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15 指名依頼(マリー視点)/息子の愚行(モーリス視点)

「マリーさん、申し訳ないのですが、貴女に指名依頼が来ています」


「指名依頼?」


 いつものように中級ポーションを冒険者ギルドに卸しに来てみると、受付のお姉さんが申し訳なさそうに言ってきた。

 でも、私って冒険者ギルドに所属してるわけじゃないから、指名依頼されるはずないんだけど?


「私、冒険者じゃないですよ?」


「こちらもそう言ったのですが、依頼人がどうしても、ということで」


「どうしても?」


 この街で私と交流があるのは、薬草学校、商業ギルド、冒険者ギルド、それに市場の人たちくらいだけど、私に指名依頼を出すとは思えない。

 というか、その辺の人たちなら、何かしてほしいことがあるなら指名依頼なんて面倒なことしないで、普通に頼んでくるはずだし。


「指名を出したのは領主様です。なんでもマリーさんに上級ポーションを作成してほしいと」


「はあっ!? 領主様がなんで私に指名依頼を?」


「どこからか知ったのでしょうね。マリーさんが上級ポーションを作成したと」


 薬草学校か、モーリスさん経由で知ったのかな? それにしたって、領主が平民に指名依頼を出すなんて非常識じゃない?


「一応、見るだけ見ますけど。上級ポーションを作成しろだなんて、素材はどうしろっていうんですか?」


「それが依頼は上級ポーションの作成だけで、素材に関しては何も言ってきていないの。こういう場合は、依頼を受ける側が用意するのだけど」


 上級ポーションの素材なんて、街の外……それも魔物の多い山や森に行かないと用意できないのに、たかが薬草学校の学生に頼むなんて。

 しかも何!? 依頼金額が上級ポーションの素材代にすらならないんだけどっ!? こんな金額だったら、普通に冒険者ギルドに卸したほうが高額なんだけど!


「いくら領主様でもあり得ません。そもそも冒険者ギルドのギルド員でもないのに、受ける道理がありません」


「ですよね。こちらからも書類不備として失効扱いにしておきます。マリーさんに見せたのは念のためですから」


「おいおいおい、聞いてりゃ、領主様からの依頼を蹴るなんて、薬草学校のお嬢ちゃんは偉いんだな?」


「ははっ! 冒険者でもないのに指名依頼を出されてるんだぜ? 断るなんてないよなあ?」


 はあ~、またこの二人組だ。私が初めて冒険者ギルドにポーションを販売しに来たときに絡んできた冒険者だけど、顔を合わせると絡んでくるのよね~。

 大体、冒険者じゃないんだから、指名依頼を断るのは普通のことでしょ!


「……話は終わりましたので、私はこれで失礼しますね」


「はい、お気を付けて」


「おいおいおい、こっちの話は終わってねえぞ!」


「そうだそうだ!」


「お二人とも! これ以上、一般の方に絡むようなら冒険者ギルドを出禁にしますよ!」


 受付のお姉さんの一喝が効いたのか、私に絡んできた二人組は、舌打ちをしながらもテーブルへと戻っていった。

 まったく、冒険者なら冒険に出ればいいのに! 私なんかに絡んでないでさ!


――――――


「なに? マルクが冒険者ギルドに指名依頼を?」


「はい。幸いなことに、指名先が断りましたので失態にはつながりませんでした」


 やはりマルクに領主を譲ったのは間違いだったか? そう思えるほどに、ルグラン領の経営はうまくいっていないし、マルクの失態が山積みだ。

 冒険者でもない人間に指名依頼を出す、それがどれほど危険なことかをマルクはわかっていない。

 マリー嬢が断ってくれたから失効扱いとなったが、受領されていればルグラン領では領主が住人に強制命令を出す領として噂されることになる。

 そうなれば、優秀な人間ほど逃げ出すし、新しくルグラン領に来ようと思う人間もいなくなるだろう。


「はあ、他に問題は起こしていないな?」


「それが……街の外れにある廃屋を購入したようです」


「廃屋?」


「はい。業者に聞き取りをしたところ、中の一室は外から鍵をかけられるように改装する依頼がされているようです」


 外から鍵をかけられる部屋など、監禁用以外に使い道がないではないか!

 マリー嬢への指名依頼といい、マルクが何をしようとしているのかうっすらと分かってしまった。

 指名依頼、それに監禁用と思しき廃屋の購入……マリー嬢を監禁してポーションを作成させようとしているのだな。


 マリー嬢にはルグラン領に来るまでの大陸横断鉄道の中で、これまでのこと、実家に軟禁され家族……それも実の父親にポーションづくりを強要されていたことを聞いている。

 その話を聞いたときに、私は静かな怒りを覚えた。領主だからといって、金になるからといって、自分の娘を軟禁してまで働かせるのは道理にかなわぬと。

 それを、よりによって私の息子が同じようなことをしようとしてる? そんなこと許せるはずがない。


「マリー嬢へ警告を出しておいてくれ。それと、冒険者ギルドにルグラン領と関わりが薄い冒険者のリストを提出するようにと」


「はっ!」


 マリー嬢には、マルクが何をしようとしているのかを教えておく必要がある。

 それと併せて、マリー嬢がルグラン領から離れるとなった際の護衛も必要だが、下手にルグラン領にかかわりのある冒険者を雇うとマルクに取り込まれている可能性がある。

 だからルグラン領とは関わりが薄く、それでいて腕の立つ冒険者が必要だ。

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