションや美容品を作ると宣言してしまったけれど、これは案外名案かも。

 マリーがいなくなってからお父様もお兄様も美容品を使わせてくれなくなって、わたしもお母様も肌は荒れるわシワはできるわで、以前ほどの美貌が保てなくなっているもの。

 それに、あの愚鈍なマリーが作れていたくらいだもの。わたしにだって簡単に作れるはずだわ。


 倉庫に積んである、よくわからない草や石を持ってきて……そうそう、マリーは確か、こういうのを部屋に持ち込んでいたわよね。

 で、確か草も石も、このよくわからない棒と鉢で砕いたり混ぜたりしていたのよね……で、最後に瓶に水と一緒に入れて煮る、やだ! 爪が汚れちゃったじゃない!

 えーと、目を離していたから、よくわからないけれど、ドロッとした液体になっているから完成よね? お母様とわたしで使ってみましょう。


「ねえ、お母様。美容品が手に入ったの。使ってみない?」


「ジュリエット。本当?」


「ええ、これよ」


 そういって、お母様の前に出したのはわたしが作った美容品……わたしが作っても美容品に違いはないのだから嘘ではないわよね。

 お母様もわたしも美容品を使えなくなってから、だいぶ日が経つから以前よりもふんだんに肌に塗りこんだわ。

 だって、こんな簡単に作れるのだもの。お父様に渡す分は、また作ればいいだけでしょ?


「~~っ! なにっ!?」


「えっ!? 痛っ!?」


 お母様とわたしに異変が起きたのは、ほぼ同時だった。最初は手になじむと思っていた美容品だけれど、だんだんとピリピリ……いや、引きつるような痛みが襲ってきたの。

 美容品を塗り込んだ肌は一瞬のうちに赤黒くなり、明らかに異常が見て取れる。


「水……水で流さないとっ!」


「いや、どうしてこうなるのよっ!?」


 お母様は井戸の方に走っていったけれど、わたしは痛みに耐えかねてテーブルに敷いてあった布で反射的に肌をこすった。

 それでも塗り込んだ美容品が完全に落ちるわけではないから、痛みも継続しているけれど、少しはマシになったことで自分の肌を見る余裕ができた。

 そこにあったのは赤いぶつぶつや、老人の肌のようなシミ、しわだらけの肌。

 どうして……どうして、こんなことにっ!?


 一瞬にして気を失ったわたしが目覚めると、お父様から商家の後妻に入ることを告げられた。

 わたしの作った美容品はまがい物……どころか毒薬に近いもので、マリーが簡単に作っていたものすら作れない無能だと言われたわ。

 わたしの肌はポーションでも戻ることはなく、そのまま売られるような形で連れられていった。

 どうして? なにがいけなかったの? そんな思いがグルグルと頭の中を駆け巡っていたけれど、わたしには自分の何が悪かったのかすらわからなかった。


――――――


「ペルヴィス子爵……おっと、もう男爵でしたね。あのような些末な罰でよかったのですか?」


 国王として執務をしていると宰相が話しかけてきた。ペルヴィス……ああ、ラージュ家の血を引く娘をないがしろにして逃がした無能か。


「些末な罰……か。なんだ? 鉱山奴隷にでも落とせばよいと申すのか?」


「国に打撃を与えたのですから、そのくらいが妥当かと」


「はっ! 騎士としての訓練も積んでいないような、ひ弱を鉱山に送ったところで大して回収できんだろうよ。だがな、余はあの者の商才だけは認めておるのだよ」


「商才……ですか?」


「ああ、ポーションや美容品がこれほどに貴族に売れたのは商品が良かったのもあるが、あの者の売り込みがうまかったからだ。鉱山に送るよりも平民にして、商売をさせてた方が税金を回収できると踏んだのだよ」


 鉱山奴隷は確かに運営費用や生活費を除いて、すべての金が国に入るから、短期的には国の収入が上がる。

 だが、劣悪な労働環境に平民以下の生活で、長生きできる者はそうそう居ない。

 逆に平民に落として金を稼がせれば短期的には収入はないが、長期的には税金として金を回収できるというわけだ。


「では、本当にほうっておくと?」


「金を稼げている間はな。あやつが作る商会に関しては税率を高く設定しておるから、普通の商会よりも経営は難しかろうな」


「いつの間に?」


「早々に財務局に指示を出しておいたわ。警備局にも通達を出しておるから、金を稼げなくなった時点で労働奴隷送りになるようになっておる」


「……やはり、お怒りですね?」


「当たり前だろう、奴が与えた損失を思えばな。ま、金を稼ぎ続ければよいのだ。噂では奴はそれが好きなのだろう?」


 余の言葉に宰相は震えておるが、怒りがないわけがないだろう。

 奴がラージュ家の娘を逃したせいで、ポーションの在庫は目減りし、騎士団や薬師から苦情が止まらんのだ。

 せいぜい死ぬ気で金を稼いでもらわんと、こちらの気が済まんわ。

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